福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】テーブルの上で、いくつもの色の糸を使い、黒い布にカラフルな刺繍をしているシーン【写真】テーブルの上で、いくつもの色の糸を使い、黒い布にカラフルな刺繍をしているシーン

「ここだけ」の面白い商品、見たこともない作品をどう作る? 〈西淡路希望の家〉二人三脚の創作現場を訪ねて アトリエにおじゃまします vol.05

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カラフルな色使いが目をひくポーチ。
一度見たら忘れない愛嬌のある刺繍が施されたキャップ。
個性的でありながら、どこか親しみのあるカレンダーの数字。

初めて見たのは、奈良県香芝市にある〈GoodJob!センター香芝〉を訪れたとき。全国の福祉施設で作られた商品が集まるショップの中で、私の心を捉えたものの多くには、〈西淡路希望の家〉の名前が記されていました。

いったい、どんな人たちがどんな場所で生み出しているのだろう——。

【写真】2021年8月のカレンダー。よく見ると38、45、50といった数字もならぶカレンダー
以前「こここなイッピン」でも紹介した「カレンダー」は、〈西淡路希望の家〉の人気アイテムの一つ。その月ごとに、異なる利用者の描いた数字や文字が使われている(撮影:高倉夢)
【写真】机の上に、プラスチック性のポーチなどが多数並ぶ
ユニークなポーチをはじめ、ここにしかないアイテムがInstagramECサイトで多数紹介されている。写真は、こここの1周年イベントでの「イッピン市」の様子(撮影:ただ(ゆかい))

興味を抱いてしばらく月日が経った後、今回は『アトリエにおじゃまします』のシリーズで、実際に施設を訪問させていただくことになりました。

生活介護の施設でありながら、ユニークな商品やアート作品が次々と生まれる〈西淡路希望の家〉。なんだか名前からして前向きな気持ちになるな、と勝手に妄想を膨らませながら、大阪に向かう電車に乗り込みました。

就労、生活、創作を支える〈西淡路希望の家〉の営み

大阪市東淀川区の〈西淡路希望の家〉は、新大阪駅の隣、JR東淀川駅にほど近い場所にあります。

駅前に並ぶラーメン屋さんやたこ焼き屋さんを横目に歩いて行くと、住宅街の一角に、4階建ての白い建物が見えてました。

玄関の窓には、利用者さんが描いたであろう楽しげなイラストが出迎えてくれ、脇のガラス窓には、施設のものづくりのキーワードとなっている「スーパーハイパースペイシー」の言葉が。扉を開ける前から胸が高鳴ります。「こんにちは」と挨拶すると、管理者の丸山泰典さん、スタッフの金武啓子さんが顔を出してくれました。

おふたりに館内を案内いただきながら、まずは〈西淡路希望の家〉について教えてもらいます。

【写真】不思議なキャラクターたちが、開け放たれた部屋のドアに描かれている。中央に西淡路希望の家の文字
【写真】仕切り付きのプラスチックケースのなかに、カラフルな糸巻がたくさん入っている
館内のあちこちに作品が展示されていて、まるでミュージアムに迷い込んだかのような気持ちになる。壁に吊るされた絵や布、無造作に置かれた道具類から、利用者のみなさんにとって創作活動が身近なものであることや、のびのびと生活していることが伝わってくる

〈西淡路希望の家〉は、〈社会福祉法人ノーマライゼーション協会〉が1985年に開設した、主に知的障害のある方が通う生活介護事業所。現在70名ほどの方が利用し、「いずれ就労したい」「やりがいのある仕事をしたい」「自分の好きな表現活動をしたい」など個々のニーズに合わせた取り組みをしています。

その分、活動内容は多岐に渡ります。企業や行政から委託を受けている商品梱包やハンガー・ネジの組み立て、提携施設の清掃活動もあれば、絵画や手織り、編み物、刺繍などの創作に力を入れている利用者さんもいるそうです。

そうした活動を、〈西淡路希望の家〉では個人の特性や相性などにあわせ、いくつかの班に分かれて続けてきました。

【写真】手すりの上下にカラフルな無数の絵
上り下りが楽しくなる階段アートも、利用者の方々が描いたもの

例えば現在4階で活動する「ステップ班」は、就労を目標にする方々が、軽作業や清掃を精力的に行うチームです。訪れたときは、誰もが知る有名雑貨店の、文具の袋詰め作業をしていました。

そのすぐ下、3階にある「はばたき班」はもう少し緩やかに仕事を行うチーム。受託の仕事に加え、以前は外出もよくしていましたが、コロナ禍になってからは創作活動をする日が増えたといいます。

【写真】部屋のなかで、何人もの人が別々の方向に向かって机に向かっている
取材時は、金具などの組み立てを行っていた「はばたき班」。黙々と決められた作業をされており、集中力の高さに驚いた
【写真】さまざまなものが置かれた机の上で文字を書いている
作業の合間に、紙に文字やイラストを書く「はばたき班」の細井昭宏さん。丸みを帯びた、整った字形が特徴で、冒頭で紹介した「カレンダー」でも、毎年のように採用されている

その隣の「なごやか班」も、仕事や創作活動などをしながら、余暇活動や生活のリズムを整えることに重きを置いた班。また、「あゆみ班」にはさまざまな障害のある方が所属されていて、体を動かす活動や創作活動などの取り組みをしています。

【写真】椅子に座った数人のまわりに、大きなボールを手で転がす人、立って声をかけている人がいる
「あゆみ班」はこの日、隣の福祉施設〈翔館〉(主に身体障害のある方が通う生活介護事業所で、同じ〈ノーマライゼーション協会〉が運営)のホールで屋内運動会を行っていた
【写真】中央にあっぷるぱい、と大きな文字、周辺に細かな文字やイラストが書かれた画用紙
「なごやか班」の方々の部屋にも、作品がたくさん飾られている

商品づくりから、作品としてのアート制作まで

ここまで紹介した班は、受託の仕事や余暇活動が日々の中心。しかし、「クリエイト班」と「リンク班」はまた少し趣向が異なります。

「クリエイト班」は主に、〈西淡路希望の家〉として販売する雑貨の制作に関わります。ここで手織りされた生地がそのままクッションカバーになったり、利用者さんの縫った刺繍が一点モノのポーチになったり。描かれたイラストも巾着やイヤリングに変身するなど、個々の表現がスタッフの手によって命を吹き込まれ、「スーパーハイパースペイシー」な雑貨になって多くの人を虜にしています。

【写真】目の前に掲げて、下は腰の高さくらいある円盤を手にしている
管理者の丸山泰典さんが手にするのは、利用者の東本憲子さんが作った一際大きな円盤織り
【写真】無地の帽子の上に6〜7ヶ所の大きな丸型の刺繍がされている
帽子に施された刺繍は、もちろん一点モノ
【写真】機織りをする女性。向こう側の壁には、一面に大きな糸巻きがびっしりと並んでいる
何にどんな色で縫ったり織ったりするかも、利用者さんが自らのイメージで選び、それぞれのペースで作り込んでいく

一方の「リンク班」は、「クリエイト班」中心に生まれるオリジナル商品を、〈西淡路希望の家〉のECサイトを通じて販売していくチーム。注文があった品の組み立てや梱包、お礼メッセージの添付、郵便局への配達などを行っています。

【写真】机に向かう人、機織りをする人など、みなが思い思いの方向を向いて座っている
「リンク班」にも、手織り、絵、刺繍などさまざまな表現活動を楽しむ人が集まっている
【写真】包装にマーカーで直接絵を描く女性
ECサイトで売れた商品には、各班から集めたイラストなどを添えることもあれば、「リンク班」が梱包材に直接絵を描くことも。世界に一つしかないオリジナルの袋や包み紙に、受け取った人は驚くことも多いそう

これらの作業や創作は基本的に、日中の活動時間内に行いますが、それとは別に2003年から、スタッフの金武さんは「美術部」としても活動を展開してきました。利用者さんの中でさらに絵を描きたい人を募り、月3回・平日夕方の2時間を使って近くのアトリエで制作をします。部活中の様子は、さながら美大の一室だそう。

【写真】部屋一面にテーブルが、机の上や壁のラックに画材や作品が並んでいる
隣接する生活介護事業所〈翔館〉の2階にあった「えのへや」。老朽化により建物自体の取り壊しが決まったため、今は近くにある新たな場所に移転をしている(上記写真は、2022年11月に事前訪問して撮影)
【写真】描いた絵を乾かすラック
現在の美術部の部員は12名。月3回のこの時間を楽しみにする利用者さんも多い
【写真】緑、黒、水色などを基調にした絵画。よくみると森の中の湖のよう
移転中の「えのへや」で、前田泰宏さんの作品を広げる美術スタッフの金武啓子さん。前田さんは「ポコラート全国公募展」vol.4、vol.5、vol.6で受賞歴があるほか、さまざまな展覧会にも出品している

創作を“形”に変え、施設の中と外をつなぐ

こうした取り組みを行う背景には、施設内で活動を完結せずに地域へ飛び出し、「働くこと」と「外部とのつながり」の2つを深めていく狙いがあります。

というのも、もともと〈西淡路希望の家〉そのものが、ご家族や学校の先生が「障害のある子どもたちが卒業した後も働ける場所をつくろう」と始まったからです。そのため開所当時から、利用者さんが織った生地や刺繍を使った商品づくりに取り組んできました。

金武 利用者さんが織った反物をご家族の方が縫製をして、百貨店や知人に買ってもらえるような素敵な服や鞄にして売っていたんですね。でも、可愛い生地だし、もっと若い人にも買ってもらえるようにできへんかなってことで、私が入職してからさらに色々なアイテムを作り始めたんです。それが2000年からの出来事。

以来、せっかくやるのだから「他の施設であるようなものは私らが作らんでも」と思って、見たことのない面白いものをどう作るかいつも考えながらやってきました。

【写真】雑多なものが所狭しと置かれたり、壁に一面に引っ掛けられたりしている部屋
金武さん以下、縫製スタッフのチームが以前に作業していた4階の部屋(2022年11月に事前訪問して撮影)。ここで利用者さんの創作物を元に、さまざまなアイテムが生み出された。現在は近くの一軒家へ引っ越しをしている

例えば、利用者の藤原毅さんが描いた絵をプリントした「カエルポーチ」は、〈西淡路希望の家〉が創作活動に力を入れることになったきっかけの商品です。

金武 最初はコースターかハガキにしようかって話をしていたんですけど、頭のところにファスナーつけれへんかなってやってみたら、おもろいやんて。中に何か入れたくなった。それで、「ちょっとした工夫で売れるものになるかもしれへん」って気づいたんですよね。

爆発的な人気商品ではない、と断りを入れながらも、長く愛されてきたという「カエルポーチ」。その後さまざまな素材で展開されていき、ついには個数限定で、西陣織にプリントしたその名も「西陣たけし」も登場しました。

金武 西陣織に関わる人に怒られそうやけど(笑)、やったらあかんのちゃうかな……ってことをやってしまって。意外とそういう商品が売れたりするんですよね。

【写真】小さな手と足のある、人のような形をしたキャラクターの巾着。頭の上には持ち手がついている
「お坊さんが数珠を入れるのに使ってほしい」と金武さんが話す、ネーミングもキュートな「西陣たけし」(右下)

商品になるのは、織りや刺繍だけではありません。利用者の谷山哲也さんは、プロ野球チームのオリックス・バファローズが大好き。一人でも球場に足を運び、毎年ファンミーティングにも参加するほど熱烈なファンだそうで、日々、好きな選手の絵を量産しています。

金武さんはその絵を、ポシェットはじめさまざまなグッズに変身させて販売しているそうです。

【写真】番号の書かれた人の絵が10体以上置かれている
谷山哲也さんが描いたオリックス・バファローズの選手の絵を切り抜いたもの。2022年は優勝したこともあり、選手名指定で注文が入るようになってさらに創作のモチベーションが上がったそう

他にも、クッションカバー、Tシャツ、マスク、ショルダーバッグ、ブローチ、イヤリング、キーホルダーなど、生まれた商品はさまざま。利用者さんが作った反物や刺繍を使って、〈西淡路希望の家〉はここにしかない、スーパーハイパースペイシーな雑貨を生み出し、日常に驚きや発見を届けてきました。

【写真】ひらがなが、さまざまな色、大きさで刺繍されている
刺繍のクッションカバー。職員が見本で縫ったものよりも、利用者さんが手がけたものから売れていくそう。「抜け感がいいのかな?」と金武さん
プラスチックの衣装ケースの中に、ポーチがぎっしり詰まっている
最近新たな縫製チームの拠点となった一軒家で、カテゴリーごとに細かく収納されていた製品在庫。利用者さんの自由な創作にあわせて、その都度アイテムの方向を考えるぶん「商品管理には苦労し続けてきた」という

利用者とスタッフ、二人三脚でここにしかないものを生み出す

これまで作ってきた商品と、これから形を変えて世の中に届けられることを待っている数々の反物に囲まれながら。次々と商品を出しては説明をしてくれる金武さんは、まるで可愛い我が子を紹介するかのように嬉しそうです。

尽きることのない創作意欲を支えているものは何なのでしょうか。

金武 「感動してしまった責任」っていうのをいつも思っているんです。「これええな」と思ったら、やっぱりその気持ちを受け取った責任を私は取らなあかんなって。みんなが面白いものを持ってきてくれるからこそ、ちゃんと面白いグッズにしたい。どうやったらこの絵が生きるかな、みんなを驚かせたいなって考えながら、商品にしてますね。

【写真】畳の部屋の真ん中で、こちらを向いて話す女性。
縫製チームを率いる金武さんは、〈劇団四季〉の美術担当などの仕事をいくつか経たあと、最初はボランティアとして〈西淡路希望の家〉に通っていた

それにしても、手織り、刺繍、プラバン、絵など多種多様な創作物を、どんな商品として売り出すかを考えるのは、楽しさだけでなく難しさもありそうです。

金武 利用者さんから「これカバンにして」などのリクエストもあります。それ以外は基本的には、スタッフが面白いと思えるものを考えて商品化していますね。アイデアはいろんなところから得ていて、東京へ行ったら、若い人たちのファッションを見て参考にするようなこともしています。

例えば、うちの人気商品の巾着。さまざまなバージョンがあるんですが、それも花火大会で浴衣を着た男性が巾着を持っている姿をみて、いいなと思って。「こんなん作って」と縫製チームに相談して形にしてもらったんです。

【写真】膨大な衣類やハンガーと一緒に、オレンジの袋が上から吊り下げられている
〈西淡路希望の家〉で作られるアイテムの世界観を表す、「スーパーハイパースペイシー」の言葉が入った巾着
【写真】プラバンを机の上に並べる女性
ポーチやショルダーバックになるプラバンコレクション。縫うことよりも、色味や柄、形を見ながらプラバンの組み合わせを考えることの方が大変だそう

金武 やっぱり職員がアンテナを広げないと。いかに面白い商品にするかは、私たちの腕の見せ所だと思うんですよ。「こんなんがあるよ」「あんな商品はどう?」と実物を見せ合うことで想像しやすくなる。だから、映画を観たり美術館へ行ったり、いいなと思った本やチラシを取り寄せたりもしていますね。

【写真】刺繍の図録を手でめくっているシーン
金武さんは、刺繡アーティスト・沖潤子さんやイヌイットの手仕事から多大なる影響を受けているそう。たまたま家に本があったことから刺繍の美しさに魅せられている。利用者さんも含めみんなで作品集を見ながら、どんな商品を作りたいかを話すこともある

とはいえ、利用者さんの創作活動は就労目的ではないため、あくまでも本人の「やりたい」「作りたい」気持ち次第。それを大切にしている姿勢は、こんなエピソードにもよく現れています。

金武 一点モノの商品の評判が良くて、追加発注をいただくこともあります。でも、できるだけライブ感を大切にしたいから、それを無理に作ってもらうことはしません。ルーティンにならんような仕事の仕方は意識していますね。みんなにも、今食べたいものとか、好きなものの文字とかを書いてもらった方が面白いし。

金武さんが〈西淡路希望の家〉で働くようになって20年以上。根気よく続けてきた商品づくりは、利用者さん、金武さん、縫製チームなど、多くの人が関わる活動に育ちました。しかし、あくまでも「主役は利用者さん」だと話します。

金武 縫製のスタッフさんは服飾の専門学校を出て、きちんと縫える人が揃っています。でもあくまで、〈西淡路希望の家〉は利用者さんの表現を全面に出す商品を作っていきたいんです。だから昔はよく、「縫う人自身の作家性を出さないように」と厳しく伝えていましたね。今は私も丸くなって(笑)、スタッフさん独自の技術ややり方を生かして商品づくりをしてもらっていますが、それも「利用者さんの個性を生かした、面白い商品になる」ことが大前提なんです。

【写真】カラフルな糸でつくられた細切れの布が上から吊り下げられている
商品に使った残り切れ端も「もったいなくて捨てられない」と話す金武さん。いつか、別の形でアイテムに変えられないかと考えている

商品か、それとも作品か。利用者さんのやりがいの捉え方

手織りの反物や刺繍された生地など、利用者さんの創作表現を生かして作られる商品の数々。一方、「美術部」の活動でも絵やアート作品などが次々と生まれていますが、「基本的には商品にすることはない」と金武さんは語ります。

【写真】太い紙管に、コーヒー、や、みどりのグリーンキウイ、などの文字がびっしりと繰り返し書かれている
岩田健太郎さんの作品。画用紙以外にも、紙管などさまざまな素材が創作に生かされていく
包装に使うプチプチのロールに、さまざまな色で模様がつけられている
東本憲子さんの人気作品、緩衝材の一つひとつにペンで色を塗るプチプチロールアート。長さは30mにも及ぶ

金武 美術部の作品で商品化したことがあるのは、ポストカードぐらいしかなくて。作品と商品は別にしているんです。明確な理由はないんですけどね。これは私の感覚なんですけど、例えばゴッホの「ひまわり」を使ったアイテムを作るとして、その展開をゴッホは望んでいるのかな……って違和感を覚えてしまう。美術部では作品として見てもらうのが一番かなと思い、展覧会への出品や、公募展への応募を発表の場にしています。

【写真】先ほどの森の絵画のアップ

金武 さっきお見せした、前田さんが描いた白神山地の絵なんて、遠くから見るのと近くから見るのと全然違うんです。写真を見ながら至近距離で描くんですけど、離れるとすごく遠近感のある広い絵に見えて。大きなギャラリーで展示させてもらったときは、すごい迫力でした。

こうした商品との線引きがあるからこそ、利用者のみなさんも安心して「美術部」で作品制作ができるのかもしれません。

そう思い改めて日中の活動を振り返ると、作り手がやりがいを感じられることの一つとして、施設のあちこちに、商品の売れた数や売上金額などを記録した紙が掲示されていました。

金武 みんな作ること自体が好きだから、「こんな商品できたよ」って見せても、実はあんまり感動してくれないんです。執着がなくて、すぐに仕事に戻ってしまう。でもそれが、売れたら喜んでくれるんですよね。みんな儲けたいんです(笑)。

どこまで成果とお金を直結させるかは、永遠の課題ですけど……。

【写真】壁に、ボーナス、や、15000円、などの文字が大きく描かれたポスターが並んでいる
カレンダーの売上は、ボーナスとして利用者みんなに一律で支給される

〈西淡路希望の家〉をぐるっとご案内いただき、取材時間もおしまい。そろそろ帰らないとな……と思っていた時、取材メンバーは皆口を揃えて、「商品を買ってから帰りたい」と言い、エントランスにあるショップを見に行きました。あれも欲しい、これも欲しいと話題は尽きることなく、すっかり「スーパーハイパースペイシー」の虜になったようです。

楽しくて可愛い商品たちを実際に手にし、利用者さんの活動の様子やスタッフさんたちの思いを知ったことで、ますます愛着を感じられるようになった〈西淡路希望の家〉。地域に根差し、利用者さんの存在を訴える福祉施設は、きっとこうして、これからもファンを増やしていくのでしょう。

それがゆくゆくは、利用者のやりがいになり、仕事になる可能性が広がっていく。そんな未来を想像した1日でした。

【写真】エントランスの内側、床の上に、ガラスドアに描かれたイラストが影になって写っている

(実はこの訪問は、歌人の「まほぴ」さんこと、岡本真帆さんにもご一緒いただきました。5月23日公開の記事では、どのように「表現」を生み出し、人とどう分かち合っていくか、岡本さんと金武さんの対談をお届けします)


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