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セツルメント運動と文化活動の接点を探る。展示「共に在るところから」が東京都墨田区で開催中
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『共に在るところから/With People, Not For People』は11月5日から27日まで開催

地域福祉とアートの繋がりを考える展覧会が開催中

2022年11月5日(土)から27日(日)まで、地域福祉とアートの繋がりを考える展覧会「共に在るところから/With People, Not For People」が〈興望館 別館〉(東京都墨田区)で開催中です。

本展は、アートプロジェクト〈ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち(通称:ファンファン)〉の活動の一環として行われます。アーティストの碓井ゆいさんを迎え、これまで〈ファンファン〉が碓井さんと行ってきたリサーチの成果と、そこから着想を得て制作された作品が展示されます。

会期中はイベントも実施され、「セツルメント運動」とアートを手がかりに、人々が地域のなかで「よりよく生きる」ためにどのような創造的な実践ができるかを、来場者と共に考えます。

墨東エリアから生まれたアートプロジェクト〈ファンファン〉とは

〈ファンファン〉は、地域の文化資源の活用を通じてまちを学びの場に見立てるアートプロジェクト。2018年から墨東エリアと呼ばれる墨田区の北東部を舞台に、まちに集まる人々とアーティストや研究者の対話を通して、豊かに生きる方法を探っています。

これまでのプロジェクトを通して参加者は、他者との対話で生まれる気づきから、自分自身の想像の幅を広げ常識や当たり前を解きほぐしながら、自分らしく豊かに生きるヒントを見つけてきました。

墨東エリア
墨東エリアは2000年台初頭に住民主導のアートプロジェクトが生まれた。大学誘致、駅前開発などを経ても尚、多くのクリエイターが集まる

なかでも「プラクティス」は、〈ファンファン〉の地域の歴史や文化資源をキーワードにしたトーク企画「ラーニング・ラボ」から生まれたアイデアを具体的なアクションへ繋げるプログラム。今回の展覧会「共に在るところから/With People, Not For People」も、「ラーニング・ラボ」の対談をきっかけに生まれました。

2020年に実施された碓井ゆいさんと伊藤亜紗さん(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)の対談、「手芸の在り処:手仕事から見る家庭と労働」
黒石いずみさん(青山学院大学総合文化政策学部教授)と 萱村竜馬さん(社会福祉法人興望館事務局主任補)の「文化が寄り添っていた場所:今和次郎とセツルメント運動」

〈興望館〉でのセツルメント運動のリサーチから生まれた展示

アーティストの碓井ゆいさんは、1980年東京生まれ。手芸の技法を中心に、布をはじめとした身近な素材を用いて平面・立体作品を制作しています。社会や文化、歴史に対し、女性や労働の視点を中心に様々な角度から読み解いていくことで作品制作に取り組み、関係性や批評を生み出す表現活動を行っています。

碓井ゆいさん
アーティスト碓井ゆいさん

碓井さんは「ラーニング・ラボ」登壇後の2021年から、100年以上ものあいだ保育事業を営む〈社会福祉法人興望館〉と協働し、「セツルメント運動」と文化活動の接点を探るリサーチを実施しました。

「セツルメント運動」とは、学生や宗教家が貧しい地域に移り住み、住民の生活改善を行う社会福祉運動のことで、19世紀のイギリスから広がりました。それぞれの地域課題に応答するかたちで、保育、診療、法律相談、職業訓練、文化活動など様々な取り組みが複合的に行われていたそうです。

〈興望館〉は1919年に北米の婦人宣教師たちが中心となって興したセツルメント運動の拠点でした。現在も、保育園や地域活動部の運営を継続し、長野県にあるもう1つの拠点では児童養護施設の運営を行っています。碓井さんは〈興望館〉に保存されていた保育日誌や写真資料を調査するほか、2021年11月から12月にかけて学童クラブを利用する子どもたちを対象にワークショップ「トナリのアトリエ」を全6回開催。子どもたちの描いた絵や絵日記を冊子にまとめました。

 

ワークショップの様子
ワークショップの様子。回によっては20名以上の子どもたちが参加することも(撮影:高田洋三)

今年度はこれまでの活動の成果発表として、興望館セツルメントの資料や碓井ゆいさんがリサーチから着想を得て制作した作品を発表します。

会期中、「よりよく生きる」ことを考えるイベントもあり

「セツルメント運動とアートの繋がりを模索するなかで見えてきたものは、人々が『よりよく生きる』ことを目指すうえでは、福祉もアートもひとつのグラデーションのなかに存在しているということです。『共に在るところから/With People, Not For People』では、セツルメント運動とアートを手がかりに、人々が地域のなかで『よりよく生きる』ためにどのような想像的な実践が行えるか、その可能性を考えていきます」(主催者)

会期中は、関連イベントも開催予定です。

11月20日(日)にはトークイベント「アートのやわらかな社会実装」をオンライン配信。ゲストに〈NPO法人アーツイニシアティブトウキョウ(AIT)〉でレジデンス・プログラムや展覧会の企画などを行う堀内奈穂子さんを迎え、碓井さんと〈ファンファン〉のディレクター・青木彬さんと共に、現代社会においてどのようにアートを社会実装することができるかを考えます。

また、11月26日(土)は「創造的な地域福祉を目指して」をテーマに、展示会場の〈興望館 別館〉にてオープンディスカッションが開催。青木さんが進行を務め、アートと地域福祉の協働について、参加者のみなさんと共に可能性や悩みを話します。

セツルメント運動とアートの接点に関心のある方は、この機会に一緒に「よりよく生きる」ためのヒントを考えてみませんか。