ニュース&トピックス

見知らぬ誰かのことを想像する展覧会「あ、共感とかじゃなくて。」が〈東京都現代美術館〉で7月15日〜11月5日開催
展覧会情報

  1. トップ
  2. ニュース&トピックス
  3. 見知らぬ誰かのことを想像する展覧会「あ、共感とかじゃなくて。」が〈東京都現代美術館〉で7月15日〜11月5日開催

展示のキービジュアル

ここにいない誰かを題材にした作品からはじまる、答えのない思考の冒険へ

誰もが異なる境遇や価値観をもっています。そのうえで、完璧に他者を理解することは果たして可能なのでしょうか。この問いに対して、他者の立場を想像する手立てとして、しばしば「共感」という言葉が使われます。

ですが、実際に他者の意見や考え方が、まるっきり共感できるものばかりかと問われれば、ほとんどの人がそうではないと答えるのではないでしょうか。また、安易に共感されると、自分の感情を軽んじられた気持ちになったり、共感しないといけないという同調圧力に違和感を抱いたりすることもあるかもしれません。

2023年7月15 日(土)から〈東京都現代美術館〉(東京都江東区)で「あ、共感とかじゃなくて。」展が開催されます。本展のタイトルには、「共感をしなくても大丈夫」というメッセージが込められています。家族や友人との人間関係や、自分のアイデンティティを確立する過程に悩むことの多い若者に向けて、5名のアーティストがそれぞれの作品を通じて「答えのない問いを考え続けることを提案する」展覧会です。

「新しい対話」について考え続ける面白さを体験

本展では、共感しないことを「拒絶」ではなく「新しい対話」や「思考の可能性を開くこと」と位置づけています。作品を鑑賞しながら、すぐに結論を出さずに考え続ける面白さを体験してもらうことがねらいです。

参加アーティストは、ここにいない他者や架空の人物をテーマに据えて活動する、有川滋男さん、山本麻紀子さん、渡辺篤さん(アイムヒア プロジェクト)、武田力さん、中島伽耶子さんの5名。本展に合わせて制作された新作のアートワークやインスタレーションが発表されます。

「答え」ではなく「問い」を提示する現代美術は、時に鑑賞するのが難しいと感じることもあるかもしれません。作品に付属する解説やキャプションを鑑賞のための補助線としてとらえ、小中学生でもわかりやすいように、漢字にふりがなをつけたり、用語の説明をつけたりと、やさしい言葉づかいで解説しているのも本展の特徴です。

展覧会のウェブページも、やさしい言葉づかいでまとめられています

架空の人物やここにいない人々にまなざしを向ける5名のアーティスト

有川滋男(ありかわ・しげお)さんは、架空の職業を描写した映像作品《(再)(再)解釈》シリーズを展示します。会場には就職説明会や展示会を模したインスタレーションが組まれ、そのなかで映像に登場する人物の業務内容や採用情報を想像しながら、鑑賞者による多角的で多様な解釈が生み出されることを試みます。

2台の望遠鏡の間に、空模様をまとった1人の男性が逆立ちしている
有川滋男《ラージアイランド》2018年

2013年から世界中の「巨人伝説」についてリサーチを重ねる山本麻紀子(やまもと・まきこ)さんは、巨人の落とし物という位置づけで制作した《巨人の歯》と、京都市下京区で近年取り組んでいる〈挿し木プロジェクト〉を中心としたインスタレーションを展示します。

巨人の歯を模した造形物に1人の女性が触れている
山本麻紀子《巨人の歯》2018年 撮影:内堀義之

渡辺篤(わたなべ・あつし)さんは、自身のひきこもり経験を起点とした〈アイムヒア プロジェクト〉から、ひきこもりやコロナ禍で孤独を感じる人々が、それぞれに撮影した月の写真を集めた《同じ月を見た日》などを展示します。

部屋に大きな月の写真が投影されている
渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)《月はまた昇る》2021 年 展示風景:「同じ月を見た日」R16 studio、撮影:井上桂佑

演出家であり民族芸能のアーカイブにも取り組む武田力(たけだ・りき)さんは、自身が参画する滋賀県朽木古屋集落の六斎念仏踊りの復活・継承事業に関する映像ドキュメントを展示。また、誰かが使った小学校の教科書を開きながら、自分の教育体験について振り返り、問い直していく参加型企画《教科書カフェ》も会場で体験できます。

カフェトラックの周りで教科書を広げて読む人々
武田力《教科書カフェ》2022 年 HUBーIBARAKI ART PROJECT 2022での上演風景

「壁」や「境界線」を音や光によって表現し、コミュニケーションの非対称性や対話による分かり合えなさをテーマに掲げる中島伽耶子(なかしま・かやこ)さんは、展示室という空間を壁を用いて分断する新作の大型インスタレーションを発表します。

白い部屋の壁やテーブルのところどころに傷みのようなものが施されている
中島伽耶子《例えば(天気の話をするように痛みについて話せれば)》2022年 岩瀬海、櫻井莉菜との共作 撮影:越中谷写真館 *本作品は今回展示されません

参加型の関連プログラムや休憩できるラウンジスぺースも

展示の関連プログラムとして、作品を糸口に答えのない問いについて10代の参加者と考える「哲学対話」を複数回実施予定です。また、3~8歳のこどもたち向けに、ドラァグクイーンによる絵本の読み聞かせ「ドラァグクイーン・ストーリー・アワー」を会期中に開催します(日程や参加方法は美術館ウェブサイトで順次公開)。

また、会場には、鑑賞後にソファや椅子に座ってゆったりと休憩できるラウンジスペースも用意されています。大人から子どもまで、自分のペースで作品と向き合い、さまざまな角度から考えを深められる時間になりそうです。ぜひ興味のある方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。