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ユニバーサルな美術館への案内「ソーシャルストーリー はじめて美術館にいきます。」がすべての国立美術館で公開
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美術館の前でソーシャルストーリーの冊子の表紙を掲げている
「ソーシャルストーリー はじめて美術館にいきます。」が公開されました 写真提供:国立アートリサーチセンター(撮影:山口伊生人)

美術館へのアクセスを、やさしい文章と写真で説明したソーシャルストーリー

ユニバーサルな美術館のアクセスツール「Social Story(ソーシャルストーリー) はじめて美術館にいきます。」がすべての国立美術館で公開されました。

本ツールは、美術館に入館する前から、退館するまでの流れを、わかりやすく説明したものです。どのように美術館にアクセスしたらいいか、展示室やロビーはどんな様子か、どのように鑑賞したらよいか、などをやさしい文章と写真、絵や図を用いながら説明しています。

企画・編集をしたのは〈独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター〉。全国に7ヶ所ある国立美術館(東京国立近代美術館・国立工芸館・京都国立近代美術館・国立映画アーカイブ・国立西洋美術館・国立国際美術館・国立新美術館)各館のソーシャルストーリーを作成し、2023年3月に公式ウェブサイトで公開しました。

ダウンロードができるウェブサイトの画面。表紙と解説が書いてある
〈国立アートリサーチセンター〉のラーニングページ

「ソーシャルストーリー」とは

ソーシャルストーリーとは、おもに発達障害(特に自閉症スペクトラム障害)の当事者とその家族や関係者をサポートする社会学習ツールのことです。1991年にアメリカの教育学者キャロル・グレイさんによって教育技術として開発されました。

当事者と関係者がお互いに理解し合い、安心できる状況をつくることを目的とし、社会的な状況や行為などを、絵や写真を使い、わかりやすい文章で表現しています。

当事者のサポートというだけではなく、「お互いに理解する」というところが重要な点で、そのために工夫して伝える必要があることや、具体的な伝え方の方法をキャロルさんは書籍で説いています。

書籍の表紙
ソーシャルストーリーの開発者、キャロル・グレイさんによる著書。『ソーシャル・ストーリー・ブック〈改訂版〉入門・文例集』(左)と『お母さんと先生が書くソーシャルストーリー[TM]』(右)

ソーシャルストーリー はじめて美術館にいきます。」が大切にしているポイント

〈国立アートリサーチセンター〉によると、今回制作されたアクセスツールは、ソーシャルストーリーの手法で企画・編集されました。視覚的な情報として理解を促すために写真や絵を使いながら、入館前から退館までの様子を、平易な文章で順を追って説明しています。

左には美術館のウェブサイトの写真と説明のテキスト、右にはチケット前の写真とテキストや、きっぷとお金のマークのアイコンが描かれている
美術館へ行く前からスタート。どのような下調べをすることができるかが書かれています(左)。チケットを購入するまでのひとつひとつのステップがわかりやすい(右)
左にはエントランスホールの画像とテキスト、右には働いているスタッフの写真が並んでいる
「エントランスホールをはじめ美術館の中は、混雑していたり、さわがしいこともある」というように、音や光など、発達障害のある人がもつ感覚特性に配慮した説明も記されています(左)。働いているスタッフの顔が映っているのも本ガイドの特徴。顔が見えることで安心し、歓迎されている雰囲気を感じることができます(右)

意味が正確に伝わることに加え、ポジティブな文章で伝えることもひとつのポイントです。

例えば、「お静かに願います」「触らないでください」などの敬語や命令形になる表現はなるべく避けます。「作品はとても大切なものです。よごれたり、こわれないように、作品には触りません」と、理由とともに伝えることを心がけています。

左には展示師の写真とアイコン、テキスト、右には人が作品の前に立っている写真が掲載されている
鑑賞の注意点も命令形を使わず、主体的な立場で読むことができるように工夫されています(左)。床に「さく」や「テープ」などの目印があることや、どのような場所に立って作品を鑑賞したらよいかが写真を見て理解することができます(右)

また、ソーシャルストーリーを読む当事者の視点に立つために、主語は「私(I)」や「私たち(We)」を使用。読む人が主体的に「美術館に行きたい」という気持ちになれるように、「はじめて美術館にいきます。」という言葉がサブタイトルに選ばれました。

右には建物の外観、左には絵の前に複数の人が立っている写真が掲載されている
「きょうは、東京国立近代美術館へいく日です。」と始まる本文。自分ごととして読めるようになっています(左)。人それぞれの楽しみ方があり、大切なのはそれぞれのペースで楽しむことだと伝えます(右)

美術館を訪れることにハードルを感じる誰もが使えるツール

本ソーシャルストーリーは、主に発達障害のある人に向けて開発されましたが、知的障害や学習障害のある人、外国にルーツを持つ人、子ども、初めて美術館に来館する人、美術館を訪れることにハードルを感じていた人など、誰もが使えるツールになっています。

資料はPDFでオンラインより無料でダウンロードが可能。冊子が必要な人は、各美術館や〈国立アートリサーチセンター〉に問い合わせれば、送付してもらうことができます。

写真提供:国立アートリサーチセンター(撮影:山口伊生人)

企画編集をした〈国立アートリサーチセンター〉では、ソーシャルストーリーについてより知ってもらう機会として、今後勉強会やフォーラムなども実施を予定しているといいます。

これまで美術館のアクセシビリティについて、物理的な面からのサポートはありましたが、心理的なアクセシビリティを担保するものや、そもそも美術館に行くことにハードルを感じる人が事前準備をするためのツールはあまりなかったかもしれません。

見通しをもって安心して過ごすための手助けとなるソーシャルストーリー。ぜひ来館前に開き手元に携えて、美術館を訪れてみませんか。