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”まなざし”の身体性をテーマにした企画展「まなざす身体」がアトリエみつしま(京都府京都市)で10月30日まで開催
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「まなざしの身体性」をテーマにした企画展が京都で開催

〈アトリエみつしま〉に併設するギャラリー〈Sawa-Tadori〉(京都府京都市)にて企画展「まなざす身体」が2022年10月1日(土)から2022年10月30日(日)まで開催中です。

出展作家は、しらとりけんじさん、光島貴之(みつしま たかゆき)さん、池上恵一(いけがみ けいいち)さん、伊庭靖子(いば やすこ)さん、中ハシ克シゲ(なかはし かつしげ)さん。全盲の作家を含む計5名が、「まなざしの身体性」をテーマとした作品を展示しています。

視覚に障害のある人と一緒に行う出展作品の対話鑑賞イベントや、一部さわって鑑賞できる作品もあり、視覚に障害のある人も楽しみやすい展示内容です。

「目」という器官を超えた身体そのものの現象としての「まなざし」と出会う展示

本展では、「何かを見ている人の目の様子」とされる「まなざし」という言葉を「その人全体から発せられる心の向き」と捉えています。

「目」という器官を超えた身体そのものの現象として、「まなざし」は人々の感情や生活に寄り添っているのではないか、「まなざし」の身体性とはどのようなものなのか、という問いに作家が応答した作品が並びます。

5名の出展作家の一人、池上恵一さんは、病弱だった幼少期、食養法に救われて以来、健康とは何かを意識してさまざまな手技療法や武術を習得しています。目には見えないけれども身体に生まれる「凝り」に魅了され、その感触を絵画、彫刻で表現しているほか、凝りやマッサージをテーマにしたパフォーマンスやワークショップなどを行っています。

池上恵一さんの作品2点が額装されて展示されている様子。
池上恵一《Drawing》(木炭紙に木炭 / 650×500mm / 2020)

伊庭 靖子さんは、陶器、クッション、風景といった身近な対象物をモチーフにして、自ら撮影した写真をもとに油彩画等を制作しています。モチーフがまとう光や質感、あるいは画家の眼と対象との間にある距離や空気を描写する作品を通して、色彩、光、物質の関係を探究している作家です。

伊庭さんの作品。
伊庭 靖子 《untitled 2022-01》(Oil on canvas / 162×227.3cm / 2022 / 撮影:加藤成文)

書籍『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』登場する白鳥建二さんは、写真家・しらとりけんじとして、2005年頃より始めたデジタルカメラで撮影した写真を出品しています。目の見えない白鳥さんがシャッターボタンを押した時点で完結され、その後のことに興味はない、という姿勢は当初から一貫しているのだそう。今回展示されているのは、しらとりさんと、アーティストの新谷佐知子さん、写真家の吉田亮人さんとの共同制作作品です。

しらとりさんが撮った写真作品。街中の風景と撮影者の影が映っている
しらとりけんじ《二》(2019)

中ハシ克シゲさんは、作風を変えながら一貫して「日本の彫刻とは何か」を問い続けている美術作家です。日本の伝統的な住環境に似合う彫刻を探求する中で、乾燥後に実材化する水粘土を開発し、近年はその水粘土を用いた「干泥彫刻」を発表。また、自らの視覚を閉ざして触覚のみによってつくる彫刻に取り組んでいます。

中ハシさん自身が作った犬の彫刻作品を手で触る中ハシさん。
中ハシ克シゲ《お出掛け犬》(油土に樹脂コーティング、木材 / 85(h)×1150×60cm(椅子含む) / 2018)

光島貴之さんは、10歳頃に失明した、全盲の美術家です。鍼灸を生業としながら、1992年より粘土造形を、1995年より製図用ラインテープとカッティングシートを用いた「さわる絵画」の制作を始め、ほかの作家とコラボレーションした「触覚連画」の制作や、「触覚コラージュ」といった新たな表現手法を探求しています。2020年には、本展の会場でもある〈アトリエみつしま〉を立ち上げ、アトリの運営や企画を行っています。

カンヴァスに描かれた光島さんの作品。
光島 貴之《まなざし No.3 窓の記憶》(オイルパステル、カッティングシート、ラインテープ、刺繍糸、カンヴァス / 60×60cm / 2021 / 撮影:片山達貴)

全盲の美術家が運営する、工場跡地のアートギャラリー兼アトリエ〈アトリエみつしま〉

〈アトリエみつしま〉は、築90年の西陣織工場跡をリノベーションし、2020年1月にオープンしました。光島さんとスタッフが集まってアトリエで制作をする「アトリエ作業日」は、展覧会に関わらず普段から行われ、事前に連絡すれば見学も受け付けています。

併設されているギャラリースペース〈Sawa-Tadori〉は、「さわってたどる」という言葉から名付けられ、沢のような細い道をたどりながら新しい世界を発見したい、という意味が込められています。

看板の下部の点字は「アトリエ ミツシマ」と書いてある

〈アトリエみつしま〉ではいくつかの特徴的なプログラムが行われています。そのひとつ、「ぎゅぎゅっと対話鑑賞」は、視覚に障害のある人と一緒に美術を言葉で鑑賞する企画です。10名前後の参加者が”ぎゅぎゅっと”集中して言葉を出し合い、作品を鑑賞することからこの名前がつけられました。

また、1年に数回、アトリエ企画の展覧会や連続ワークショップも実施しています。「視覚に障害のある人・ミーツ・マテリアル」は、視覚に障害のある人が見える人と一緒に作品を制作するワークショップです。「つくる側」の立場に立てる機会の少ない見えない/見えにくい人たちが参加し、つくることを体験する機会を提供しています。

その他にも、レンタルスペースとしてアトリエの貸し出しも実施。展示やワークショップ、演劇、シンポジウム、写真撮影、勉強会など、幅広い用途で利用されています。

入口には物販コーナーが設けられており、 グッズも購入可能。木製の点字キーホルダーやバッジ、凹凸のあるポストカード、点字用紙を再利用した文具などが並んでいます。

企画展「まなざす身体」では、事前申込制の関連企画も実施。10月16日(日)に対話鑑賞イベント、10月22日(土)には対話鑑賞ナイトツアーが開催されます。〈アトリエみつしま〉での展示や企画を通して、新たな「まなざし」と出会うきっかけを探してみるのはいかがでしょう。