こここ編集部より

読み逃していませんか? 編集者3人が振り返る、印象に残った記事あれこれ。(ここ最近こここでは #2)
編集後記

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こんにちは。こここ編集部です。短い春が終わり、あっという間に梅雨のシーズン。低気圧に弱い人には辛い時期、これから伸びようという植物には恵みの時期。労りながらお過ごしくださいね。

さて、編集後記シリーズ「ここ最近こここでは」を隔月ぐらいでやりたい! と、以前ブログを書いたのですが、なんと1年半も間をあけてしまいました……。

気を取り直して再始動したいと思います。自分の担当以外の記事の感想、〈こここ〉で取り上げられた本や映画、イベントに触れた話など、編集部メンバーそれぞれの〈こここ〉をめぐる「最近の話」をお届けします。

それでは早速。ここ最近、4月〜5月の〈こここ〉を振り返ってみます。今回は3人の編集者による「この記事のここがよかった!」という話。

ろうの編集者、上野智美さんのインタビューに重ねて(佐々木)

〈こここ〉の人気連載、齋藤陽道さんの『働くろう者を訪ねて』。仕事図鑑のように、毎回バリエーション豊かな職業人が紹介されていくのが楽しみな連載です。春先に公開された第19回目、上野智美さんのインタビューは、その中でも個人的に印象深い記事でした。

上野さんは鳥取県にある〈今井印刷〉で働く編集者さんで、企画や編集業務以外にも、デザインから広報、Webまで「なんでも」やると語ります。地方在住であること、もともと教育に関係する出版社に在籍していたことなどから勝手に親近感を持ち、僕はグイグイ引き込まれるように読みました。

キャリアを振り返るなかでは、情報保障に関する話もさりげなく触れられています。チームでのチャットツールの活用は今だと当たり前に思うかもしれませんが、コロナ禍でオンライン環境が広がるずっと以前からそれを実現されていたんだ、と気づいてハッとしました。

―社内でのコミュニケーションで工夫していることは?

全員Skypeに入り、そこで文字チャットでミーティングをしているので、情報保障の面での不便を感じたことはありません。

学研にいたころはMessengerを導入してもらうように頑張ってお願いしていました。「編集長や編集者は席にいないことが多い。全員揃うのを待つよりも、Messengerを利用すれば見たいときに見れる」という向こう側のメリットもアピールしたら導入してくれました。顧客との会話では、補聴器を付けて、口の形を読み取って話を聞いています。

編集者としての、上野さんの思い入れのある担当書には『山陰クラフトビール ─こだわりのビールが地域を変える』とあり、その実感がこもるエピソードは「ええー読んでみたい!!」(そして飲んでみたい!)と思わずにはいられません。

インタビューの手話をもとに、日本語の書き文字へも丁寧な翻訳がなされ、「ふふふ。」といった細かな再現までなされています。温度感が伝わるテキストは、この連載自体の魅力のひとつです。

ちなみにもう一つ、さらに個人的な話ですが……最後の5年後についての質問に、「こどもたちが小学6年生になっている」と答えているところも僕は気になっていたりします。同じ学年で“たち”とあるので、まさかな、でももしかしたら……(確かに記事末の動画では、2人の同じ背格好のお子さんが並んでいる!)と。思いを膨らませる、双子育児中の編集者・佐々木の感想でした。

(編集部・佐々木将史)

「発達」ってなんだろう?(垣花)

人間の発達って、そもそもそんなに簡単にね、二次元の座標で捉えられるものじゃないとも思います。ただお伝えしたいのは、この「ヨコ」という考え方が、「タテ」しかなかった時代へのアンチテーゼとして必要だった、ということ。学校教育にも福祉の対象にもならなかった障害の重い子どもたちについて、「この子らにも学ぶ権利があるし、可能性があるんだよ」って突きつけるために必要だった概念なんです。

こここスタディvol.17「“できる/できない”の社会を『ヨコへの発達』で問い直す。社会福祉の父・糸賀一雄を、垂髪あかりさんが研究する理由」の記事内で書かれている言葉です。

この記事を何度か読み返しながら、そもそも「発達とはなにか」立ち止まって考えたことがなかったと気づきました。読んだ後も「発達となにか」わかったとは言えません。しかし、自分や他者がもつ人権に対して、画一的なものさしでは、見過ごしてしまうことがあるということを再度認識できたように思います。

記事の導入部分で、ライターのウィルソン麻菜さんがもつ葛藤が率直に記されていたのも素敵でした。「“できない”とダメ」という価値観、身に覚えがあります。そこへのおそれがすこしやわらぐ記事でした。しみじみ。

(編集部・垣花つや子)

森田さんの義足の話から、わたしの身体を見つめる(中田)

春先の連載記事で印象深かったのは、「森田かずよのクリエイションノート」第5回、「わたしの義足とわたしの身体の関係」。義足と補装具の違い、義足と森田さんの関係。義足を通して感じること、義足をつくるのにかかる時間……など、興味深いお話ばかり。このくだりが特にすてきでした。

いや、私が付けている限りは物ではなく、脚だと信じたい。ただ、不思議なのは、私は義足を装着した身体も、しない身体も、どちらも私であると実感しながらも、どちらの身体にもちょっと馴染めないところがある。

〈こここ〉を運営していると、「興味深い!」と膝を打つような瞬間にたびたび出会います。ダンサーであり、俳優である森田さんが、自身の身体を義足も含めて眺め、みずみずしく描写されたこの記事でも、「身体とはなにか、『わたし』とはなにか」と一緒に立ち止まり、考える時間がありました。身体や感覚のどこまでが「わたし」で、その境界がどこにあるのか。自分自身の身体のようでいて、どうもそうではないような感覚。私自身は義足ユーザーではないですが、丁寧な観察を通して自身の身体と付き合う森田さんの言葉に、我が身を振り返って感じたり、考えたりすることが多かったです。

また、森田さんの発案で韓国在住の作家・弁護士・ダンサーである、キム・ウォニョンさんとの対談企画にもつながりました。こちらの記事もすごくおもしろかった! 〈こここ〉としては初の海外取材・多言語取材記事です。ウォニョンさんの著書『希望ではなく欲望: 閉じ込められていた世界を飛び出す』も本当にすばらしい一冊です。まだ読んでいない方はぜひご覧いただけたら。

(編集部・中田一会)

どの記事もおすすめだけれど……

以上、今回は、編集者3人による「印象に残った記事(ただし、自分の担当記事以外に限る)」をお届けしました。

〈こここ〉の記事はどれも「おもしろい!」「 大事!」「読んでほしい!」……と考えてお届けしていますが、あえておすすめを選んでみるとそれはそれで発見がありますね。

次回は違うメンバーに近況をきいてみます。ではでは、また。

【写真】テーブルに置かれた手。手作りと思われるビーズの指輪とブレスレット、スポーツウォッチが巻かれている。
「同じ場所に立とうとすることで見えてくるもの ―妄想恋愛詩人・ムラキングと詩を書こう」の取材で、すてきな手のに出会いました、(撮影:鈴木竜一朗)