「ここだけ」の面白い商品、見たこともない作品をどう作る? 〈西淡路希望の家〉二人三脚の創作現場を訪ねて アトリエにおじゃまします vol.05
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カラフルな色使いが目をひくポーチ。
一度見たら忘れない愛嬌のある刺繍が施されたキャップ。
個性的でありながら、どこか親しみのあるカレンダーの数字。
初めて見たのは、奈良県香芝市にある〈GoodJob!センター香芝〉を訪れたとき。全国の福祉施設で作られた商品が集まるショップの中で、私の心を捉えたものの多くには、〈西淡路希望の家〉の名前が記されていました。
いったい、どんな人たちがどんな場所で生み出しているのだろう——。
興味を抱いてしばらく月日が経った後、今回は『アトリエにおじゃまします』のシリーズで、実際に施設を訪問させていただくことになりました。
生活介護の施設でありながら、ユニークな商品やアート作品が次々と生まれる〈西淡路希望の家〉。なんだか名前からして前向きな気持ちになるな、と勝手に妄想を膨らませながら、大阪に向かう電車に乗り込みました。
就労、生活、創作を支える〈西淡路希望の家〉の営み
大阪市東淀川区の〈西淡路希望の家〉は、新大阪駅の隣、JR東淀川駅にほど近い場所にあります。
駅前に並ぶラーメン屋さんやたこ焼き屋さんを横目に歩いて行くと、住宅街の一角に、4階建ての白い建物が見えてました。
玄関の窓には、利用者さんが描いたであろう楽しげなイラストが出迎えてくれ、脇のガラス窓には、施設のものづくりのキーワードとなっている「スーパーハイパースペイシー」の言葉が。扉を開ける前から胸が高鳴ります。「こんにちは」と挨拶すると、管理者の丸山泰典さん、スタッフの金武啓子さんが顔を出してくれました。
おふたりに館内を案内いただきながら、まずは〈西淡路希望の家〉について教えてもらいます。
〈西淡路希望の家〉は、〈社会福祉法人ノーマライゼーション協会〉が1985年に開設した、主に知的障害のある方が通う生活介護事業所。現在70名ほどの方が利用し、「いずれ就労したい」「やりがいのある仕事をしたい」「自分の好きな表現活動をしたい」など個々のニーズに合わせた取り組みをしています。
その分、活動内容は多岐に渡ります。企業や行政から委託を受けている商品梱包やハンガー・ネジの組み立て、提携施設の清掃活動もあれば、絵画や手織り、編み物、刺繍などの創作に力を入れている利用者さんもいるそうです。
そうした活動を、〈西淡路希望の家〉では個人の特性や相性などにあわせ、いくつかの班に分かれて続けてきました。
例えば現在4階で活動する「ステップ班」は、就労を目標にする方々が、軽作業や清掃を精力的に行うチームです。訪れたときは、誰もが知る有名雑貨店の、文具の袋詰め作業をしていました。
そのすぐ下、3階にある「はばたき班」はもう少し緩やかに仕事を行うチーム。受託の仕事に加え、以前は外出もよくしていましたが、コロナ禍になってからは創作活動をする日が増えたといいます。
その隣の「なごやか班」も、仕事や創作活動などをしながら、余暇活動や生活のリズムを整えることに重きを置いた班。また、「あゆみ班」にはさまざまな障害のある方が所属されていて、体を動かす活動や創作活動などの取り組みをしています。
商品づくりから、作品としてのアート制作まで
ここまで紹介した班は、受託の仕事や余暇活動が日々の中心。しかし、「クリエイト班」と「リンク班」はまた少し趣向が異なります。
「クリエイト班」は主に、〈西淡路希望の家〉として販売する雑貨の制作に関わります。ここで手織りされた生地がそのままクッションカバーになったり、利用者さんの縫った刺繍が一点モノのポーチになったり。描かれたイラストも巾着やイヤリングに変身するなど、個々の表現がスタッフの手によって命を吹き込まれ、「スーパーハイパースペイシー」な雑貨になって多くの人を虜にしています。
一方の「リンク班」は、「クリエイト班」中心に生まれるオリジナル商品を、〈西淡路希望の家〉のECサイトを通じて販売していくチーム。注文があった品の組み立てや梱包、お礼メッセージの添付、郵便局への配達などを行っています。
これらの作業や創作は基本的に、日中の活動時間内に行いますが、それとは別に2003年から、スタッフの金武さんは「美術部」としても活動を展開してきました。利用者さんの中でさらに絵を描きたい人を募り、月3回・平日夕方の2時間を使って近くのアトリエで制作をします。部活中の様子は、さながら美大の一室だそう。
創作を“形”に変え、施設の中と外をつなぐ
こうした取り組みを行う背景には、施設内で活動を完結せずに地域へ飛び出し、「働くこと」と「外部とのつながり」の2つを深めていく狙いがあります。
というのも、もともと〈西淡路希望の家〉そのものが、ご家族や学校の先生が「障害のある子どもたちが卒業した後も働ける場所をつくろう」と始まったからです。そのため開所当時から、利用者さんが織った生地や刺繍を使った商品づくりに取り組んできました。
金武 利用者さんが織った反物をご家族の方が縫製をして、百貨店や知人に買ってもらえるような素敵な服や鞄にして売っていたんですね。でも、可愛い生地だし、もっと若い人にも買ってもらえるようにできへんかなってことで、私が入職してからさらに色々なアイテムを作り始めたんです。それが2000年からの出来事。
以来、せっかくやるのだから「他の施設であるようなものは私らが作らんでも」と思って、見たことのない面白いものをどう作るかいつも考えながらやってきました。
例えば、利用者の藤原毅さんが描いた絵をプリントした「カエルポーチ」は、〈西淡路希望の家〉が創作活動に力を入れることになったきっかけの商品です。
金武 最初はコースターかハガキにしようかって話をしていたんですけど、頭のところにファスナーつけれへんかなってやってみたら、おもろいやんて。中に何か入れたくなった。それで、「ちょっとした工夫で売れるものになるかもしれへん」って気づいたんですよね。
爆発的な人気商品ではない、と断りを入れながらも、長く愛されてきたという「カエルポーチ」。その後さまざまな素材で展開されていき、ついには個数限定で、西陣織にプリントしたその名も「西陣たけし」も登場しました。
金武 西陣織に関わる人に怒られそうやけど(笑)、やったらあかんのちゃうかな……ってことをやってしまって。意外とそういう商品が売れたりするんですよね。
商品になるのは、織りや刺繍だけではありません。利用者の谷山哲也さんは、プロ野球チームのオリックス・バファローズが大好き。一人でも球場に足を運び、毎年ファンミーティングにも参加するほど熱烈なファンだそうで、日々、好きな選手の絵を量産しています。
金武さんはその絵を、ポシェットはじめさまざまなグッズに変身させて販売しているそうです。
他にも、クッションカバー、Tシャツ、マスク、ショルダーバッグ、ブローチ、イヤリング、キーホルダーなど、生まれた商品はさまざま。利用者さんが作った反物や刺繍を使って、〈西淡路希望の家〉はここにしかない、スーパーハイパースペイシーな雑貨を生み出し、日常に驚きや発見を届けてきました。
利用者とスタッフ、二人三脚でここにしかないものを生み出す
これまで作ってきた商品と、これから形を変えて世の中に届けられることを待っている数々の反物に囲まれながら。次々と商品を出しては説明をしてくれる金武さんは、まるで可愛い我が子を紹介するかのように嬉しそうです。
尽きることのない創作意欲を支えているものは何なのでしょうか。
金武 「感動してしまった責任」っていうのをいつも思っているんです。「これええな」と思ったら、やっぱりその気持ちを受け取った責任を私は取らなあかんなって。みんなが面白いものを持ってきてくれるからこそ、ちゃんと面白いグッズにしたい。どうやったらこの絵が生きるかな、みんなを驚かせたいなって考えながら、商品にしてますね。
それにしても、手織り、刺繍、プラバン、絵など多種多様な創作物を、どんな商品として売り出すかを考えるのは、楽しさだけでなく難しさもありそうです。
金武 利用者さんから「これカバンにして」などのリクエストもあります。それ以外は基本的には、スタッフが面白いと思えるものを考えて商品化していますね。アイデアはいろんなところから得ていて、東京へ行ったら、若い人たちのファッションを見て参考にするようなこともしています。
例えば、うちの人気商品の巾着。さまざまなバージョンがあるんですが、それも花火大会で浴衣を着た男性が巾着を持っている姿をみて、いいなと思って。「こんなん作って」と縫製チームに相談して形にしてもらったんです。
金武 やっぱり職員がアンテナを広げないと。いかに面白い商品にするかは、私たちの腕の見せ所だと思うんですよ。「こんなんがあるよ」「あんな商品はどう?」と実物を見せ合うことで想像しやすくなる。だから、映画を観たり美術館へ行ったり、いいなと思った本やチラシを取り寄せたりもしていますね。
とはいえ、利用者さんの創作活動は就労目的ではないため、あくまでも本人の「やりたい」「作りたい」気持ち次第。それを大切にしている姿勢は、こんなエピソードにもよく現れています。
金武 一点モノの商品の評判が良くて、追加発注をいただくこともあります。でも、できるだけライブ感を大切にしたいから、それを無理に作ってもらうことはしません。ルーティンにならんような仕事の仕方は意識していますね。みんなにも、今食べたいものとか、好きなものの文字とかを書いてもらった方が面白いし。
金武さんが〈西淡路希望の家〉で働くようになって20年以上。根気よく続けてきた商品づくりは、利用者さん、金武さん、縫製チームなど、多くの人が関わる活動に育ちました。しかし、あくまでも「主役は利用者さん」だと話します。
金武 縫製のスタッフさんは服飾の専門学校を出て、きちんと縫える人が揃っています。でもあくまで、〈西淡路希望の家〉は利用者さんの表現を全面に出す商品を作っていきたいんです。だから昔はよく、「縫う人自身の作家性を出さないように」と厳しく伝えていましたね。今は私も丸くなって(笑)、スタッフさん独自の技術ややり方を生かして商品づくりをしてもらっていますが、それも「利用者さんの個性を生かした、面白い商品になる」ことが大前提なんです。
商品か、それとも作品か。利用者さんのやりがいの捉え方
手織りの反物や刺繍された生地など、利用者さんの創作表現を生かして作られる商品の数々。一方、「美術部」の活動でも絵やアート作品などが次々と生まれていますが、「基本的には商品にすることはない」と金武さんは語ります。
金武 美術部の作品で商品化したことがあるのは、ポストカードぐらいしかなくて。作品と商品は別にしているんです。明確な理由はないんですけどね。これは私の感覚なんですけど、例えばゴッホの「ひまわり」を使ったアイテムを作るとして、その展開をゴッホは望んでいるのかな……って違和感を覚えてしまう。美術部では作品として見てもらうのが一番かなと思い、展覧会への出品や、公募展への応募を発表の場にしています。
金武 さっきお見せした、前田さんが描いた白神山地の絵なんて、遠くから見るのと近くから見るのと全然違うんです。写真を見ながら至近距離で描くんですけど、離れるとすごく遠近感のある広い絵に見えて。大きなギャラリーで展示させてもらったときは、すごい迫力でした。
こうした商品との線引きがあるからこそ、利用者のみなさんも安心して「美術部」で作品制作ができるのかもしれません。
そう思い改めて日中の活動を振り返ると、作り手がやりがいを感じられることの一つとして、施設のあちこちに、商品の売れた数や売上金額などを記録した紙が掲示されていました。
金武 みんな作ること自体が好きだから、「こんな商品できたよ」って見せても、実はあんまり感動してくれないんです。執着がなくて、すぐに仕事に戻ってしまう。でもそれが、売れたら喜んでくれるんですよね。みんな儲けたいんです(笑)。
どこまで成果とお金を直結させるかは、永遠の課題ですけど……。
〈西淡路希望の家〉をぐるっとご案内いただき、取材時間もおしまい。そろそろ帰らないとな……と思っていた時、取材メンバーは皆口を揃えて、「商品を買ってから帰りたい」と言い、エントランスにあるショップを見に行きました。あれも欲しい、これも欲しいと話題は尽きることなく、すっかり「スーパーハイパースペイシー」の虜になったようです。
楽しくて可愛い商品たちを実際に手にし、利用者さんの活動の様子やスタッフさんたちの思いを知ったことで、ますます愛着を感じられるようになった〈西淡路希望の家〉。地域に根差し、利用者さんの存在を訴える福祉施設は、きっとこうして、これからもファンを増やしていくのでしょう。
それがゆくゆくは、利用者のやりがいになり、仕事になる可能性が広がっていく。そんな未来を想像した1日でした。
(実はこの訪問は、歌人の「まほぴ」さんこと、岡本真帆さんにもご一緒いただきました。5月23日公開の記事では、どのように「表現」を生み出し、人とどう分かち合っていくか、岡本さんと金武さんの対談をお届けします)
Information
西淡路希望の家 オンラインストア
BASEにてさまざまなアイテムが販売されています。
Information
編集後記
本編に入れられなかったエピソードや写真を、編集部ブログでご紹介しています。リンクはこちら。
Profile
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- ライター:北川由依
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「いかしあうつながりがあふれる幸せな社会」を目指すWebマガジン「greenz.jp」や京都で暮らしたい人を応援する「京都移住計画」などで、執筆と編集をしています。京都を拠点に全国各地の人(法人)や場を訪ねがら、人とまちの関わりを編む日々。イチジクとカフェラテが大好きです。
この記事の連載Series
連載:アトリエにおじゃまします
- vol. 122024.10.10それぞれの心地よさを大切にするには?「空と海」をたずねて
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- vol. 102024.07.10「何気ない自由」が尊重し合える社会をつくるには? 長野県上田市にある文化施設「犀の角」をたずねて
- vol. 092024.06.26「何気ない自由」が尊重し合える社会をつくるには? 長野県上田市にある「リベルテ」をたずねて
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