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福祉施設でのワークショップの実践をまとめた冊子『ザンネンなわたしたちの世界を変える6つの試み』を〈NPO法人カプカプ〉が発行
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カラフルなせんとかたちでえがかれたイラストのうえに、さっしのタイトルとじょうほうがのっている
障害福祉施設で2021年度に行われたダンスや演劇ワークショップの実践をまとめた冊子『ザンネンなわたしたちの世界を変えるための6つの試み』が、発行されました

障害福祉施設におけるワークショップの記録が公開中

生活介護事業所を運営する〈NPO法人カプカプ〉(神奈川県横浜市)が、2021年度に横浜市旭区内の6ヶ所の障害福祉施設で実践されたワークショップをまとめた冊子『ザンネンなわたしたちの世界を変える6つの試み』を発行しました。

このワークショップは、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の助成を受けて「障害福祉施設におけるアーティストとのワークショップ定着事業」として実施したもの。

冊子には、6つの企画のレポートのほか、「障害福祉施設におけるアーティストとのワークショップ実施のコツ」など、これまでアーティストとのワークショップを数多く企画してきた〈カプカプ〉だからこその視点で記された実践的な内容も収録されています。実際に参加した人たちや活動を知った人たちからの大きな反響を受け、福祉施設でのアーティストによるワークショップを全国に広げていくきっかけになればとの思いから、この冊子はつくられました。

冊子は〈カプカプ〉をはじめ、全国にある障害者芸術文化活動支援センターなどで配布されているほか、PDFでダウンロードすることが可能です。

数多くの実践を行ってきた〈カプカプ〉がワークショップで大切にしていること

〈カプカプ〉は、1997年に神奈川県横浜市旭区で地域作業所としてスタート、1998年に旭区のひかりが丘団地に〈喫茶カプカプひかりが丘〉をオープンしました。2009年にNPO法人化し、2017年からは生活介護事業所として運営。現在は、横浜市内にある〈カプカプ竹山〉と〈カプカプ川和〉、3つの事業所合わせて総勢60名近い人が通い、喫茶店の運営、お菓子づくり、リサイクル品の販売などを中心に行っています。

また〈カプカプ〉では、2011年からアーティストを招いて、絵画やダンス、演奏、歌などのワークショップを継続してきました。「いずれのワークショップも、カプカプに通うさまざまな障害があるメンバーたちだけでなく、スタッフたちの 『表現に対する感覚』をひらいてくれるものです。アーティストはカプカプにいる人たちやそこで起こることのおもしろさを教えてくれます」と、〈カプカプ〉所長の鈴木励滋さんは企画の背景について語ります。

これまでの経験を踏まえ、〈カプカプ〉ではワークショップにおいて「参加型」「体験型」「双方向性」であることを前提にし、「必ずしも形のある成果を求めなくてよい」「丁寧に時間をかけて関係をつくっていくこと」「イベントというより日常の延長であること」などを大切にしています。

また、「なにかが違うことで生きづらさを覚えるのは、その人のせいではなくて社会の側の問題なのだという『社会モデル』が提唱されてかなり経つものの、障害を含むさまざまな差異は個人に、しかも弱い立場の人たちに負わされてるのがこの国の残念な現状です」と言う鈴木さん。そんな状況を変えるために、〈カプカプ〉では「一人ひとりが生きていることを存分に表現できる場」を目指して活動してきました。

ダンスや演劇を中心にしたワークショップをご紹介

「関係を組み直すような場にスタッフも巻き込み、双方向の働きかけの主体の一人にしてしまうのに、演劇やダンスのワークショップは向いている」と鈴木さんが感じたことから、今回の6つのワークショップは、パフォーミングアーツを中心としています。

ここからは、6ヶ所の障害福祉施設でどんなワークショップが企画されたか、その一部をご紹介しましょう。

まんなかにあさひくのちず。いつどこでワークショップがかいさいされたのか、マッピングされている
横浜市旭区内の6つの施設で、少ないところは2回、多いところでは7回にわたりワークショップが開催されました

アサダワタル×〈サポートセンター連〉「れんらじお」

今回の事業に参加している中でもっとも規模の大きな施設であり、旭区の障害福祉の拠点でもある〈サポートセンター連〉。文化活動家として様々な現場で「これまでにない他者との出会い方」の実践をするアサダワタルさんによるラジオワークショップが開催されました。

大きな施設であるため、普段はグループごとに分かれた部屋で活動していますが、ワークショップではそれぞれの部屋から見える共有フロアにラジオブースを設置。ブースや収録風景をふと目撃する中で参加を強く希望するメンバーや、番組企画案を持ち込むスタッフも現れ、回を重ねるごとに、主体的に楽しもうとする人が増えていったそうです。

ラジオブースにマイクをもつアサダさん、マイクをむけるスタッフさんやりようしゃさんなどがすわっている
アサダさん(右)とラジオに出演するメンバーとスタッフ(撮影:小野田由実子)

白神ももこ×〈まどか工房〉「まどかダンスふたたび」

主に知的障害がある人が利用する生活介護事業所〈まどか工房〉。振付家・演出家・ダンサーの白神ももこさんを招いて、ダンスワークショップが行われました。前年度にも、別事業で白神さんと〈まどか工房〉はつながりがあったため、メンバーも歓迎ムードで白神さんを迎えました。また、白神さんの「頑張らなくていい」という声掛けにスタッフの力が抜ける場面があった様子なども記録されています。

りょううでをうえにあげて、てさきをそとがわにひろげ、おどるひとたちおどるひとたち
〈まどか工房〉でのダンスワークショップの様子(撮影:小野田由実子)

岩井秀人×〈むくどりの家〉「むくどりのモロモロ」

1982年から精神に障害がある人たちの拠り所として活動している事業所〈むくどりの家〉。劇団ハイバイの主宰である岩井秀人さんは、自身の引きこもりの経験や父親の暴力など、パーソナルな内容を題材に作品をつくってきました。

ワークショップでは、「今までの人生の中でつらかったこと」についてシェアし、話題にあがった「妹と父親の喧嘩」をエピソードとして、メンバーとスタッフが交代で演じました。実際はすごく腹が立ったり、理不尽に感じることも、演技を通して別の視点を感じることで、面白い場面になるということを体感したという感想が寄せられました。

せいざでむきあうだんせいとじょせい。だんせいのうしろでは、さんかしゃたちがふたりのやりとりをみている
ワークショップ「むくどりのモロモロ」で演じているところ(撮影:小野田由実子)

益山貴司×〈活動ホームあさひ〉「ボス益山アワー」

〈活動ホームあさひ〉は、前身の〈旭区肢体不自由児父母の会〉から40年近く活動する施設です。肢体に不自由がある人たちを中心に、様々な障害のある人たちが通っています。

時間をかけて安心できる場所を築いてきたからこそ、かきまぜてくれるアーティストを、と招かれたのは、「劇団子供鉅人」代表で劇作家の益山貴司さん。普段は寡黙に介助しているスタッフも演劇を通しての芸達者ぶりがあらわになり、はじめてのことに緊張していたメンバーたちも思い切り楽しむことができたそうです。

ますやまさんがりようしゃさんのかたにてをのせ、ますやまさんのうしろにも、りようしゃさんがつらなっている
肩に手を乗せ、1列に連なる益山さんとメンバー。笑顔がこぼれる(撮影:飯塚聡)

冊子『ザンネンなわたしたちの世界を変える6つの試み』では、6つのワークショップレポートのほかに、今年「第66回岸田國士戯曲賞」を受賞した山本卓卓さんが〈地域活動支援センターほわほわ〉のために書き下ろした戯曲「ほわほわのぷりぷり」や、「障害福祉施設におけるアーティストとのワークショップ実施のコツ」が掲載されています。福祉施設・アーティスト、それぞれの視点から、見学時、事前打ち合わせ、ワークショップの実施、など、時系列で確認するべきことや共有するべきことなどが詳細に書かれていて、実践に基づいた内容になっています。

ファシリテーターによる振り返りトーク開催 & ワークショップの出張先も募集中

また、本ワークショップのファシリテーターを務めたアーティストによる「振り返りトーク」の動画が、〈カプカプ〉のYouTubeチャンネルで公開されています。

第一弾のトークには、アサダワタルさん・新井英夫さん・岩井秀人さんが、第二弾には、白神ももこさん・益山貴司さん・山本卓卓さんが参加しています。

 

そして、〈むくどりの家〉でワークショップをした劇作家の岩井秀人さんは、ワークショップができる出張先を募集中。岩井さんと一緒に演劇をやってみるほか、岩井さんの経験を聞いたり、岩井さんに話を聞いてもらったりするなど、どんな形でも構わないとのこと。施設でのワークショップを検討している方は、先ずはご相談してみるのはいかがでしょうか。

アーティストと協働した施設でのワークショップに興味をお持ちの方、実施する上でのコツなどを知りたい方は、ぜひ冊子やトークから実践の詳しい記録に触れてみてください。