福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

感覚刺激シリーズ〈亀沢のぞみの家〉(すみのわ)

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

東京都墨田区の福祉施設、町工場、クリエイターチームがタッグを組んで生み出した、“墨田づくし”のプロダクト〈すみのわ〉。想像をかき立てるカラフルなくるみボタンをはじめ、地域と連携したさまざまな商品が生まれています。

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「農福連携」ならぬ「製福連携」⁉ 墨田区づくしのプロダクト

アクリル絵の具のこんもりとしたマチエールが、山脈や平野といった地形にも見えてくる、まるで地球儀を模したような「くるみボタン」。カラーによっては銀河に浮かぶ惑星や恒星、はたまた星雲といった趣きのものも。

簡単そうでむずかしい色の組み合わせやミクスチュアを、いとも簡単に突破してくる絶妙な色彩感覚。そして、疾走感、かすれ、筆の圧、さまざまな要素をこの4センチ程度の丸の中に収めてしまうなんて……!

見れば見るほど引き込まれ、ひとつだけ選ぶなんて難しい。いっそ、太陽系惑星のように並列させてしまおうか。

ブローチやヘアゴムといった一般的な使われ方のほか、手帳のバンドや、着物の帯どめに改良して愛用するファンもいるという「感覚刺激シリーズ」。パッケージはインバウンドを意識した英語表記に

「感覚刺激シリーズ」と名づけられたこのブローチ&ヘアゴムは、東京都墨田区生まれ。同地域のさまざまなヒト・モノ・コトが、このイッピンに詰まっています。

ボタンの制作を行うのは、墨田区にある生活介護事業所〈亀沢のぞみの家〉。そして、同商品のプロデュースを担うのは、福祉施設のものづくり支援・販売・PRなどを行う墨田発のプロジェクトチーム〈すみのわ〉。そして、ボタンを覆う布には、同区のメリヤス産業工場から出た端材が活用されています。

どのような経緯でそれらの関わりが生まれ、形になったのでしょうか?

メンバーの「表現したい」から生まれた〈亀沢のぞみの家〉の創作活動

重度肢体不自由の人が利用する生活介護事業所〈亀沢のぞみの家〉。身体機能や生活能力向上のための日中活動に加えて、色彩や道具の手触りなどから感覚を刺激したり、表現を楽しんだりする目的で、以前から「創作の時間」が設けられ、そこで「感覚刺激」の活動も行われてきました。

「自発的な行動や意思表示が難しい利用者さんが多いんですが、それでも自分のことを表現したがっているように見えるんです」

そう語るのは〈亀沢のぞみの家〉の職員・泉沢ひとみさん。可能な限りメンバーのインスピレーションなどを大切にしながら、職員との掛け合いのなかで絵を描いたり、貼り絵などを行ったりしてきたといいます。

そこで生まれた表現を、施設外にも広く見せていきたいという職員の思いから、封筒やポチ袋にして施設の祭りなどで販売。一方で、その魅力を生かしきれていないのでは……という悩みも抱えていました。

〈亀沢のぞみの家〉を利用するメンバーの、好きなアニメキャラクターを意識した色使いのボタンもあるのだとか。想像がさまざまにかき立てられます!

あるとき、福祉施設のものづくりをテーマにした墨田区の支援事業があると知り、泉沢さんが参加。

その事業とは、社会的な課題となっている「就労継続支援事業所」の利用者への工賃アップを目指し、良質なものづくりにつなげるための支援でしたが、「生活介護事業所」である〈亀沢のぞみの家〉も特別に参加できることに。

そこで出会ったのが〈すみのわ〉でした。

〈すみのわ〉が目指すのは、“墨田らしさ”のあるものづくり

〈すみのわ〉は、墨田区内に在住・在勤するクリエイターたちのネットワーク〈すみだクリエイターズクラブ〉の、ひとつのプロジェクトチーム。区から福祉施設の支援事業を受託し、現在16施設のものづくりをサポートしています。

製造業が盛んな墨田区。その町工場から出る廃材と、福祉施設のものづくりをミックスして、“墨田らしさ”のあるものづくりを行うことをひとつの指針としています。

〈亀沢のぞみの家〉が参加することになった際、プロダクトデザイナーが施設を訪れ、どのような活動やものづくり、廃材の活用ができるか対話を重ね、2~3年かけてトライ&エラーを繰り返してきたといいます。

最終的に、メンバー全員が参加できるユニークなプロダクトとして完成したのが「くるみボタン」でした。

メンバーが扱う画材は、筆、ブラシ、廃材のスポンジ、金属たわし、スプーンのほか、手づくりのタンポなど。メンバーがのびのびと描いたあと、職員が魅力的に映る部分でカットし、くるみボタンに仕立てていきます。形になることで予期せぬ美しさやおもしろさに出会うことも多く、職員も驚きの連続なのだとか

現在、〈すみのわ〉がプロデュースする商品のなかでも特に人気商品となっている「感覚刺激」のブローチ&ヘアゴム。「予測のなかでは生まれない一点一点のおもしろさを、魅力として感じてもらえているのではと思っています」と、〈すみのわ〉のコーディネーター・三田大介さんはいいます。

福祉施設、町工場、地域―― 広がる墨田のネットワーク

さらに、墨田区の一軒家カフェ&ギャラリー〈ikkA〉とコラボレーションした商品も生まれています。

これまでも区内外の福祉施設に声をかけ、企画展などを積極的に行ってきたという〈ikkA〉は、〈すみのわ〉とのつながりから「感覚刺激シリーズ」の存在を知ります。

墨田区同士のコラボ商品がつくれたら……そんな思いから、自社オリジナルの紅茶パッケージに〈亀沢のぞみの家〉のメンバーが手がけたカードを差し込むと、まるで額縁にはいったアート作品のような趣きに。

紅茶を飲んだあとも飾って楽しめる〈ikkA〉オリジナルの紅茶パッケージ。差し込んである「感覚刺激」の台紙は、製本工場から出た上質な厚紙の端材に〈亀沢のぞみの家〉のメンバーが色を乗せたアップサイクル品

区同士のさまざまな出会いやものづくりが生まれる一方で、新たなプロダクトをどんどん生み出すことへの課題も感じているという〈すみのわ〉。

「商品を増やすにつれ、施設職員さんの負担が大きくなるだけでなく、販売面の課題も出てきます。新商品をつくるなら、アーティストであるメンバーのアートを提供する形にし、デザインや販売はそれらを活用する会社に担ってもらうなど、施設の手から離れるような展開にしていく必要があると思っています」(すみのわコーディネーター・三田大介さん)

紅茶のコラボ商品も、基本的には〈ikkA〉の店舗にて販売。〈亀沢のぞみの家〉は台紙の提供のみで関わっているそう

実際に、そのような展開方法で生まれたTシャツが2023年に誕生。墨田区内のTシャツプリント会社〈ADP〉に「感覚刺激」の絵柄を提供し、デザインや販売まで行ってもらっています。

〈すみのわ〉が発足して10年。それまで福祉という分野に関わりのなかったクリエイターたちが、ひとつひとつ手探りのなかで、福祉施設のニーズを把握し、ものづくりを進め、町工場や地域とのネットワークを広げてきました。

農業と福祉をかけ合わせた「農福連携」という取り組みが各地で展開され始めていますが、〈すみのわ〉は墨田区の製造業と福祉、つまり「製福連携」といった新しい価値を生み出している、といっても過言ではないかもしれません。

「感覚刺激」の柄をプリントした、墨田区のTシャツプリント会社による新商品。「施設の手を離れるだけでなく、販路の面でも今までとは広がり方が違ってくるはず」と語る三田さん

〈すみのわ〉が関わるプロダクト、どこで出会える?

福祉発プロダクトを、多くの人の手に取ってもらいたいと願う〈すみのわ〉は、墨田生まれの多様なブランドをポップアップで紹介する「オレンジマルシェ」に参画。銀座 伊東屋、イトーヨーカドー、有隣堂をはじめ、全国の大型商業施設などでさまざまなブランドに交じり、展示を行っています。

また、錦糸町PARCO内にある無印良品の「きんしちょうの良品」という常設コーナーにも「刺激感覚シリーズ」をはじめとした〈すみのわ〉プロデュースの商品が並んでいます。

今後も墨田区が生んだ福祉発プロダクトを全国に向けて発信していきたいという〈すみのわ〉。あなたのまちでも出会うチャンスがあるかもしれません。

商品の売上はすべて、年に1回メンバーに分配するという〈亀沢のぞみの家〉。「本人やそのご家族のなかで喜びにつながる会話が生まれているようです」と泉沢さん

イベント・販売情報

2024年4月12日(金)~5月13日(日)には、〈ikkA〉にて〈すみのわ〉のポップアップ企画展が開催されます。母の日のプレゼントにもぴったりな商品も展示・販売予定。

また、6月2日(日)には〈亀沢のぞみの家〉にて「のぞみの家まつり」が開催されます。こちらもぜひチェックしてみてくださいね!