福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

みんなのエプロン〈KOMONEST〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

1枚1枚手描きでペイントされた、まるで絵画を身にまとうような「みんなのエプロン」。誰もが自分らしく暮らせる社会の実現を目指す〈小茂根福祉園〉の思いや願いが込められたイッピンです。

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すべて手描きの一点もの! 垣根を超えた協働作業から生まれる「みんなのエプロン」

ほとばしったインクの滴り、さまざまな色の滲み、擦れの重なり。空を流れる雲や、咲き乱れる野花、はたまた数万光年先の銀河――想像をかき立てる絵画をまとっているような「みんなのエプロン」。

この商品を制作しているのは、東京都板橋区にある〈小茂根福祉園〉。知的障害のある人が通う福祉事業所として1982年に開設されました。

施設でつくる商品をより多くの人に届けたいと、2009年に外部アドバイザーを招いてスタートしたのが、施設発のブランド〈KOMONEST(コモネスト)〉です。現在は同ブランドの担当職員が中心となり、外部アドバイザー・デザイナーがフォローしながら、〈小茂根福祉園〉を利用するメンバーの得意を生かし、商品力を持ったものづくりとはなにかを考え、付加価値の高い商品づくりを目指しています。

ところで、「みんなのエプロン」という名称、なんだかちょっと気になりませんか? 「みんな」とはいったい誰を指すのでしょう? 

〈KOMONEST〉でつくられたカレンダーを再利用したポケットがユニーク! 刺繍が得意なメンバーが多いことから、ポケットにはワンポイント刺繍が施されています

〈小茂根福祉園〉は、通常の事業所で働くことが困難な人に就労の機会を提供したり、就労のために必要な訓練を行ったりする「就労継続支援B型」と、常時介護を必要とする人のために介護サービスや創作活動、生産活動の機会を提供する「生活介護サービス」の、ふたつの支援事業を展開しています。

それぞれのサービスを利用するメンバーは、得意なことやできることが各人で異なります。また、異なるサービスを利用する人同士は通常、一緒に作業をする機会が多くありません。それでも工夫次第では、ひとつの商品づくりに小茂根福祉園のみんなが参加できるのではないか。そんな“協働”の可能性を探り、体現したのが「みんなのエプロン」です。「みんな」とは、施設に通所するメンバー、さらには職員をふくめた「みんな」を指しています。

みんなの“楽しい”が詰まった、一点もの

麻のキャンバス地に、ポタリポタリとインクを垂らしたり、筆で伸ばしたり。手形をペタンと押す人もいれば、ローラーを使って色の重なりを楽しむ人、さらには膨らましたビニール袋をスタンプ代わりにする人も。

一人ひとりが楽しみながら描ける画材や道具、技法はどんなものか。職員が考え、提案しながら制作活動は進められます。自分に合ったツールを用いて創作するメンバーの楽しさが、作品から伝わってくるようです。

彼ら彼女らが描き出す模様、色のかすれや重なり、力強さ……これらはその時にしか出すことができません。だからこそ完成したエプロンは、色や模様などがまったく異なる「一点もの」。購入する側も、選ぶ楽しみがあります。

腰にぐるっと巻くタイプのギャルソンエプロンは、シンプルでユニセックスなシルエットなので、男女問わず身につけられます。自分だけの一点ものを見つけたら、おうちでの料理時間が楽しくなりそう! 生地は麻で丈夫なので、作業時のエプロンとしても活躍しそうです

このエプロンは、施設が運営するカフェ〈フクロウ珈琲〉で、スタッフとして働くメンバーのユニフォームとしても使用されています。新型コロナウイルス感染症対策で現在カフェは休業中ですが、営業時は「みんなのエプロン」をつけたメンバーが、コーヒーの提供を通してカフェを訪れる人たちと出会い、交流する場となっています。

メンバーのイラスト入りギフトボックスでお届け。エプロンのほかにも、アート活動が好きなメンバーのイラストを採用したカレンダー、Tシャツ、トートバッグなどの雑貨も人気。「グッズを取り扱いたい」という問い合わせも多く、全国20カ所以上の雑貨店などで〈KOMONEST〉の商品が販売されています

「私」が「私」としていられる社会を目指して

住みなれた地域で、誰もがかけがえのない社会の一員として、自分らしく暮らせることを願って設立された〈小茂根福祉園〉。その思いを「YES! I’m here.」というスローガンに込めて発信しているブランド〈KOMONEST〉。「障害者」でも「健常者」でもなく、属性や肩書きを取り払った、“私”としていられる社会や地域を目指しています。

その実現のためのツールのひとつが、エプロンをはじめとした〈KOMONEST〉の商品です。福祉の世界に縁がないという人であっても、「すてきなデザイン!」と琴線にふれた品を手にとることから、〈小茂根福祉園〉という存在を知ったり、そこにいる人々の思いに触れたりするきっかけになるかもしれません。

心動かされた1枚を身につけることで、それを見た誰かの心をまた動かし、福祉の世界へ思いを巡らす人が増えていく。そんな流れを生みだすことが〈KOMONEST〉の願いでもあります。