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買い物困難者のための〈移動スーパーとくし丸〉って? 全国1200台で支える地域の安心
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【写真】とくし丸と書かれたオレンジの文字やイラストの入った軽トラック

地域の見守り役も兼ねた「移動スーパー」のネットワーク

週に数回、その時食べたい食材や、必要な日用品を思い浮かべながら訪ねるいつものお店。並んだ商品を手にとっては戻しながら、今日買うものをカゴに入れ、お金を払って家路につく——。全国2万軒以上のスーパーがある日本の、どこにでもある風景です。

しかし、そんな日常の買い物も、たとえば足が不自由で外出が難しい方や、生活圏内にスーパーがなくなった方には簡単ではありません。高齢化と人口減が進む日本では、こうした「買い物困難者」と呼ばれる人が今後ますます増えることも予想されます。

47都道府県、およそ1200台が走る〈移動スーパーとくし丸〉は、そんな人々の暮らしを助ける貴重な存在の一つです。

提携するスーパーの約400品目を販売パートナーが軽トラックに載せ、個人宅や高齢者施設、地域の広場などを巡ります。また週に2回お客さんと顔を合わせる関係性から、利用者の健康や生活状況を把握する「見守り役」としても重要になっています。

【写真】とくし丸の内容を整理した図。400品目1200点の商品を取り扱い、お買い物の楽しみを提供、地域に賑わいも生まれます

「買い物」から「見守り」「情報」まで。暮らしを支える〈とくし丸〉

3日に一度、およそ決まった時間と場所に現れる〈とくし丸〉。販売パートナーは、提携スーパーの棚から約400品目、1200〜1500点の商品を毎朝車に積み込み、それぞれのお客さんのもとへ向かいます。

利用者の中心は、70〜80代です。魚や肉、野菜など、他で買いづらい生鮮食品を中心に購入する方もいれば、トイレットペーパーや乾電池などの細かな日用品を買う方まで、さまざまにいるといいます。

「今日は何を食べたらいいかな?」
「次の時、これがほしいんだけどある?」

そんなお客さんの細かな相談や要望に応えながら、「そろそろこれが必要では?」と自らも品を用意し、提案することもあります。逆に「これは前も買われてたので、まだあるはずですよ」と、購入を止めるケースも。創業時から掲げられてきた『売りすぎない、捨てさせない』の合言葉を大事にしながら、パートナー1人あたりおよそ150人いるお客さんと「一対一」の関係を築いてきました。

【画像】とくし丸の見守りの役割を整理した図。健康状態の把握、孤立させない環境の構築、困りごとの把握、消費者被害の防止

そんな〈とくし丸〉だからこそ、商品の販売にとどまらない、さまざまな役割も果たしています。お客さんのちょっとした困りごとに耳を傾けたり、週に2回顔を合わせながら、生活の状態を把握したりすることもその一つ。

実際、全国のさまざまな自治体とも「見守り協定」を結んできた〈とくし丸〉では、お客さんの健康に異変を感じたときに地域の機関へ連携し、助けにつながったケースもあります。また、防災の啓発や、詐欺防⽌のためのチラシを配布するなど、地域の方々が安全に暮らせる活動にも力を入れてきました。

【写真】崩れたビルの前で信号待ちをしている とくし丸
災害時には、「とくし丸」のネットワークや機動力を生かした救援活動も行いました。その実績が評価され、2024年に「第28回防災まちづくり大賞 総務大臣賞」を受賞しています

さらに最近では、新たな試みとして2023年8月に隔月の雑誌『ぐ〜す〜月刊とくし丸』を創刊し、書店に行けない高齢の方々に向けて、幅広い情報を届ける事業もスタートしました。

「残したい記憶」「方言」そして「とくし丸」など毎号の特集記事に加え、著名人のコラムやウクライナからのレポ、20歳と77歳の往復書簡など、連載も充実。特に読者の投稿に編集部が応えるコーナーが人気を集め、〈とくし丸〉に関わる人と人をつなぎあわせる役割を担い始めています。

【画像】ぐーすー月刊とくし丸の表紙と、「とくとくトーク」が掲載されている本文見開き
販売パートナーから紙で、あるいはKindleや楽天Koboから電子版で購入すると1冊280円(税込)。一方で、送料を加えた6冊2280円(税込)の年間購読プランも用意されており、祖父母などへのプレゼントにも利用できる

提携スーパーは全国140社。超高齢社会の中でさらなる拡大へ

〈とくし丸〉の創業は2012年2月。徳島県のとあるスーパーから、2台の車でスタートしました。

地元でタウン誌『あわわ』の創刊などを経験していた住友達也さんが、中山間地域で暮らす高齢者の困りごとを解決したい、と始めた事業です。当時すでに、移動スーパーの事業はいくつか例がありましたが、住友さんが選んだのは「すでにあるスーパーの商品を代わりに販売する」という新しいスタイルでした。

トラックなどの機材を〈とくし丸〉が用意し、販売パートナー(個人事業主)を募集、積み込みや移動販売のノウハウなども提供する。これによって地元スーパーは大きな負担なく、来店が難しい人々に食品や日用品を届けられるようになったのです。

【画像】2012年5代、2014年28代、2017年268代、2020年671台、2023年1129台
販売パートナーの推移。「3年以上の継続率」は9割を超えるそうで、現在の稼働台数は1187台(2024年9月時点)

創業2年後には県外に初進出、そこから全都道府県へと輪を広げ、今や提携するスーパーが140社となった〈とくし丸〉。利用者は18万人、年間流通総額272億円(2023年3月期)と拡大を続けている裏には、世界でも類を見ないペースで進む日本の高齢化と人口減少があります。

今後、人口や実店舗の減少が顕著に進む地方・郊外はもちろん、後期高齢者と呼ばれる75歳以上の方の増加に伴い、まち中に住んでいても日常生活に困りごとを抱える人は増えていくでしょう。実際に〈とくし丸〉でも都心部でのニーズが高まっており、全国をカバーするため、稼働台数を3000〜4000にまで拡大する必要があると考えています。

【写真】駐車場にとまったとくし丸に、地域の方が買い物に集まる。オレンジのエプロンを着た販売員が対応している
〈とくし丸〉の商品は、1アイテムにつきスーパーの販売価格「+20円」。うち7円が各スーパーと販売パートナーの、6円が本部の利益になることをお客さんにも説明します(※注:「+10円」の販売者も一部あります)

そうした背景から、〈とくし丸〉では販売パートナーを随時募集をしています。もちろん、「うちにも寄ってほしい」という利用相談も受付中。窓口は各スーパーが行っていますが、該当する会社がない場合、本部への相談も可能です。気になる方は一度、全国の提携スーパー一覧をチェックしてみてください。

すでにスーパー140社が提携しているものの、改めて都道府県別で見ると、まだ1社しか提携がない県も。また、60台以上が走る県もある一方、数台しか稼働していない県もあるなど、ばらつきがあります。翻せば、これから増える余地がまだたくさんある、ということになります。

自分がほしいものを目の前で選び、買えることも、心地よい距離感と関係性で人とつながることも、私たちの生活には欠かせません。〈とくし丸〉があちこちを走るようになったまちには、たとえ「遠くに行くこと」が難しい状況にあっても、日々に喜びと安心のある暮らしが増えていくのではないでしょうか。