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災害福祉支援の1カ月半をまとめた『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』。今からできる未来への備えは?
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2冊の『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』、表紙と本文見開きの画像

明日は、あなたの街かもしれない。災害時でも「暮らし」を営むために

地震、台風、豪雨、火山の噴火――私たちの生活を一瞬で非日常に変えてしまう災害は、いつ、どこで発生するか分かりません。まして日本は、その位置や地形、気象条件から、世界有数の災害大国。

災害に見舞われたあと、非日常の中でも私たちの生活は続いていきます。朝起きて食事をし、周りの人と関わり、排泄を行い、眠りにつく。いつもと違う環境下の中では、当たり前にしていた行為が難しくなることもあります。非常事態の「暮らし」をどう作り、守り、過ごしていけばよいのでしょうか。

そのヒントをくれる一冊『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』が、2024年12月に6つの社会福祉法人の手によって発行されました。6法人は有志で災害福祉支援チーム「FamSKO(ファムスコ)」を結成し、年始に起きた令和6年能登半島地震で、介護福祉士などの福祉専門職を延べ369名派遣しています。避難所や被災地で行った支援の経験をまとめ、いざという時に役立つ実践的な情報を詰め込んだ一冊です。

表紙『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』。2024年能登半島地震で私たちが学んだこと、のサブタイトル

急な災害派遣、なぜ6法人でチームを組んだのか

「FamSKO」は、活動エリアも、行っている福祉事業の内容も異なる6つの社会福祉法人で構成されています。チーム名は、それぞれの頭文字から付けられました。

(F)社会福祉法人福祉楽団:「この地域の暮らしを300年先につなぐ」を合言葉に、千葉県や埼玉県など9つの拠点で、多岐に渡る分野で福祉・介護サービスを展開。「FamSKO」の呼びかけ法人

(a)社会福祉法人愛川舜寿会:神奈川県を中心に特別養護老人ホーム、デイサービス、ショートステイなどの事業を展開しながら、ケアを起点とするコミュニティづくりを行う法人

(m)社会福祉法人みねやま福祉会:「あらゆる垣根を越境し新しいフクシを創造する」をビジョンに掲げ、京都府北部京丹後市を中心に、児童福祉事業・高齢者福祉事業・障害福祉事業の3分野で21施設を展開

(S)社会福祉法人生活クラブ:高齢者支援、子育て支援、障がい児者支援、相談支援の4事業を展開する「生活クラブ風の村」を千葉県で運営

(K)社会福祉法人薫英会:「高齢者や障がい者だけでなく、すべての人が楽しく生きられる未来を創造する」を掲げ、群馬県を拠点に障害福祉、高齢者福祉事業などで人と人、人と地域・社会を繋ぐことを大切に活動を行う

(O)社会福祉法人小田原福祉会:小田原市を拠点に36事業所を運営している法人で、特別養護老人ホーム、デイサービス、小規模多機能型居宅介護といった高齢者福祉を中心にサービスを展開している

チーム結成のきっかけとなったのは、令和6年能登半島地震が発生した1週間後の2024年1月8日に、〈医療法人社団オレンジ〉と〈NPO法人ぐるんとびー〉が、石川県輪島市に福祉避難所を開設したこと。そこから、応援依頼を受けた〈福祉楽団〉の理事長・飯田大輔さんの声かけに、ナイチンゲールのケア理論の勉強会で関わりがあった〈小田原福祉会〉や、研修で交流を持つ〈生活クラブ〉など、過去に縁のあった各法人が参加を決めました。

「この6団体であればやれると思った」と、飯田さんは振り返ります。

「生活を整える」ということに基盤をおき、そうした考え方や理論を学びたいという法人が増え、日常的なやりとりのほか、勉強会や視察で一緒になることが多かった法人です。職員の交流もありますし。気合いというよりはもうちょっと理念みたいなところでつながっているような気がします。そのような信頼関係から、いざ災害派遣をするとなったときに、この6団体であれば一緒にやれると思って、お誘いをしました。

(『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』第4章 FamSKO座談会 31ページより)

展開する事業や拠点ではなく、各法人が持つ「暮らし」や「ケア」において、近い目線をもつ法人たちだからこそ組めたチーム。また、災害派遣の経験がある法人もあり、そのノウハウを共有しながら被災地に向かいました。

ベッドが多数横たわった屋内の写真。積み上がった毛布の向こうに利用者と思われる人が、また通路に支援者と思われる人が立つ
到着時の福祉避難所「海と空(ウミュードゥソラ)」の様子

支援者たちから学ぶ、被災地支援で必要なこと

『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』は、2024年1月11日に石川県輪島市内の福祉避難所に最初の介護福祉士を派遣し、2月21日に同施設での支援活動を終了し帰還するまでの、42日間の記録と、支援をもとにした調査結果や、未来につなげるための提言をまとめています。

まず第1章「福祉支援チームFamSKO 活動記録」では、1日ごとのタイムラインが写真とともに掲載され、スタートから終了まで、どのような支援を行い、どういった環境変化があったのかが細かく記録されています。

その上で第2章「介護福祉士のコンピテンシー」では、被災地という非常事態において、派遣される介護福祉士に求められること、被災地の状況に適応できる人材の思考や行動の特性(コンピテンシー)が整理されます。

2つのページが並ぶ画像。左、発災初期から福祉避難所の支援に携わる介護福祉士に求められるコンピテンシーとして、派遣期間を安全・健康にのりきるための力がリストアップされている。右、同じく被災地支援の心構え・適応力のリスト
第2章 介護福祉士のコンピテンシー 12ページ/13ページ

非日常の中で作られる、「暮らし」という日常。その不調和に向き合いながら生活を整えようと行動した介護福祉士12人のインタビュー調査と、外部の専門家によるレビューを経て、43のコンピテンシーがリスト化されました。緊急事態でも一人ひとりの背景を踏まえた配慮を行うことから、支援者同士でのコミュニケーションの取り方、自分自身のマインドセットまで掲載されています。

一方で、第3章では「バックオフィス側のコンピテンシー」がチェックリスト化して載っています。

現場をささえるバックオフィスがすべきことのリスト、介護福祉士を派遣するときの持ち物リスト、さらには平時にしておくべきことのリストも掲載。例えば災害時に使う可能性が高い簡易トイレなどの使い方を事前に把握しておくことや、ハザードマップの見方、電気設備が使えない中での日の出・日の入りといった暦の把握方法などは、今『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』を手に取っても準備できることばかりです。

2つのページが並ぶ画像。左、発災直後に介護福祉士を派遣するときの持ち物チェックリスト一覧。右、意外と知らない? おさえておきたいミニ知識の解説
第3章 バックオフィス側のコンピテンシー  24ページ/28ページ

「FamSKO」代表者6人による、未来に向けた提言

第4章では「FamSKO座談会」と称し、6つの社会福祉法人による未来への提言がまとめられました。ここでは、能登半島地震が発生してから派遣が決まるまでの6法人の決断経緯、そして派遣する職員をどう決めて行ったのかが議論されています。

終わりに、「FamSKO」の呼びかけ法人である〈福祉楽団〉の飯田さんは、災害時における福祉支援の意義を次のように話しました。

僕は、自分でもなんで災害の支援するのかなって考えるのは、自分たちが支援してもらったからです。いつ、助ける側が助けられる側になるかわかりません。災害とはそういうものです。そして、助けてもらった経験がある人たちは、それをいつか誰かに返すでしょう。平時から、こうやって広い意味での信頼関係をつくっていきたいですね。ですから、できる範囲で、自分が持っている資源を使ってそのときのために行動し続けたいですね。

(『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』第4章 FamSKO座談会 36ページより)

災害時の避難所や仮設住宅では、ケアにおいても柔軟な対応や迅速な判断が求められますが、そうした現場での経験を事前に学ぶ機会は限られています。事態が起こってから、となってしまうことも。しかし、いつもの日常の中でできる準備や備えがあります。

今回の経験を通して見えたことが、次の機会に活かされることを願い、『介護福祉士 被災地派遣ガイドブック』には多くの人の知恵と想いが詰め込まれています。