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「喫茶ランドリー」田中元子さんのまちづくりを1冊に。5年の実践が詰まった『1階革命』が発売
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喫茶ランドリーの軒先、そこに集う人々がコラージュのように配置された、本の表紙
田中元子さんの新著『1階革命』が、〈株式会社晶文社〉より発売されています

「喫茶ランドリー」の実践と、1階づくりにまつわるアイデア満載の書籍

「1階づくりはまちづくり」をモットーに活動し、どんな人にも開かれたまちの拠点「喫茶ランドリー」を立ち上げた、田中元子さんによる新著『1階革命ー私設公民館「喫茶ランドリー」とまちづくり』が2022年12月に発売されました。

本書は、田中さんの運営する〈株式会社グランドレベル〉設立の背景、「喫茶ランドリー」の実践やデザイン手法、その他のパブリックスペースのプロデュースを手掛けた実例など、田中さんの実践やまちのグランドレベル(1階)を活性化するアイデアが詰まった一冊です。出版を記念し、2023年1月25日(水)・26日(木)にはトークイベントも予定されています。

喫茶ランドリーの店舗外観。軒先には洋服などが置かれ、マーケットのような様子である
墨田区の住宅街に佇む、喫茶ランドリー

「喫茶ランドリー」の歩み

田中さんはもともと、建築コミュニケーター・ライターとして、メディアやプロジェクトづくり、イベントのコーディネートやキュレーションを行ってきました。

2014年に趣味として、まちに屋台を出し、コーヒーを無料で振る舞いはじめます。その際、1階がまちに対して“閉じている”場所の多さが気になり、グランドレベルの風景を変えたいという思いから2016年に〈グランドレベル〉を設立しました。

白いファーのコートを着て、腰に手を当て、笑顔でこちらを見ている田中さん
田中元子さん

見返りを求めず通行人に一杯のコーヒーを振る舞うことで生まれるような、「手作りの公共」を「マイパブリック」と名付けた田中さん。2017年に発行された前著『マイパブリックとグランドレベルー今日からはじめるまちづくり』(晶文社)でも、1階を活性化するための取り組みを紹介しています。

そんな前著の執筆中に〈グランドレベル〉に持ち込まれたのが、東京都墨田区の住宅街にある、築55年のビルの1階をどうにかできないかという相談でした。田中さんの脳裏に、以前デンマークのコペンハーゲンで立ち寄った洗濯機のあるカフェで、家族連れ、学生、男性のひとり客などがリラックスした表情で過ごしていた風景が蘇ります。多様な人々が自分なりの目的で使いこなしてくれる、公民館のような場所がつくりたいと、田中さんは「喫茶ランドリー」を始めました。

オープン後徐々に顔見知りや常連さんが増えるなか、店ではまちの人々の「やりたい」という気持ちに端を発した、大小さまざまな展示やワークショップなどが行われるようになります。最初の10カ月でその数は200近くに及び、思い描いていたような「私設公民館」として活用が進んだことで、新しいまちづくりを実践する拠点としても注目された「喫茶ランドリー」。現在も全国各地に、理念を共有するお店や場所を増やしています。

「喫茶ランドリー」は2018年のグッドデザイン賞にて、グッドフォーカス賞[地域社会デザイン]も受賞。2022年には、田中さんが同賞の審査員として「おてらおやつクラブ」松島靖朗さん、「まほうのだがしやチロル堂」吉田田タカシさんとのトークにも参加しています

『1階革命』で描かれる、「喫茶ランドリー」の実践と背景にあるデザイン

本書では、こうした「喫茶ランドリー」ができるまでの経緯とその後の展開が綴られているほか、そのデザイン手法についても詳らかにされています。

第3章の「喫茶ランドリーのつくり方ーグランドレベルの手法として」では、「喫茶ランドリー」のデザインについて、ハード・ソフト・コミュニケーションという3要素で分析されています。例えばハードのデザインの冒頭には、「喫茶ランドリー」の空間は自由に使ってもらえるよう計算され、作り込まれた設計であることが書かれています。

“さまざまなひとにそれぞれの使い方をしてもらえる場となっているということについて語られるとき、よく「余白」という言葉が使われる。敢えて作りかけにする、隙を残すという意味のようだが、だとしたら根本的に間違っている。わたしは喫茶ランドリーの設計において、隙を「残して」などいない。そう見えるように緻密に計画し、作り込んだ。それは意図的に描いたり置いたりしたものの余りなんかではない。そんなものをひとは有意義に使わない。本当の余白は、作り込まれた結果だ。” (p.84より引用)

客席をどのようにデザインしたか、建物の内と外をつなげる開口部をどう変えたか、家具や食器をどう選んだか。各ポイントに分けて、実際の写真やスケッチも交えて紹介しながら、なぜその考えに至ったかが明らかにされます。

椅子、机、照明などが並んだ、喫茶ランドリーの店内
喫茶ランドリーの店内。不特定多数の人がリラックスできる空間を目指して、家具や照明などが選ばれています

さらに、〈グランドレベル〉の設計で重要となるコミュニケーションのデザインは、「これ抜きでは今まで起きてきた出来事のほとんどは、なかったと思う(p.124)」と田中さんが述べる大切な部分です。

なかでも繰り返し登場するのは、「属人性」の言葉。私設公民館として、たくさんの人が関わり、かつ偶発的なことが起こる場をつくるための重要なポイントとして、「店員さんではなく、あなたがいてほしい」という言葉と共に綴られています。

“喫茶ランドリーにはルールもマニュアルもないが、数少ないスタッフのお願いごとのひとつが、「店員さん、なんてつもりにならないでいて欲しい」ということだった。わたしが欲しいのは、指示すればある程度誰でもできるようなことではなく、スタッフになってくれる彼彼女らの、短所も含めた属人性だからだ。特に国内で、わたしたちが日常的に見慣れている店員さんの仕草とは、誰に対しても同じ態度で同じ言葉の、とても機会的なものだ。そういうことがプロと呼ばれるならば、喫茶ランドリーのスタッフは永遠にプロになんか、ならなくていい。プロ店員は、お客さんをプロ客にするきっかけともなってしまうからだ。もちろん、その関係性が価値となる場もある。でもここではどうか。プロ店員とプロ客という構図ができた時点で、せっかくいちいち私設で公民館をつくろうとする目的に、届かなくなる。” (p.127より引用)

また第4章では、全国でカフェや公共スペースのデザインを任されることになった〈グランドレベル〉の展開事例も紹介されています。同じ「喫茶ランドリー」の名前が使われている店舗でも中身は異なり、そこに立つスタッフたちの「らしさ」や地域性を重視。他で真似できないあり方を大切にプロデュースしてきたことが伝わってきます。

さらに第5章では、「人々がより健康的でしあわせな状態」でいられるまちになるための田中さんの1階づくりにかける思いが語られ、第6章では、「すぐにやれる1階づくり」として〈グランドレベル〉が手掛けるベンチプロジェクトが紹介されています。

田中さんの5年間の歩みがまとめられた本書。「喫茶ランドリー」をはじめとする実践例とともにその背景や理念が詳しく書かれ、まちづくりを行いたいと考える人のためのアイデアやヒントになる一冊です。

書籍の表紙

田中さんをゲストに迎えた2つのトークイベントが、関西エリアで開催

本書の刊行に併せて、2023年1月25日(水)と26日(木)にトークイベントが開催されます。

〈大阪ガスネットワーク 都市魅力研究室〉(大阪府大阪市)が主催する「うめきたTalkin’ About」は、あるテーマについて興味・関心を持った人たちが集い語り合うサロン。25日のイベントでは「1階からはじまるまちづくり革命」というテーマで田中さんが登壇し、参加者と共に自分の関心や思いから“公共的な状態”を生み出していく方法について考えていきます。参加費は無料で、現地参加とZoomのハイブリッドで開催されます。

〈起業プラザひょうご(KiP)〉(兵庫県神戸市)が主催する26日のトークイベントでは、「喫茶ランドリー」をオープンして5年経った現在の思いやこれからについて、田中さんがトークをする予定です。(現在の申し込みは、KiP会員もしくはKiP会員検討中の方に限定されています)

まちづくりに関心のある人はもちろん、一人ひとりが生かされる場づくりや、より健康でしあわせな地域社会のあり方を模索する人にもヒントのある『1階革命』。ぜひ本を手にとったり、トークイベントに参加したりしながら、田中さんの言葉に耳を傾けてみませんか。