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逆境を生きる10代と、その支援者に伝えたい22のメッセージ。書籍『「助けて」が言えない 子ども編』
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【画像】書籍『助けてが言えない 子ども編』の表紙

SOSを出しづらい社会に生きる、子どもと大人に向けたメッセージ集

皆さんは10代の頃、困難な出来事にどのように向き合っていたでしょうか。誰かに悩みを打ち明けて、救われたという人もいるでしょう。一方で、苦しみをひとりで抱え込んだ人や、つらい思いを言葉にする術を持っていなかった人、そもそも自分が困難な状況であると、当時認識することすら難しかった人がいるかもしれません。

残念ながら、今もそのような境遇にある子どもたちは存在します。不登校、ゲーム依存、リストカットやオーバードーズ(過量服薬)などの行為、安全ではない性行動など、声なき声でSOSのサインを発している子どもの数は計り知れません。

コミュニケーションツールが多様化した現代で、大人はそのようなSOSに、どのように向き合えばいいのでしょうか。また子どもたちは、家や学校でつらいことがあったとき、誰にどう頼ればいいのでしょうか。

2023年7月に発行された『「助けて」が言えない 子ども編』(日本評論社)は、苦しみや困難を抱えている子ども、そしてその支援者となる大人に向けた“メッセージ集”ともいうべき一冊です。主に依存症についての研究を行い、同テーマを扱った著書を多数持つ、精神科医の松本俊彦さんが編者を務めました。

SOSサインを発する子どもたちの現状

子どものSOSのひとつの現れともいえる不登校。文部科学省の調査によると、2021年の小中学生の不登校児童数は24万人となり、近年その数は急激に増加しています。

【画像】「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」の折れ線グラフ
文部科学省「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」より

一方、2010年代を通して、毎年300人を超える小中高生の自殺者数がありました。この深刻な事態を食い止めようと国も動き出し、2018年には「SOSの出し方に関する教育」が全国の教育機関に発出されました。しかし、小中高生の自殺者はその後も増え続け、2022年には500人超と過去最多に。また、教育現場の疲弊も指摘されています。

【画像】小中高生の自殺者数の推移を示した折れ線グラフ
小中高生の自殺者数の推移。警察庁「自殺統計」より厚生労働省自殺対策推進室作成

2023年8月1日からの「自殺防止のための集中的な啓発活動」を始め、子どもの自殺防止に向けた取り組みも強化されていますが、まだまだ模索状態にある今。

この現状に対し、本書はひとつの手立てとなるかもしれません。書き手となったのは、子どもや家庭の問題に関する専門家・研究者・支援者たち22人。子どもと、子どもを支援する大人の双方の立場や状況に寄り添い、この時代を生き抜くための知恵や方策をメッセージに込めて発信しています。

子どもを支援する“大人”へのメッセージ「パート1」

書籍のパート1「『助けて』が言えない子どもたちにどうかかわるか――支援者へのメッセージ」では、子どもを支援する“大人”に向けて、10名の専門家が寄稿しています。

1章では、先ほど触れた「SOSの出し方に関する教育」を全国の学校に出向いて授業を行う髙橋聡美さん(中央大学 人文科学研究所 客員研究員)が、この教育における問題点、子どもがSOSを出せない背景を解説。大人の子どもに対する振る舞いの矛盾、SOSを受け止める教師側の限界、問題がある家庭の親の心理などにも言及しながら、さまざまなSOSの糸口に気づき、向き合うための考え方に触れていきます。

他の章でも、自傷行為、ヤングケアラー、不登校、ゲーム依存、大人の“叱る依存”といった、すぐ側にあるかもしれない問題を取り上げます。

さらに、最期を迎える子ども・家族・関係者のケア、少年院出院者のケア、社会的養護のもとで育った子どものケアといったテーマも提示され、子どもたちの行動や心理に触れながら、私たち“大人”はなにをするべきか、それぞれが強いメッセージを綴っています。

ゲームにのめり込んだ子どもたちと話していると、彼らはモンスターでも非行少年でもない、ごく普通の少年少女たちであることに気がつく。ほとんどの子どもが親思いだ。 (中略) 外部から正論を言われるほどに彼らは言葉を失い、現実のあまりの厳しさにたじろぎ、茫然とする。ゲームやネットにハマる子どもたちにとって、唯一の心理的自己防衛がゲームやネットへの退却なのだ。自分のこころが壊れてしまわないために、慣れ親しんだゲーム――たとえそれが自分をさらに現実から遠ざけ、問題を深めるものだとしても――に没頭するしかないのだ。

(引用:6.ゲームに没頭する子どもの「助けて」と言えない心理(佐久間寛之))

(目次)|「助けて」が言えない子どもたちにどうかかわるか――支援者へのメッセージ

1. 大人は子どもの「助けて」を受け止められているか?――「SOSの出し方教育」の中で見えてきたこと:高橋聡美

2. 「助けて」の代わりに自分を傷つけてしまう心理――「自分でなんとかしなくては」から「言葉にならないままつながれる」への転換:山口有紗

3. 「なんで私、こんな苦しいんやろう」と思ったけど――子どものかすかなSOSへのアンテナ:村上靖彦

4. 子どもたちは、なぜ教室で「助けて」と言えないのか:川上康則

5. 「助けて」と言えずに不登校を続ける子どもたち:岡崎勝

6. ゲームに没頭する子どもの「助けて」と言えない心理――沈黙に耳をかたむける:佐久間寛之

7. 家族の〈叱る依存〉で無力化されてしまう子どもの心理:村中直人

8. 死ぬのが怖いのに「助けて」と言えない心理――子どもが最期までその子らしく生きるために:菊地祐子

9. 社会とつながりたいのにつながれない――少年院出院者に対する支援:仲野由佳理

10. 「助けて」と言ったら助かる社会に――社会的養護のもとで育った若者たちの「声」:永野咲

逆境のなかを生きる“子ども”へのメッセージ「パート2」

続く「『助けて』が言えないあなたへ――当事者へのメッセージ」は、“子ども”に向けたメッセージパート。10代をサポートするNPOや公的機関で働く人々はもちろん、ライターや元オリンピック選手、医師や看護師として活躍する12名が、子どもたちの言葉にしづらい思いを代弁しながら、ストレートなメッセージで語りかけます。

人を信じるって、むずかしいよね。いろんな大人からさんざん裏切られてきたんだから、今さら「助けて」なんて言ったってどうせ裏切られるだけじゃんって思っちゃう気持ち、痛いほどよくわかるよ。だって、ここまで誰も助けてくれなかったじゃんね。  しかも大人ってさ、子ども自身がもってる力を信用してくんないじゃん。「どうせ子どもなんだから」みたいな態度で、「守るのが大人の役目だ!」みたいに勝手なおせっかいばかり焼いてくる。子どもを信じないくせに大人を信じろって、自分たちのこと棚に上げすぎなんだよな。それでどうやって大人を信じろって話。

(引用:1. 誰も信用できないから「助けて」と言えない(風間暁))

子どもへの強い共感から入るのは、文筆家であり、依存症予防教育アドバイザーの風間暁さん。幼少期から家庭で虐待を受けていたという風間さんは、10代で経験したさまざまな出来事、当時の境遇、社会や大人への怒りを打ち明けます。

そして、今だからこそ伝えたい思いや、困難のなかで自分自身を守る術に触れ、苦しみながら生きる子どもたちに寄り添いながら「あなたの責任じゃない」と綴ります。

他にも、部活動と体罰、フリースクールなど、学校や居場所をテーマにした章や、宗教二世、ヤングケアラー、LGBTQ+の当事者に向けた章も。専門家それぞれの立場や経験から伝えられる「助けて」の発し方、身の処し方、気持ちの開放の仕方などを真摯な言葉で紡いでいます。

(目次)| 「助けて」が言えないあなたへ――当事者へのメッセージ

1. 誰も信用できないから「助けて」と言えない――孤立無援をどうサバイバルするか:風間暁

2. 自分を傷つけたい・消えたい・死にたいのに「助けて」と言えない:勝又陽太郎

3. つらい記憶が頭から離れないのに「助けて」と言えない:新井陽子

4. 「助けて」という気持ちをクスリと――緒に飲み込んでしまう:嶋根卓也

5. 大人はわかってくれない――大好きなものを理解してもらえないあなたへ:佐々木チワワ

6. SOSは届いているのか――学校でのいじめや理不尽な指導に苦しむあなたへ:渋井哲也

7. 部活をするのは何のため?――「これって体罰かも」と感じながら、身動きがとれないあなたへ:為末大

8. いじめを知り、解決するために――いじめを受けている、いじめを受けたことがある、いじめを止めたいあなたへ:荻上チキ

9. 宗教二世として苦しむあなたへ:横道誠

10. 学校とも家とも違う居場所がほしい――フリースクールってどんな場所?:前北 海

11. 生まれてこなければよかったと思っているあなたへ――セクシュアルマイノリティの子どもへの“手紙”:新田慎一郎

12. 親が病気なのは自分のせい?:プルスアルハ

「私たち大人は自分たちの10代を忘れている。」

本書の編著者の松本さんは、2019年にこの前作として『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』(日本評論社)を発行。2023年8月現在、第7刷まで増版され、話題を呼んでいます。

上梓後に起こったコロナ禍では、自宅待機を余儀なくされた子どもたちへの、潜在的なネグレクト、性的なものを含めた虐待の増加が懸念されるように。またそのような劣悪な家庭環境にある子どもたちが、居場所を求めて集まる「トー横」も注目されました。

さらに、宗教二世、ヤングケアラー、学校やスポーツの現場における体罰など、子どもに関するさまざまな社会問題も露呈。発行から4年の間に、特に10代を取り巻く環境でさらなる問題が浮上することとなり、続編としての『「助けて」が言えない 子ども編』の企画に至ったといいます。

隔月刊誌『こころの科学』の企画記事として立ち上がり、好評を得て書籍化された本書。支援者という社会的立場ではなくとも、耳が痛いと感じる部分が多くあります。特にパート2は、子どもの視点による大人社会が鋭く描写され、ハッとすることも。子どもに向けたメッセージであるものの、大人こそ得られるものが多いかもしれません。

正直に告白すると、私たち大人は自分たちの10代を忘れている。  (中略)かつては、あまりの重さで背骨がたわみそうなほど肥大した自意識を背負い、自身の存在価値を疑いつつ世界を呪っていたはずなのに、その部分が蒸発したように消えてしまい、爽やかな青春物語へと改竄された感じがする。  まるで選択的な健忘症だ。  私たち大人がいつも子どもに対してピント外れの助言をし、我知らず自分たちが望む子ども像を押しつけるのは、そのせいではあるまいか?

(引用:はじめに(松本俊彦))

2023年9月10日(日)には、「子どもの安心を探して」をテーマにしたトークも予定。松本さんと、特別支援教育の現場で活動し8月に『教室「安全基地」化計画』(東洋館出版社)を上梓した川上康則さんが、互いの編著書を切り口に語り合います。

子どもたちはどんな思いで今を生き、どんなSOSを発しているのか。その気づきにつながる本書を、ぜひ一読してみませんか。