福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

ムジナのブローチ〈ムジナの庭〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

体の模様も、色も、みんな違う、7センチ程度の木製ブローチ。〈ムジナの庭〉の日中作業として2022年からスタートしたこの手仕事は、メンバーの“心身のケア”につながるという側面も。それにしても「ムジナ」って、なに⁉

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“眠っている身体感覚を取り戻す”ような手仕事から生まれるブローチ

【画像】木製のムジナのブローチがたくさん並んでいる写真

トットコ、トットコ、群れをなしてどこへお出かけ? 家族かな、友だちかな、それともご近所さん? 体の模様も、色も、みんな違う。全体的に丸っこいコもいれば、トンガリ鼻のコもいたり、尻尾が黒いコも。ところで、君たちはだあれ? タヌキ、アライグマ、それとも……?

眺めていると、さまざまなイマジネーションが膨らんでくる「ムジナのブローチ」。東京都小金井市にある就労継続支援B型事業所〈ムジナの庭〉で制作されています。

「ムジナ」と聞いて、どんな動物かイメージが湧かない人もいるでしょうか。ムジナとは主に「アナグマ」を指すのだそう。

昔話では、人を化かすなどイタズラ好きとして描かれることの多いムジナですが、じつは穏やかで寛容な一面があるのだとか。棲み家として掘った穴には、タヌキ、キツネ、ハクビシン、テン、ネズミなどが訪れ、受け入れて共生することもよくあるといいます。

そんなムジナを愛らしいブローチに仕立てた今回のイッピン。一つひとつ木を削り、着彩して生まれたムジナは、見ての通り一体一体様相が異なります。そんな大らかさもこのブローチの魅力です。

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始まりは、木工作家・三谷龍二さんとのワークショップから

2021年に開設し、就労や、心と身体の回復を促すためのさまざまな作業やプログラムを実施している〈ムジナの庭〉。メンバーの日中作業として、植物を使ったお菓子や雑貨、衣料品、アロマ製品づくりなどを行っています。

開設一周年を記念して、新しい手仕事につながる企画話が持ち上がった2022年。〈ムジナの庭〉を運営する〈一般社団法人 Atelier Michaux(アトリエミショー)〉の代表・鞍田愛希子さんが、以前からものづくりに対する考え方や思想に大きな共感を抱いていたという木工作家・三谷龍二さんをデザイン監修に迎え、同年3月に三谷さんを講師とするワークショップが開催されました。その際、メンバーとスタッフみんなで制作したのが「ムジナのブローチ」です。

あらかじめムジナの形にカットされた板材を、彫刻刀で削り、彫って、形を整え、ヤスリをかけ、絵の具で着彩。ものづくりの工程は至ってシンプル。ですが、久しぶりに手にする彫刻刀を持つ手のぎこちなさ、簡単そうで意外と難しい絵の具の調合などに苦戦しながら、メンバーやスタッフは黙々とムジナに向き合います。そんななか、「うまくいかなくてもいい、とにかく楽しんで」と声をかける三谷さん。

木を彫り、削る感覚。形を指でなぞって伝わってくるさまざまな感触。どの色をどれくらい混ぜ、どのくらい色を重ねるか。手の中のムジナと対話しながら、いつのまにか没頭していく参加者。なかには、手中にある木材が育った森のこと、ムジナが暮らす巣穴のことに思いを巡らせていた人がいたかもしれません。

気がかりなことを思い出す暇もない程に手仕事に集中し、そうして生まれたのが、一体一体に個性が表れたムジナたちでした。

プリミティブな感覚をひらき、安心感につながる手仕事

実は「ムジナのブローチ」を企画するにあたって、ものづくりにおける2つの思いを込めていたという〈ムジナの庭〉。

ひとつは、この手仕事が「つくり手の心身のケアにつながる」ものであること。

〈ムジナの庭〉が設立当初から掲げてきた理念に「眠っている身体感覚を取り戻す」があります。これは、例えば手仕事をするなかで、指や掌に伝わる感覚に意識を向けたり、何かに没頭するといった行為は、心身の回復に大きく関係するという仮説に基づいたコンセプト。

IT・デジタル化が進み、否が応でも脳内がさまざまな情報にさらされてしまう今だからこそ、あえて手を動かし、プリミティブな感覚をひらいていこうとする考え方です。

新プロダクトの企画にあたり、より「眠っている身体感覚を取り戻す」ための手仕事として、三谷さんと話し合うなかで考案されたのが「ムジナのブローチ」でした。

そしてもうひとつが、「正解・不正解のないプロダクト」であるということ。

〈ムジナの庭〉で行われているお菓子や衣料品づくりには、ある程度の規格や型があり、細かさが求められる作業もあります。ちょっとした誤差で規格外となってしまうのは、つくり手の気持ちにマイナスに働いてしまうことも。そこで、もっと大らかで、正解や不正解、上手につくるといった概念のないものづくりも用意したかったといいます。

彫りのちょっとしたぎこちなさや、色の濃淡、模様の違いも、ムジナの“個性”や“味わい”として捉えることで、ゆったりとした気持ちで作業に取り組める。そんなつくり手の安心感につながることも、ブローチづくりの土台となっています。

完成したブローチの裏側にはムジナの庭の頭文字「む」のマークが入れられています

三谷さんとのワークショップを経て、新たな手仕事として仲間入りした「ムジナのブローチ」。いつしか事業所を象徴するアイテムとなり、オープンアトリエやイベント時には、誰が言うともなく、申し合わせたかのように、メンバーやスタッフはブローチを胸につけて参加するのだとか。

そして在庫が少なくなってくると、三谷さんの手描きの「制作ノート」を参考にしながら、ブローチづくりが得意なメンバーが、今でもムジナや自分自身と対話しながらコリコリと木を削っています。

ブローチづくりのワークショップの模様をおさめた動画。作業を終えたメンバーたちからは「楽しい時間だった」というコメントも。みなさんの穏やかな表情からも、心地よい時間であったことが伝わってきます

2年振りに開催!「ムジナのブローチ」ワークショップ

「ムジナのブローチ」は、毎月行うオープンアトリエやワークショップで購入することができます。実物を手にとってみると、つくり手の対話の痕跡のようなものがより感じられるはず。十匹十色のムジナたちから、あなたの感性に訴えかけてくる一匹と出会えるかもしれません。

また、2024年9月27日(金)には2022年以来となるワークショップ「ムジナのブローチづくり ~彫って、削って、彩って」が、今度はメンバーが講師となって開催されます。普段の生活ではなかなか体験する機会のない“木を彫る”という作業や、なにかに没頭する気持ちよさを、ぜひこの機会に感じてみてはいかがでしょうか。

ブローチは箱に入れてお渡し。ギフトにもおすすめです