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ベトナムの枯葉剤被害を見つめ続けたドキュメンタリー映画『失われた時の中で』が、8月20日より全国順次公開
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チラシの表面。上半分には、椅子に腰掛けこちらを見つめるグレッグ・デイビスさんが、下半分には、飛行機が枯葉剤をまいている写真がある
2022年8月20日(土)より〈ポレポレ東中野〉ほか、全国で順次公開される映画『失われた時の中で』

ベトナムの枯葉剤被害を20年間見つめ続けたドキュメンタリー

ベトナムの枯葉剤被害を題材にしたドキュメンタリー映画『失われた時の中で』が、2022年8月20日より全国で劇場公開されます。

本映画は、『花はどこへいった』『沈黙の春を生きて』などベトナムの枯葉剤被害者を追ったドキュメンタリーを約20年にわたり撮り続けてきた坂田雅子監督による最新作です。

2003年夫であるグレッグ・デイビスさんの死後、彼の死の原因がベトナム戦争時の枯葉剤にあるのではと聞かされた坂田監督は、カメラ片手にベトナムへ取材に向かいます。彼女が出会ったのは、戦後30年を過ぎてもなお枯葉剤の影響で重い障害を持って生まれてくる子どもたちと、彼ら彼女らを育てケアする家族たちでした。

最初の取材から約20年を経て、ベトナムは目覚ましい経済発展を遂げましたが、被害者とその家族は取り残されたまま。本作では、被害者家族、支援活動を続ける医師ら、戦争の傷痕に向き合い続ける人の姿を映し出します。

「戦争と枯葉剤」によって失われた時を描き出す

舞台は、1975年の終戦からまもなく50年を迎えようとしているベトナム。ベトナム帰還兵で写真家の夫・グレッグさんの死後、ベトナムの枯葉剤被害を見つめ続けてきた坂田監督は最初の取材から20年が経とうという今、再び、ベトナムに向かいます。

戦後、重い障害を持って生まれた子どもの面倒を見てきた親も高齢になり、体力的にも経済的にも疲弊する姿が映し出されます。家族のケアを担い、家計を支えるために進学を断念せざるを得ないきょうだい。病院のない村を巡り、支援活動を続ける医師。アメリカ政府と枯葉剤を製造した企業に対し、裁判を起こした元ジャーナリストなど。20年という時間の経過を通して、戦争と枯葉剤によって失われた時の中で必死に生きてきた人々の姿を描きます。

車椅子に乗った子どもに、スプーンに乗せた食事を差し出すチャン・ティ・ホアン
母親が妊娠中に枯葉剤を浴びた影響で障害を持って生まれたチャン・ティ・ホアン(中央)。自身が子ども時代を過ごした病院で事務の仕事をし、自立して生きる姿が映し出される ©️2022 Masako Sakata

映画には、ベトナムから帰還後アメリカには戻らず、アジアを中心にフォトジャーナリストとして活動していたグレッグさんのエッセイや写真がところどころ挿入されています。「グレッグは彼の死によって、私に新しい生を与えてくれたのかもしれません」と語る坂田監督の思いと、グレッグさんの遺志が重なり合うような構成です。

椅子に腰掛けこちらを見つめるグレッグ・デイビスさんのモノクロ写真
坂田監督の夫、グレッグ・デイビスさん ©️Joel Sackett

映画制作と奨学金設立により、枯葉剤被害者をサポートする坂田監督

監督を務める坂田雅子さんは、グレッグさんの死後、55歳で映像制作を一から学び、これまでに枯葉剤や核をテーマにしたドキュメンタリー映画を発表してきました。

ベトナムを訪れた坂田監督が胸を打たれたのは、支え合いながら生きる、枯葉剤被害者の姿。夫の死に悲嘆にくれていた監督は、彼らの懸命に生きる姿に出会います。

はじめての監督作品『花はどこへいった』(2007)が公開されると、2010年には、ベトナムの枯葉剤被害者支援のために「希望の種」という奨学金制度を設立。10年間で1000万円以上の寄付が集まり、100人以上のベトナムの枯葉剤被害に苦しむ子どもたちの教育をサポートをしてきました。

左側に制服の白いシャツを着て、正座をしている女の子。右側には父親。後ろには二人の伯父も座っている。
枯葉剤の被害で知的・身体的障害を持つ父や伯父の身の回りの世話をするディン・ティ・ヒュエン・チャン(左)も「希望の種」の奨学生 ©️2022 Masako Sakata

アメリカ人の帰還兵やその子どもたちの中にも多く被害者がいることを知った監督は、枯葉剤の被害は時間も国境を超えて続く、ということを描いた第2作『沈黙の春を生きて』(2011)を制作。

枯葉剤被害を描く3作目の本作では、枯葉剤による被害が決して過去のものではないこと。そして戦争自体が終わっても、その影響は社会や自然、人々の中に長く残るということを、20年という時間の重みとともに伝えます。

障害を持って生まれてきた子どもたちがあどけない顔で、こちらを見ている
©️2022 Masako Sakata

本作ではときに目を背けたくなるような厳しい現実や、戦争の不条理も描かれます。しかし、映画終盤で紹介されるグレッグさんの言葉からは希望を感じることもできます。

“絶望的な状況でも絶望しない力が私たちにはあるのだ。よりよく知ることで世界を変えることができる。”

このグレッグさんの言葉に応えるように、映画の公開に寄せて、坂田監督はこのように述べます。

“いくつかの小さなドキュメンタリーを作ってわかったことは、小さな私にもできる事がある、いや、組織に頼らない小さな私だからこそできる事があるという事です。(中略)戦争や、国際政治など世界の大きな出来事の前に、つい立ちすくんでしまいますが、諦めずに一人一人が持ち堪えるところに希望はあるのだと思います。”

木枠の写真立ての中にある、グレッグさんと坂田監督が肩を寄せ合って映る写真
グレッグさんと坂田監督 ©️2022 Masako Sakata

ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、未だに世界各地で紛争や分断が絶えず起きている今、「大きな出来事」の前に立ちすくんでしまうこともあるかもしれません。そんな私たちが何ができるかを考える上で、過去の歴史も踏まえた「世界をよりよく知る」ことがその一歩となるのではないでしょうか。ぜひ本作を劇場でご覧ください。