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ユニバーサルデザインってなんだろう? UDフォントの舞台裏『わたしは書体デザイナー』発売
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【画像】表紙。いろんな書体とかわいいイラストが並ぶ
著者は高田裕美さん(株式会社モリサワ UD担当 ブランドエキスパート)

知らず知らずのうちに、「書体」が読みやすさに影響している

私たちの毎日はたくさんの「文字」に囲まれています。メッセージアプリやメール、新聞や書籍、駅の案内表示、食品のパッケージ、Webサイト……それら普段何気なく目にしている文字は、よく見るとどれも同じではありません。

たとえば、情報を正確に伝える新聞と、感覚的に楽しむ雑誌を見比べると、使われている文字の印象が違うはずです。お店の看板の文字と道案内の標識でも、やはりトーンの異なる文字が使用されているでしょう。

こうした違いを生み出しているのが、「書体」です。

【画像】本文見開きカラーページ。スマホや本、お菓子のパッケージが、フォント名とともに記されている

『みんなの「読める」をデザインしたい わたしは書体デザイナー』(Gakken)は、書体を開発するデザイナーの高田裕美さんが、多くの人に「読める」「読みやすい」と感じてもらえる「UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)」を開発する過程を描いた本です。身近でありながら見過ごされがちな「書体」をテーマに、ユニバーサルデザインを子どもにもわかりやすく紐解いていきます。

書体の世界から考える、ユニバーサルデザイン

文字に関する言葉には「文字」「書体」「フォント」と区別があります。

言葉や文を書き記すための記号そのものが「文字」。ある考え方のもと、同じ雰囲気をもたせてデザインされた文字の集まりが「書体」。そして、それをパソコンやデジタル機器で使えるようにしたものが「フォント」です。普段あまり意識されることはありませんが、書体やフォントは私たちの「読む」「感じる」「理解する」という体験に大きな影響を与えています。

【画像】基本書体の解説。明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体の3つが並ぶ

例えば基本書体の一つである明朝体は、縦線のほうが太く、横線には「ウロコ」と呼ばれる装飾があり、まじめで落ち着いた印象になります。一方、ゴシック体は線の太さが均一で、かっちりとした力強さがあるでしょう。丸ゴシック体なら、その名の通り線の端に丸みがあり、やわらかく、親しみやすい印象を与えます。

これらの中には、読みやすいと感じる文字もあれば、なぜか目が滑ってしまう文字もあります。人によっては文字を見たときに「形が崩されていて読みづらい」「角が刺さるような感じがして怖い」といった印象を抱く場合もあります。その差は、単なる好みだけではなく、見る人の特性や、そのとき置かれている状況とも関係します。視覚障害のある人や、文字の読み書きに困難があるディスクレシア(学習障害の一種)がある人にとっては、書体が「読める」「読めない」に直結するケースも少なくありません。

【画像】本文見開き。小見出しに、全ての人のためのデザイン

そこで本書『わたしは書体デザイナー』の大きな軸となるのが、「ユニバーサルデザイン」という考え方です。「バリアフリー」がすでに存在している不便さや障壁を後から取り除く工夫であるのに対し、「ユニバーサルデザイン」は文化・国籍・年齢・性別・障害の有無などを問わずできるだけ多くの人が使えることを前提にした設計を指します。

ユニバーサルデザインの考え方は、書体を考えるうえでも、とても重要な視点になると著者の高田さんは言います。高田さんらが開発してきた「UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)」は、より多くの人に、見やすく、読みやすく、読み間違えにくいことを目指して設計された書体ですが、ここでいう「より多くの人に」とは多数派だけに合わせることではありません。

読みづらさを感じている人に寄り添いながら、同時に、多くの人にとっても自然に使えること。その両立を目指すことこそが、ユニバーサルデザインなのです。本書は、文字が単なる装飾ではなく、社会と人をつなぐインフラのひとつであることを実感させてくれます。

文字の向こうにいる「人」を見つめる仕事

この本では、書体メーカーで働く高田裕美さんの仕事と、高田さんが手掛けたUDフォント「UDデジタル教科書体」の開発を辿ります。

【画像】児童書コーナーで販売中、の書店ポップ

高田さんは〈株式会社モリサワ〉の書体デザイナー。2006年、電車の車両を製造する会社から「和文のUDフォントを作ってほしい」という依頼を受けたことが、UDフォント開発のきっかけになります。

当初はデザイナーとしての判断で「読みやすさ」の工夫を重ねた高田さんですが、次第に「本当にこれでユニバーサルデザインが実現できていると言えるか」という問いが生まれたといいます。そこから実際に、文字が見えにくい・読みにくい人たちの意見も取り入れるようになりました。

わたしは、デザイナー全員をまとめるチーフデザイナーとして、UDフォントをデザインしながら、何かもっと工夫できることはないだろうか、わたしたちが気づいていないことはないだろうか、と自問自答するようになりました。そして、デザイナーの工夫だけで、「ユニバーサルデザインが考えられている」と、自身をもって言えるのだろうかと、だんだん不安になっていきました。

(3章 書体デザイナーの仕事 p68)

文字の見えにくさ・読みにくさは、「文字がぼやけて見える」「特定の色の違いがわかりにくい」「視野の一部が欠けている」など、人によってさまざまです。

「UDデジタル教科書体」を、多くの人にとって読みやすいフォントにしたい。その思いで、高田さんは視覚障害研究の第一人者である慶應義塾大学の中野泰志先生とともに、特別支援学校や拡大教科書を制作する現場、視覚障害のある子どもたちのための図書館、盲導犬の訓練所などを訪ね、実際の「見え心地」を聞きながら開発を進めました。

『わたしは書体デザイナー』ではそうした過程をたどりながら、文字の形そのものが、学びのつまずきにつながる可能性についても紹介されます。たとえばゴシック体の「山」は、左下に出っ張りがあることから3画ではなく4画に見えてしまい、初めて文字を習う子どもたちは戸惑ってしまうのです。

わたしはその光景を見たときに、弱視の子どもたちに読みやすく、学びやすい書体が、世の中にはないことを知り、ショックを受けました。 そして「これは社会に開いたあなだ!」と感じたのです。

(3章 書体デザイナーの仕事 p77)
【画像】本文見開き。UDデジタル書体における、山や心の文字の違いが解説されている

こうして生まれたUDフォント「UDデジタル教科書体」。現在では教科書をはじめ、市町村の広報誌の公共のサイン、テレビ番組のテロップなどさまざまな場面で使われているといいます。本書自体もこの書体で書かれているため、子どもから大人まで多くの人が読みやすく、イラストや写真といったビジュアルでも楽しめる構成になっています。

書体の開発を通して描かれるのは、デザインで社会に関わる一つの仕事のかたち。書体を通して文字を見てみることで、いつもの日常の景色が少し違って見えるかもしれません。