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認知症と共に生きる世界とは?日々を生き抜く知恵とユーモアに着想を得た作品展示「だいたいおっけー展」1月10日まで
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【写真】テーブルの上に展示物が並んだ、展示会場の様子
〈福岡市認知症フレンドリーセンター〉にて、2024年9月10日(火)〜2025年1月10日(金)開催

認知症のある方の語りを読み解いて生まれた「発見」「感動」を広く共有する展覧会

超高齢化社会を迎えた日本において、認知症のある人は右肩あがりで増え、2030年には523万人、高齢者の約14%になると推計されています。誰にとっても身近なことになりつつある一方で、認知症になるとどんな日々を送るか、想像がつかない方も多いのではないのでしょうか。もしかしたら「生活が楽しめなくなってしまう」のようなイメージもあるかもしれません。

そんな認知症のある方の、日々を生き抜く知恵とユーモアに着想を得た展覧会「だいたいおっけー展」が〈福岡市認知症フレンドリーセンター〉で2025年1月10日(金)まで開催中です。

展覧会のプランニングを行うのは、〈認知症未来共創ハブ〉の堀田聰子さん。「認知症のある方の語りを紐解いて生まれた発見と感動を、より多くの方々と共有したい」という願いから、理工系のメディア研究等を行う学生・研究者、デザインリサーチャーに声をかけ、取り組みました。

【写真】展覧会会場に人が集まっている様子
会場の〈福岡市認知症フレンドリーセンター〉は、認知症になっても住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らせるまちを目指す、「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」の拠点施設

「認知症のある方が生きる世界」を広く伝える

堀田さんが代表を務める〈認知症未来共創ハブ〉は、認知症とともによりよく生きる未来を目指すプラットフォームです。認知症のある方へのインタビューを活動の要とし、初期に100人以上の認知症のある方の参画を得て、一人ひとりのプロフィールや日々の喜び、やってみたいこと、生活上の困りごと、これを切り抜ける知恵などを整理・分析してデータベース化。認知症当事者ナレッジライブラリーとしてウェブサイト上で公開しています。

同時に、認知症のある方が生きている世界をより多くの人へ伝えるために、デザインの専門家集団である〈issue+design〉の筧裕介さんらとともに「認知症世界の歩き方」プロジェクトも手掛け、「認知症世界」で起こる14のストーリーをウェブサイトで紹介。さらにその内容に、認知症とともに生きるための知恵を学ぶ旅のガイドを加えて、2021年には書籍『認知症世界の歩き方』(ライツ社)を発行しました。

しかし、プロジェクトを進める一方で、認知症の方のお話を伺うことで聞き手自身がどこか元気付けられるように感じられたり、受け取るものがある感覚を表現し切れていない、とも堀田さんたちは感じるようになります。そうしたなか、メディア技術と表現の研究者である早稲田大学理工学術院の橋田朋子さんとの出会いや、2023年秋にオープンした〈福岡市認知症フレンドリーセンター〉での思いの共有を経て、今回の展示を行うことになりました。

「だいたいおっけー展」とは

制作にあたって、まず行ったのは、〈認知症未来共創ハブ〉のインタビューに参加した認知症のある方のうち、二次利用の同意を得られた88人の文字起こしを、さまざまな専門分野の研究者と多職種の専門職らで再検討すること。「生活の中でのちょっとした楽しみ・こだわり」「生活の知恵」など4つのテーマで抽出したものを読み解きました。

橋田さんや、デザインリサーチャーの神野真実さん、理工系のメディア研究等を行う学生らとともに興味を持ったエピソードを抜き出し、どこに惹かれたのかなどを互いに話し合いました。最初は認知症になったらなにひとつわからなくなる、怖い、悲しいという印象を持つメンバーもいましたが、じっくり読み込むうちに、さらに実際に認知症のある方に出会い、ともに過ごす経験を重ねるうちに、認知症のある方がこれまでのやり方や考え方、目指すゴールを変えたり、身の回りの人やペット、テクノロジーの力を借りたりと、さまざまな工夫を編み出していることを知ります。

「代替」可能な工夫を編み出し、現状を「だいたいOK」な状態にしていることから、展覧会の名称「だいたいおっけー」が決まりました。認知症のある方が日々を生き抜く知恵とユーモアに驚き、突き動かされて制作した4つの作品を紹介します。

・そうなんでスタンプ

棚に並んだスタンプの中から気になるものを選んで紙に押すと、認知症のある方が体験した短いエピソードが現れる展示です。読んだ印象で、スタンプを「そうなんです」「まぁいっか」「たまるか」と書かれた棚のどこかに自由に戻すことができます。

認知症のある方が自らに向き合い(そうなんです)、現状を受け入れたり、折り合いをつけたり(まあいっか)、踏ん張ったりする(たまるか)姿勢に感銘を受けて開発をしたというこのスタンプ。手に取る、押す、棚に戻すなどの工程を通して、日々のエピソードを自分ごと化して考えながら、認知症との付き合い方や知恵を体感することができます。

【写真】正面にはスタンプ、手前の机の上ではスタンプを押す台がある
「1人で出かけると道に迷うけれど、犬と一緒だと家に帰ってくることができる」など自らの現状を受け入れながら生活する知恵もたくさん。スタンプを押した紙は持ち帰ることができます

・新たな料理のさしすせそ

認知症のある方のさまざまな料理への向き合い方を、料理の基本「さしすせそ」になぞらえて紹介した映像作品です。

例えば「し」では、「視界に『きっかけ』を置いておく」として、下ごしらえした材料を冷蔵庫にしまい込まずにまな板の上に乗せておくことで、作業を休憩しても再開しやすい工夫を。また「そ」では、「味噌が入っていなくても味噌汁」として、「食べる人が好きな味に仕上げればよい」と完成品を作ろうとするこだわりや思い込みを手放すさまが紹介されています。

【写真】映像が流れるタブレットの画面をタッチしている
料理の支度を乗り切るための知恵やユーモアは、認知症のある人もそうでない人にとってもヒントがあるはずです

・もしもを楽しむカード

2種類のカードを組み合わせて質問文を作り、回答を書き残していきます。その上で、質問カード、みんなの回答カードを並べ替え、質問文と回答を結び直してみると……?

意外なエピソードが生まれ、新たな「もしも」が生まれていく作品。認知症のある方が、日記を通じて自分のエピソードを再構築しながら生活していることに着想を得た、ありうるかもしれない出来事を空想して楽しむための装置です。

【写真】木の枠につるされたカードをめくっている様子
使ううちに何が“正解”かわからなくなっていきます。来訪者からは、「『自分の言うことが間違っているかもしれない』と恐れてしゃべらなくなった認知症のある母でも、間違いではない答えを言うことができてとても良い」などの具体的な反応も

・2個あるんです掲示板

認知症のある方が同じものを買いすぎても、その状況をポジティブに捉えられる工夫をしていることに着想を得た作品。「買ったら期限はあるがゆっくり使えるもの」「一度開けたら一気に使わなければいけないもの」などのお題に対して、その使い道や対策を投稿したり、他のアイディアに対してリアクションしたりできます。

会場のお題は、2週間ごとに変わっていきます。また、オンライン上のアンケートフォームもあり、遠方からも参加できます。

【写真】鏡の前に洗剤が置いてあり、2つあるようにみえる。手前には付箋やペンが置かれている
展示会場では、付箋に「使い道や対策」を書いたり、貼られた付箋にシールを重ねてリアクションしたりできます

訪れた人からは「認知症になっても工夫次第で楽しめることを知った。生きるヒントをいただくことができた」「いろんな年代にさかのぼったり、わくわくできた」などの感想が届いているそう。また会場となる〈福岡市認知症フレンドリーセンター〉のセンター長・党一浩さんは、「認知症は恐る恐る触れなければいけないものではない。この展示のように、ゴールポストを動かしたり、ストライクゾーンを広げたりする取り組みはこれからも必要とされているのでは」とも語ります。

手にとって押してみたり、書いてみたり、持ち帰ったりなどさまざまな体験を通して、認知症のある方の生活を自分ごとにして楽しめる展覧会です。ぜひ、会場を訪れ、自分や身近な人の姿を重ねながら、認知症に向き合ってみませんか。