福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

コンドワバッグ〈れもん徳島アートスタジオ〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

使用済みの米袋からつくられている〈れもん徳島アートスタジオ〉の「コンドワバッグ」。軽い・薄い・丈夫の三拍子揃いで、デイリー使いや、お出かけの際のサブバッグとしても人気のイッピンです。

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意外な素材をアップサイクルした、軽くて丈夫な「コンドワバッグ」

初めてこのバッグに出合ったとき、「なにの素材からできているんだろう?」と疑問を抱くかもしれません。使われている素材は「レザー」のようにも見えますが、じつは「紙」が主原料。でも、ただの紙ではありません。素材はなんと、使用済みの「米袋」。

徳島県徳島市の〈社会福祉法人カリヨン〉が運営する、就労継続支援B型事業所〈れもん徳島アートスタジオ〉で制作された米袋のアップサイクルバッグ「コンドワバッグ」が今回のイッピンです。

2、3層に紙を重ねてつくられている米袋の丈夫さと構造を生かし、そこへデザイン、機能性、さまざまなこだわりを加え、2017年から販売を開始。現在、青森から福岡まで多くの雑貨店などで取り扱われる人気商品です。

「コンドワバッグ」は3サイズ展開。写真は蜜蝋塗装タイプ。手前から、ちょっとしたお出かけに便利なサイズの「デイリー」、浅いながらもたっぷり荷物が入る「オブロング」、エコバッグとしても使える大きさの「ラージ」

5リットルの水入りボトルを入れても大丈夫!

「紙のバッグ」と聞くと、どれほどの強度があるのか気になるところ。

3サイズ展開の「コンドワバッグ」で一番小さな「デイリー」は、10キログラム対応の米袋からつくられています。「オブロング」と「ラージ」には、30キログラム対応の米袋を使用。それらの米袋に、蜜蝋もしくは柿渋を何度も塗り重ね、強度と撥水性を高める工夫を行い、頑丈な縫製を施しています。

〈れもん徳島アートスタジオ〉でどれくらいの重量まで耐えられるかを検証したところ、5リットルの水が入ったボトルや、水をたっぷり含んだタオルを「ラージ」に一緒に入れて3時間ほど吊り下げておいても、破れることはなく、水もほとんどしみ出さなかったのだとか。

さらに、2年間毎日のように酷使したバッグの消耗度合いは、角の部分が薄くなった程度。フラットに折りたためる便利さ、軽さ、簡単には破れない強靭さと、いいこと揃いの「コンドワバッグ」には驚くばかり!

「ラージ」のみ、内ポケットつき。「デイリー」の留め具はマジックテープ、「オブロング」と「ラージ」はマグネットの留め具がついています

開発期間は約2年! 3つの条件をクリアしてつくられた「コンドワバッグ」

ガラスの小物づくりや、イラスト制作などを行っていた〈れもん徳島アートスタジオ〉が「コンドワバッグ」を手掛けることになったのは2015年。事業所のコアとなるような商品をつくりたいという思いからでした。

食品以外であること。実家が米屋を営むスタッフがおり、容易に手に入る使用済みの米袋を使うこと。メンバーのイラストを生かせること。この3つの条件をクリアするものづくりができないか、徳島市内で活動するデザイナーに相談し、あがってきた案が米袋のバッグでした。

かつてインドネシアで出合ったというカラフルなアップサイクルの米袋バッグにヒントを得、紙素材ならイラストも描けるのでは、という提案をうけ、さっそくバッグの試作がスタート。

形、デザイン、塗料、持ち手など、デザイナーと協働で開発を進めて約2年。いくつもの試作を重ねてようやく商品が完成し、2017年から販売がスタート。その過程で「無地のバッグが欲しい」という声があり、蜜蝋や柿渋を塗布しただけのバッグも販売することになりました。

現在も、その当時から変わらない製法でつくられた3サイズのバッグのみを「コンドワバッグ」と定めています。

写真は柿渋塗装タイプ。使用するにつれますます色が深まり、よりレザーのような色味に変化。イラスト入りのバッグは、見本からメンバーを指名するオーダー式で対応中。写真をもとにメンバーがイラストを施し、定価+1000円で完全オリジナルのバッグが制作できます。見本はInstagramなどでもチェックできます

メンバーの誰もが、なにかしらの作業で関われるものづくり

「コンドワバッグ」のもととなる米袋は、スタッフからの提供だけでなく、地域の方が自転車で持ってきてくれたり、近隣の米穀店から状態のいいものを購入したりと、さまざまな協力のなかで集められています。ときにはバッグの販売委託先や、バッグの購入者から送られてくることも。

バッグの制作はすべて、施設に通所するメンバーの手で行われています。米袋の掃除、裁断、折り、縫い目の印になる線引き、柿渋などの塗布、縫製など、難易度もさまざまな多くの工程があり、誰もがなにかしらの作業を担当できる仕組みになっています。

米袋を裁断する作業にしても、折る・縫うにしても、1ミリでもずれると全体の歪みにつながるため、丁寧な手仕事と深い集中力が必要。さらに、長く使ってもらうための責任もそこには存在します。

一見簡単に思えるような作業でも、手間ひまをかけて丁寧に作業を進めるため、ひとつのバッグが完成するまでには約1か月ほど要するのだとか。

右のはた織りの持ち手は、同法人の別事業所〈織りもんれもん〉で制作されたもの。左のバッグの持ち手には真田紐が採用されています

愛用者の声を取り入れた、新ラインも展開予定

「コンドワバッグ」をつくるなかで出た余りの紙は、ブックカバーや、小さな鉢植えを入れるグリーンポットなどに変身。また新しいラインとして「ハッピーれもんバッグ」の販売も予定しています。

バッグのマチ(底の奥行)をもっと狭くしたい、持ち手を長くして肩にかけたい、ファスナーをつけたい、もっと大きなサイズが欲しい、といった“愛用者の声を反映させるバッグ”というコンセプトのもと、現在4種の形が決定し、販売は間近。さらに持ち手の長さを変えたり、留め具をジッパーやマグネットに変えることができる、半カスタマイズ式になる予定です。

米袋を再利用したバッグをさまざまに展開していくことで、購入者がアップサイクルによるものづくりのおもしろさや、エコロジーに関心を寄せるきっかけになったり、さらにはメンバーの仕事の幅の広がりにもつながったりすればという〈れもん徳島アートスタジオ〉の思いがあります。

「コンドワバッグ」の使い方は自由。いつものお出かけの相棒にするのはもちろん、軽くて薄いため、外出時のサブバッグとして忍ばせておくと、いざというとき便利です。自立するので、キッチンに置いて野菜バッグにしたり、小物入れにしてもよさそう。

また、ガラスのアクセサリーや、メンバーが描いたイラストを採用したメモ帳など、さまざまなアイテムを制作している同施設。それらの商品はInstagramでも紹介されており、オンラインストアで購入可能です。ぜひチェックしてみては?

「米袋から、“今度は”バッグに」という、茶目っ気のあるネーミングもすてき。内側には、もともと米袋だった証のプリントが残されています