福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

ペタペタックンTシャツ〈ぬか つくるとこ〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

施設の利用者を「ぬかびとさん」と呼び、彼ら・彼女らの好きなことやこだわりに「おもしろい!」と反応し、それらを追体験するワークショップなどに仕立てている〈ぬか つくるとこ〉。今回のイッピン「ペタペタックン」のほか、“楽しい”から生まれる同施設のモノゴトをご紹介します。

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メンバーの行為を“追体験”してみるワークショップ&プロダクト

Tシャツに自由に布ガムテープを貼っていく。絵の具で着色したり、刷ったりすることはあっても、ガムテープを貼っていくというのは、なんだか新しい。

“自由に”と言われると少しひるむので、ガイドとして引かれた点線の内側や外側に、ビリッ、ペタ、ビリッ、ペタ。いろんな色を組み合わせたり、シンプルに一色だけでも。なんなら、Tシャツの全面をガムテープで埋め尽くしても案外カッコいいかも(着心地はわかりませんが……!)。

ガムテープじゃなくても、セロテープでも、マスキングテープでも、シールでも、それが楽しければなんだってOK。思いのまま、好きなように貼る。それが今回のイッピン「ペタペタックン」です。

貼っているのは、変哲もない市販の布ガムテープ。貼り方やアイデア次第で、いくらでも、何度でも、オシャレが楽しめる⁉

たっくんの行為を“追体験”する

岡山県倉敷市の隣に位置する早島町に、2013年に設立された福祉事業所〈ぬか つくるとこ〉(運営:株式会社ぬか)。「ペタペタックン」は、こちらの生活介護事業所に通所する藤原拓海さん(通称:たっくん)の行為から生まれました。

空白を埋め尽くしたり、なにかを繰り返し行うのが好きというたっくん。絵の具と画用紙があれば、紙の端っこまでベッタリと、なんなら紙に穴が開くまで、色を重ねていくのが心地いいようです。

あるとき、近隣のアパレル企業から無地のチューリップハットを大量に譲り受けた〈ぬか〉。そのハットを誰もが手にとりやすい場所にポンと置いておくと、興味を示したのがたっくんでした。

布ガムテープを細かくちぎっては、チューリップハットにびっしりと貼り、幾層にも重ねていくたっくん。完成したそれは、ずっしりと重い、もはやハットの原形を留めていない作品になっていたといいます。

それを見ていたスタッフが「おもしろいね」と反応したことがきっかけとなり、「ペタペタックン」という名のワークショップが誕生。その後、専用Tシャツの販売もスタートしました。

Tシャツの柄は3種類、白と黒の2カラー。真ん中の長方形はガムテープの実寸大。一本ビシッ! と貼るだけでもいい感じ

〈ぬか〉のコンテンツは「インプットするデザイン」

施設の利用者を「ぬかびとさん」と呼び、彼ら・彼女らの好きなこと、どうしてもやってしまうこと、さまざまなこだわりを“追体験”する企画に仕立て、発信している〈ぬか〉。

〈ぬか つくるとこ〉という名前は、漬物などを漬けて発酵させる「ぬか床」に由来。個々の魅力やこの場所で生まれる新しい価値がぬか床のなかで時間をかけてゆっくりと発酵し、社会へも浸透していくことを願ってつけられたネーミング

「ペタペタックン」のワークショップも、ガムテープをペタペタと貼る行為を、たっくんと一緒に行います。たっくんの感覚や行為の意味をつとめて理解しようとしたり、言葉に置き換えたりする必要はありません。ただその行為を楽しみつつ、体に落とし込んでみることが目的だといいます。

「これらは、“出力するデザイン(アウトプット)”というよりも、人の感覚に働きかける“入力するデザイン(インプット)”なのかなと思っているんです」

そう語るのは〈ぬか〉のアートディレクター・丹正和臣(たんじょう・かずおみ)さん。参加者がインプットしていく過程で、スタッフはたっくんという人について語り、参加者は誰かにたっくんのことを話したくなるはず、と丹正さん。

「ぬかびとさんについて話すきっかけをつくるのが、僕らのコンテンツ。そしてこのTシャツが、たっくんの“メディア”になっていると感じています」

「著作権はぬかびとさんにあるので」と、プロダクトの形状やグラフィック部分を決定づける際は、もととなるメンバーに同意を得ている。メンバーによっては設計やつくりこみを一緒に行うことも

ワクワクが形になる〈ぬか〉の日常とは?

「ペタペタックン」以外にも、ぬかびとさんたちのユニークな行為をワークショップやプロダクトにしてきた〈ぬか〉。

それらのアイデアは、メンバーの行為に対して「おもしろいね」と反応したり、「なんでそんなん!」とツッコみたくなることを、日常的にスタッフ同士で共有することから生まれているといいます。

「行為をする側も、発見する側も、楽しくいれることが〈ぬか〉の理念。誰かが『あ!』っと思いついたアイデアは、すぐに形にしていく。すると、組織としてもちょっとワクワク感が増すんです」

美術大学の卒業生、ダンスや演劇に携わる人など、多様な視点でモノゴトを捉えるスタッフが多いという〈ぬか〉。アイデアを思い立ったらすぐ形にするのは、アートディレクターである丹正さんのお仕事

そんななかで生まれたアイデアは、施設内の各所でも展開されています。庭の古井戸を展示空間にしたらいいのでは? という突飛なアイデアもすぐに採用。井戸を覆う蓋の上にはメンバーが制作した立体作品を、井戸周りに設置されたL字型の壁には絵画作品を展示し、半野外のアートギャラリー「イドノウエ」として一般公開されました。

また、〈ぬか〉で制作された工作物、看板、装飾品などの販売&譲渡会「ぬかるみ商店」や、月に40冊ほど本を読むぬかびとさん・戸田雅夫さんが店主となる古本店「戸田書院」も施設内で開店されます。

こういった楽しさを共有できるスタッフがいればいるほど、楽しさは増幅され、ユニークなアイデアに発展。スタッフ間の朗らかな雰囲気はメンバーにも伝播し、「こちらが楽しんでいると、ぬかびとさんたちもノッてくるんです」と丹正さん。

人の得意が仕事になる「就労B型事業」を目指して

これまで、生活介護事業、放課後等デイサービス、相談支援事業と、3つの事業を行ってきた〈ぬか〉。2024年5月には就労継続支援B型事業所〈ひょん〉が設立されました。

画像:ひょんの内観写真
発酵をテーマにしたフード・ドリンク・物品の販売や、サウナ、手工芸創作活動の展開も予定されている〈ひょん〉。施設名の由来は「ひょんなことから」。たまたま、偶然起こるできごと、思わぬ出会いを楽しめる場を目指しているそう。ちなみに施設の利用者は「ひょんきちさん」と呼ばれているのだとか。(提供写真)

新事業においても、これまでの活動で培った〈ぬか〉らしさを発揮しながら、仕事づくりにつなげたいという同施設。それは、仕事に人を当てはめるのではなく、人の得意を仕事にしていくということ。

「生活介護事業のなかで、ぬかびとさんの好きなことがコンテンツになり、収益が生まれ、ぬかびとさんに還元できているケースがいくつもあります。就労事業でも、追々そういう働き方ができたらおもしろいなと思っていて。要は、ひょんきちさん(ひょんの利用者の通称)の数だけその人らしい仕事がある、というイメージです」

それぞれに好みやニーズは違うので、どういった形になっていくかわからないけれど……という丹正さんですが、何においても“楽しむ”ことをポリシーとする同施設。ぬか床のように時間をかけてゆっくり発酵し、新しい就労事業の在り方を世のなかに示してくれる日がきっと訪れるはず!

新事業の展開の行方はもちろん、今後〈ぬか〉から生まれる企画やプロダクトにも要注目です。