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親、学校、友達に言えない悩みもチャットでなら。オンライン相談「ブリッジ」導入校増、能登の被災地にも
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オンライン相談「ブリッジ」

令和6年能登半島地震から1年が経過。高まる、災害後の心のケアの必要性

学校のこと、家のこと、友達のこと……誰かに相談したいけど、先生や両親には話しづらくて誰に相談したらいいかわからない。子どもの頃、そんな悩みや心配事を抱えて、気持ちが沈んでしまったり、行き場のない感情が生まれたりしたことはないでしょうか。

もちろん学校には、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーなど心のケアの専門家がいますが、非常勤で常駐していないケースも多く、困ったときに相談しづらい現状があります。

そのような背景を受け、教育NPOとして活動する〈認定NPO法人カタリバ〉は、学校で配布されたタブレット端末等から手軽に利用できる、教育委員会と連携したオンライン相談サービス「ブリッジ」を開設。2023年9月に石川県加賀市と協働し、運用をスタートしました。

「ブリッジ」は開始から1年が経ち、2024年11月には災害後の子ども、そして子どもの傍にいる大人の心のケアを目的として、度重なる震災や豪雨に見舞われた石川県珠洲市・能登町でも導入されました。命の危険にさらされた被災者の心身の不調、例えば災害時の記憶を思い出して苦しむ心的外傷後ストレス障害(PTSD)や孤独感を見逃さないために、さらなる活用を目指しています。

【画像】オンライン相談「ブリッジ」メッセージ画面。「今日はいやなことがありました」のメッセージに「そうなんですね。いやなきもちになったんですね」などと応答している

雑談や言葉あそびから始まる相談も。「ブリッジさん」が受け止めてくれる

〈カタリバ〉は、「未来は、つくれる」を掲げて全国で子どもの教育支援活動を行う団体です。代表理事を務める今村久美さんが、大学在学中だった2001年に設立しました。高校生を対象としたキャリア学習の出張授業「カタリ場」からスタートし、今ではすべての10代が、どんな環境で生まれ育ったとしても意欲と創造性を育める社会を目指して、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組んでいます。

例えば、学校に通うことが困難な子どもたちのために居場所を提供する「おんせんキャンパス」では、地方の廃校舎を再活用し、体験学習プログラムの実施、進路サポートなどを行っています。また、県立高校の学内に中高生の居場所を設置した事業では、中高生が放課後の探究学習や自主学習を日常的に行える場などもつくってきました。

そんな〈カタリバ〉の相談員に、直接子どもたちが匿名で相談できるチャット窓口が、2023年9月にオープンした「ブリッジ」です。

背景には、少子化にもかかわらず年々増加している、小中高でのいじめや不登校の問題があります。〈カタリバ〉は2021年から主に保護者を対象とした「カタリバ相談チャット」というLINEを使ったオンライン相談窓口も開設しており、その経験を活かして、教育委員会や学校と連携をしながら子どもの見守りを行う「ブリッジ」が作られました。

チャット相談ブリッジとは?【解説画像】 チャットで、子どもの声を聴く活動。ギガ端末のホーム画面にアイコンを設置して、日常で目にとまる仕掛け。メッセージ送信に時間制限はなくいつでも相談でき、継続相談が可能。相談員からの返信は平日7〜10時、14〜17時

「ブリッジ」には、子どもたちが学校から配布されたPCやタブレット端末からアクセスできます。使い方は簡単で、チャットアプリを起動しメッセージを入力するだけ。

人間関係や進路、勉強、家庭環境など幅広い相談を受け付けており、相談には心理士や精神保健福祉士などの有資格者や元教員、元児童養護施設職員など、子どもとの対応経験豊富な相談員がコミュニケーションを取ってくれます。

画面上では、キャラクターの「ブリッジさん」がメッセージを返してくれるため、会話感覚で、「ブリッジさん」と気軽に話せることが特徴です。

石川県加賀市で導入スタート。7カ月で約1,100人から悩みの声が届く

「ブリッジ」オープンと同時に、石川県加賀市との連携がスタート。〈カタリバ〉は2022年11月から石川県加賀市の不登校における支援策のサポートをしており、日常的に子どもたちが相談できる環境の必要性も感じていたことから、23の小中で導入が決まりました。

スタートから7カ月間で1,125人から相談が寄せられ、その中の102人からは、要配慮に繋がる事案130件、緊急通報事案13件の報告があったそうです。また開始5カ月の時点で、要配慮事案の半数以上が学校で把握していない内容でした。

要配慮事案が判明した場合は、その内容とメールアドレスを教育委員会に連絡し、学校を通じて事案への対処を行っています。

【画像】チャット画面。「話したらもっとひどくなると思うのですね。その不安な気持ちも含めてお家の方や先生に相談して欲しいなとブリッジさんは思いますが、お話できそうですか?」などの問いかけに、「親には言えないけど、部活の先生には言えるかも」など会話がつづく
対応例(想定:小5いじめ)

また、子どもたちが相談を始めてから事案の把握にかかるまでの平均日数を調査したところ、1カ月近くかかったことも判明。相談の本質にたどり着くまでには、日常の何気ない会話から始まり、コミュニケーションを取り続ける中で悩みが打ち明けられるプロセスがあることがわかりました。

未来の教室実証事業、子どもの課題を早期発見する【画像】悩みを打ち明けられるまでのプロセスが示されている。相談開始から事案化まで平均28.04日

文部科学省は、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど、子どもたちの心のケアをする環境の整備を充実させる方針を出していますが、地方都市ではそうした専門職の不足が課題でした。対面とオンライン相談「ブリッジ」を組み合わせることで、その問題を解消し、子どもの悩みに素早く寄り添える場としても活用されています。

実際に利用した子どもたちからは、「ブリッジさん」の返信の早さに驚いたり、寄り添ってくれることに安心感を得たりしたとの声が届いています。さらに、相談以外もできる話し相手として楽しんでいる様子も見られました。

子どもたちからの感想【画像】「みんなが、相談しているのに思ったよりも返信が早くてびっくりしました。悩みを一緒に考えてくれてとっても嬉しいです」「相談してみて、楽しかったし、自分の気持ちを理解してくれている感じがして嬉しかった」

2024年からは、新たに石川県珠洲市・能登町との連携がスタート

「ブリッジ」は2024年11月から新たに、石川県珠洲市・能登町との連携が決まり、自治体内の全小中学校に所属する子どもたちが利用できるようになりました。

珠洲市・能登町は能登半島地震や奥能登豪雨の被害を受けた地域であり、子どもから日常的に相談を受ける先生も被災者である場合が多くあります。教師自身がケアの対象となるケースも少なくないなか、「ブリッジ」を導入することで先生たちの負担を減らし、そのうえで子どもたちが安心して相談できる場として活用されています。

利用開始からすでに、児童生徒から64件の相談が寄せられたこのサービスに、珠洲市の担当者は次のようにコメントしました。

「学校には、子どもが安心できる環境づくりが求められ、また、心のケアが欠かせません。周りの大人も含め自分自身でも気付かないうちに心の傷を負っていることがあります。少しでも早く子どもの変化に気付くためにも、引き続き息の長い支援体制を築いていきます」

新年を迎え、被災地の子ども・大人だけでなく、新しい環境になって気持ちがソワソワしたり、緊張状態になったりする人もいるかもしれません。ちょっと誰かに話してみる、ちょっと誰かの話を聞くことで、気持ちを緩めホッと一息つくことも忘れないでください。