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「気になる」が視点の芸術作品展「きになる⇆ひょうげん2024」が開催中!福島の〈はじまりの美術館〉にて、2025年1月19日まで
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「きになる⇆ひょうげん2024」ヘッダー画像。2024.11.23satから2025.1.19sun

100点以上の「気になる」を集めた「きになる⇆ひょうげん」が今年も開催、ゲスト・表現者・審査員のトークも

日々の生活の中で、ついついやってしまう癖や自分だけのこだわり、譲ることのできない大事な時間はありませんか?

例えば、お店でもらった紙袋を大切にとっておいていたり、ペットボトルの蓋を集めていたり。もしかしたら子どものとき、いつも同じモチーフの絵を描いていたり、同じものを握りしめたりしていると落ち着いた、なんて経験を思い起こす人もいるかもしれません。

一人ひとりにとっての大切な営みに目を止め、それを表現として集めた作品展、「きになる⇆ひょうげん2024」が、2024年11月23日から〈はじまりの美術館〉(福島県猪苗代町)で開催されています。その人がいなかったら生まれない「気になる」に焦点をあて、絵画作品から立体作品までさまざまな手法を通して一人ひとりの「気になる」世界が表現された作品展です。

「きになる⇆ひょうげん2024」チラシ画像。審査員の一覧に加え、11月、12月、1月のトークイベントの案内が記されている

「誰もが集える場」として開館10年を迎えた〈はじまりの美術館〉

今年で8回目を迎える、福島県障がい者芸術作品展「きになる⇆ひょうげん」。本展は福島県が主催となり、障害のある方への理解を深め、社会参加を促進することを目的として2018年からスタートしました。「気になる」を1つの視点に、開催当初から「きになる⇆ひょうげん」というタイトルを冠しています。

展示する作品は県内出身・在住者から公募で集められ、作り手の「気になる」を表現した作品と、それを体験した鑑賞者の「どうしてこう表現したのだろう、気になる」を繋ぎ、展示を通して障害について考えを深め、共有することが目的です。タイトルの「⇆」には、作り手、作り手のご家族、周囲の方々、そして鑑賞者など、本展でさまざまな関係性が影響し合っていることを表現しています。

【写真】展示会場内。木造の建物の内部の壁一面に絵画作品が吊るされ、天井からは紐で何か編まれたような立体造形も吊るされている

会場となるのは、福島県猪苗代町にある〈はじまりの美術館〉です。2024年に開館10周年を迎えた〈はじまりの美術館〉は、「表現を楽しむ、つながりの場」がコンセプト。知的障害や発達障害のある子どもの療育支援から、成人後の地域生活や就労支援に至るまで幅広いサービスを展開する〈社会福祉法人 安積愛育園〉が公益事業として美術館運営を行っています。

これまでに多様なテーマの展覧会・美術展を催すこともあれば、ワークショップ、マルシェなどのイベントを行うこともあり、地域の方や県内外の方が集う場として開かれています。館長を務める岡部兼芳さんは、「様々な表現に出会って、ウズウズしたり。いろんな人とつながって、楽しいことをはじめたり。はじまりの美術館はそんな場所を目指しています」とコメントしています。

作為や意図のない、「気になる」が表現された作品たち

2024年9月から10月にかけての公募で集まった作品には、作品の技術や巧さだけではなく、なんだか惹きつけられてしまう「気になる」を1つの基準にして、〈東京藝術大学〉学長の日比野克彦さん、〈福島県立博物館〉専門員の川延安直さん、ノンフィクション作家の川内有緒さん、そして〈はじまりの美術館〉の岡部さんによる審査が行われました。

数多くの作品の中から、受賞作品を紹介します。

【写真】テーブルの上に置かれたバスケットとその周辺に、鮮やかな色の素材が散らばっている

1つ目は、福島県知事賞を受賞した「ぼくの365日」です。作り手は、郡山市に住む藁谷虎太郎(わらがや・こたろう)さん。

この作品は、半透明のピンクとベージュ色のくるくる丸まったものが、バスケットとその手前にあふれています。くるくる丸まっているのは、藁谷さんが市販のストローを口の中でモグモグと噛むことでできたもので、藁谷さんのお母さんが「気になる」と集めました。毎日の行為の積み重ねが結果的に作品になっている点、そのおもしろさに気づいた人が他者にも伝えたいと考えた点が、「きになる⇆ひょうげん」として高く評価されています。

【審査員コメント】
本作は、この展覧会ならではの作品で、行為の集積がここにあります。また、丸まったストローを引き立てているこのバスケットは虎太郎さんのお祖母さんが作ったものだそうです。虎太郎さんのきになること、虎太郎さんのお母さんのきになることと、お祖母さんがつくったバスケット。そんなこともあいまって、今年の県知事賞は藁谷虎太郎さんの「ぼくの365日」を選ばせていただきました。

【写真】壁に掲げられた四角い木枠の作品。枠や内部が赤、青、緑、ベージュ、薄ピンクで塗られている

2つ目は、きになる⇆ひょうげん賞を受賞した「やつはし」という作品です。作り手は、須賀川市に住む本田正(ほんだ・ただし)さん。

本田さんは、これまでに何度も「きになる⇆ひょうげん」の公募に応募している作り手です。応募する作品はいつも独特な造形と、ビビッドな色の対比のバランスが特徴的で、立体的であったり、配置にとてもこだわっていたりすることもあります。

【審査員コメント】
今回の作品は本田さんのこれまでの作品のなかでも、その世界観のなかに行き着くとこまで行き着いてきたのかなと感じます。本作には、八ツ橋のように折りたたんであるように見えるところもあったり、和な雰囲気が軸のようにも見えたり、そして山水画のようにも見えてきます。部屋に飾ると、なにかその部屋を本田さんの世界観で支配しそうな、そんな力のある作品です。

その他にも、4人それぞれの審査員賞、17の特選、100点近い入選作品など含めて、435点の応募作品すべてが展示されています。

【写真】木の梁が見える会場内の展示風景。向こう側の壁一面にやはり多数の絵画作品
【写真】木の梁が見える会場内の展示風景。左右の壁一面に多数の絵画作品

開催に合わせ、ゲストトークや作り手同士の座談会など関連イベントも

本展の開催に合わせ、いくつかのイベントが予定されています。2024年12月7日(土)には、トークイベント「きになるリベルテの取り組み」がオンラインで配信されます。

〈リベルテ〉とは、長野県上田市で活動するNPO法人のこと。2013年に武捨和貴さんが設立し、障害のある人がアート活動を行うアトリエ「スタジオライト」を市内4箇所で展開。アートを軸に、福祉と社会を繋ぐ活動をしています。

〈こここ〉でも、福祉の現場で働く人を尋ねるインタビュー連載「福祉のしごとにん ― 働く人のまなざし・創造性をたずねて」で、理事長の武捨和貴さんにお話をお伺いしました。今回ゲストにその武捨さんを迎え、〈リベルテ〉の理念や地域での取り組みについて話を聞きます。

また、作品の応募者を中心に参加者を募り、「きになる表現者たちの座談会」と題した交流型のイベントが2025年1月18日(土)に予定されています。〈やまがたアートサポートセンターら・ら・ら〉の武田和恵さんをゲストに、表現や制作についての相談や悩みなどを共有する時間を目指します。参加を希望される方は、予約が必要です。

さらに同日、トークイベント「きになる”審査員の見方”」もオンラインで開催予定です。「きになる⇆ひょうげん2023」でも審査委員を務めた、日比野さん、川延さん、川内さん、岡部さんの4名が登壇し、今回の応募作品のエピソードや受賞作品の審査講評を交えてお話します。

昨年度の審査員トークイベント(手話通訳・UDトーク付き)

一人ひとりの異なる「気になる」が表現されているように、鑑賞者にとっても「気になる」と感じる作品は異なります。会場には、作品を見て感じたこと、考えたこと、感想などを自由に書ける付箋も用意されているため、あなただけの「気になる」を見つけたら鑑賞者同士で共有し合うのも良いかもしれません。会期は、2024年11月23日(土)から2025年1月19日(日)まで。ぜひ、今年集まった「気になる」表現に触れてみてください。

【写真】メッセージが書き込まれた木の葉の形をしたカードが多数、ボードに貼られている