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障害のある人の表現活動について考える〈はじまりの美術館〉の『2020年度事業報告書』がオンラインで公開中
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報告書表紙
トークイベントや研修会のレクチャーも盛り込まれた読みごたえのある一冊〈はじまりの美術館〉の『2020年度事業報告書』。福島県福島市を拠点とするFRIDAY SCREENさんによるデザインは、雑誌のように読みやすく、手に取りやすいものになっています

障害のある人の表現活動をいかにサポートするか、取り組みをまとめた事業報告書

〈はじまりの美術館〉(福島県耶麻郡猪苗代町)が、2020年度の「福島県障がい者芸術文化活動支援センター事業」としての取り組みをまとめた、事業報告書を発行しています。

「福島県障がい者芸術文化活動支援センター事業」とは、福島県内の表現活動を行う障害のある人や、そうした活動に関わる人をサポートするもの。〈はじまりの美術館〉は、2019年度より支援センターとして活動を始め、表現活動に関する相談やアドバイス、研修会の開催などを行ってきました。

みぎぺーじに、しえんセンターじぎょうの5つの柱がえがかれている
支援センター事業の取り組みには、「相談する」「発表する・鑑賞する」「情報を知る」「ネットワークを広げる」「研修を受ける」5つの柱があります(右ページ)

イベント内容に加えて参加者の声も盛り込まれた、読み応えのあるレポート

支援センターとして2年目となる2020年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、トークイベントや研修会はオンラインでの開催が中心となりました。その結果、「全国から参加者が集い、対面では出会えなかった人たちともつながり、情報を届けることができた」と本報告書では振り返ります。

例えば、京都の〈NPO法人スウィング〉代表・木ノ戸昌幸さん、神奈川の〈生活介護事業所カプカプ〉所長・鈴木励滋さんを招いたトークイベント「福祉とアートは類似しているか!?」では、リアルタイムで100名がオンライン参加しました。

〈はじまりの美術館〉館長・岡部兼芳さんによる表題の問いかけに、「福祉もアートも生きづらい窮屈な世の中を変えていくための何がしかの可能性を持っている。大切なのは言葉の違いではなく、何を目的としているかだ」と木ノ戸さんが語れば、「私たちは障害福祉の世界を変えるんじゃなくて、障害福祉の試みから世界を変えていく。新しい価値観を提示するその営みはアートに近いと思っている」と鈴木さんが応えます。

話はやがて、喫茶や図書室として場を開くことの可能性、障害のある人による表現の価値、そして支援やケアから生まれる関係性についてまで及びます。報告書では、盛り上がったクロストークの内容を、見開き2ページに渡って紹介しています。

トークイベントのないようページ
リアルタイムで約100人がオンライン参加したトークイベント、「福祉とアートは類似しているか!?」の内容紹介ページ

また、福祉と表現にまつわる研修会「cento -シエント-」は全4回にわたってオンライン開催。「全国の活動を知る」「表現活動のヒントや制作方法を知る」「商品化のヒントや広報を知る」「インターネットでの発信やアーカイブの方法を知る」という4つの切り口で、毎回異なる専門家が講義を行いました。

本報告書では、講義内容を「Lecture」、参加者との質疑応答を「Session」、そして参加者によるアンケートの結果を「Feedback」として掲載。例えば、〈やまなみ工房〉副施設長の早川弘志さんをゲストに迎えた第2回の「表現活動のヒントや制作方法を知る」では、「Lecture」にて、やまなみ工房の表現活動の背景にある、「メンバーが”これをすることが幸せである”と思えるかどうかを大切にしている」という考えや、工房のアーティストが紹介されています。

続く「Session」では、「その人に合った画材をどう見極めるか」「作品を外に発信することについて、作家の意思はどう確認しているか」「作りかたをアドバイスすることがあるか」「作品をどう保管するか」という具体的な質問と回答が掲載され、やまなみ工房の活動について、一歩踏み込んで知ることができるように。

最後の「Feedback」では「”作品を作るためではなく、利用者さんが楽しく過ごす事を尊重した結果がアート作品になっている”という言葉が印象に残った」など、参加者から寄せられた感想が載っています。このように、ゲストと参加者の声を併せて紹介することで、多面的な視点を得られる、立体的な構成となっています。

けんしゅうないようのしょうかいページ
「Lecture」「Session」「Feedback」、3つの視点から研修を振り返ります

トークイベントと研修会のほかにも、〈はじまりの美術館〉に寄せられた相談への回答や、齋藤陽道さんと盛山麻奈美さんを招いた、映画「うたのはじまり」上映会&手話トークイベントの模様、さらに開催された展覧会の様子なども掲載されています。

報告書はオンラインで閲覧が可能。「この報告書をひとつのヒントに、みなさんが新たなはじまりへ踏み出したり、活動を充実させたりすることにつながると嬉しいです」と〈はじまりの美術館〉学芸員の大政愛さんは話します。障害のある人との表現活動について考えるヒントに、ぜひページを開いてみてください。

ほうこくしょひょうしのイラスト
表紙のイラストは、ふるやまなつみさんの描き下ろし。美術館の中で行われたさまざまな活動が、さまざまな場にいる人たちとつながっているイメージ