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福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

Sippoピアス〈Salut〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

今回は、女性たちの心身を癒す語らいの場として立ち上がり、ものづくりを通して人や社会とのつながりを創出する〈Salut〉が手がけた、七宝焼のピアス「Sippo」をご紹介します。

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女性のための「安心できる居場所」から生まれた、伝統工芸の手法でつくるモダンなアクセサリー

温かみのあるトパーズ色、珊瑚を思わせる真紅、ラピスラズリ、翡翠、瑪瑙などの鉱物にも似たさまざまな色のバリエーション。

モダンなデザインでありながら、蚤の市やアンティークショップにひっそりと潜んでいるような、どこかノスタルジックさも併せ持つピアス「Sippo」。耳元をさりげなく、また色やサイズによっては存在感たっぷりに演出してくれます。

これらを手がけるのは、京都市二条城近くの町家を拠点に活動する〈NPO法人 Salut(サリュ)〉。心の病やさまざまな悩みを持つ女性のための就労継続支援B型事業所です。

今回紹介する「Sippo」は、七宝焼(しっぽうやき)という伝統工芸技術を用いてつくられています。〈Salut〉に通所するメンバーの仕事として、約10年前から制作されてきました。当初からデザインはほとんど変わりません。流行に左右されることのない、永く愛用してもらえるものづくりが〈Salut〉の信条です。

透明感のあるものから、マットなものまで、定番の色展開は全30種。施設名の「Salut」とは、フランス語で「やあ」「バイバイ」といった親しい間柄の挨拶。ときには「お大事に」など、誰かを思いやるシーンなどで使われる言葉なのだとか

手間ひまと、多くの人の手が加わって完成する「Sippo」

「Sippo」の完成までには、さまざまな工程があります。まず、土台となる銅板をハサミでかたどる作業から始まり、その土台にガラス質の釉薬を乗せ、窯で焼成。模様のある商品はさらに釉薬で絵柄を描き、再び窯へ。焼成が終わったら、耳に装着するパーツの取りつけ。これらの作業のほとんどをメンバーの手で行っています。

1から10までをひとりで行う熟練したメンバーもいますが、基本的には各工程ごとに分業され、それぞれの仕事を得意とするメンバーが担当。手にとれば、ごく小さな一粒のピアスですが、そこには多くの人の手と、手間ひまが凝縮されています。

「Sippo」のほかにも、正絹の生地を小さく折ってつくるつまみ細工のアクセサリー「Tsumami」や、さまざまなテキスタイルをポーチ・バッグ・ペンケースに仕立てた「nui-mono」などを制作。

〈Salut〉に通所するメンバーは皆、ものづくり・手仕事をこよなく愛する人ばかり。スタッフの案だけではなく、メンバーによるアイデアや提案もさまざまに商品に取り入れられています。

細かな作業に集中力を要する「Sippo」の制作。釉薬を乗せる作業は特に技術が必要。通所し始めたばかりの人はベースとなる下地塗り「裏引き」の作業から入り、さまざまな筆作業の段階を経て、技術を高めていくのだそう

語らいの場として設立された〈Salut〉

2002年、同法人の前身である〈共同事業所 サリュ〉は、精神科の院長と看護師によって、診療所の一画に設立さた「女性のための居場所」として始まりました。ここにはDV被害などにあった女性が集い、それぞれが語り合うなかで心身の傷を癒していくという場所でした。

メンバーが増えてくると、診療所の一画では手狭に。ちょうど二条城近くに空き物件が見つかり、現在の作業場でもある京町家に移転します。

安心して居られる場所づくりとして導入したのが、手芸など、誰でもできる小さな手仕事。語り合うなかで手を動かしつつ、せっかくなら商品として販売できるものを皆でつくろう、と〈Salut〉でのものづくりが始まります。当初は和紙を使った名刺ケースや、ちりめんのマグネットなどを制作していました。

縫製、つまみ細工、ビーズのアクセサリー制作などを得意とするスタッフやメンバーが入るたび、ものづくりも発展。それらのノウハウを教え合うことも、コミュニケーションが生まれる機会と捉え、大切にしてきました。

丸と四角のピアスシリーズは、5ミリと10ミリの2サイズで展開。ほかにもバイカラー(ツートン)、ドット、モザイク、しましま、猫や魚をモチーフにしたブローチ、ヘアゴム、イヤリングなど、さまざまな七宝焼のアクセサリーが制作されています

同時期、福祉事業所の商品力を高め、メンバーの工賃アップにつなげるための、行政の支援が始まります。〈Salut〉には七宝焼を専門とする職業指導者が関わることに。

伝統的な意匠にとらわれず、手にとるとワクワクしたり嬉しくなるようなデザインを考案し、七宝焼の制作がスタートしました。その当時のデザインや技術は、丸や四角の「Sippo」をはじめ、今も定番商品として受け継がれています。

社会とのつながりが自然と醸成される「居場所」

〈Salut〉には他府県などの遠方から通うメンバーもいます。伝統とモダンをミックスした商品づくりに魅力を感じているという理由もさることながら、「女性のための居場所」であることに心休まる人がいるためです。

誰かにとって安心できる場所があり、そこで得意なものづくりを仕事にできること。さらに手がけた商品が誰かのお気に入りになることは、メンバーにとってのよろこびや生きがいにもつながります。購入者もおのずと〈Salut〉の支援者に。人と人、社会と人のつながりが、自然に醸成されていきます。

このようなプロセスを以て、メンバーがさまざまなつながりを感じながら、安心して生きていける社会にしていきたいというのが〈Salut〉の願いです。

「Sippo」をはじめとした商品の販売は、作業場1階のショップのほか、京都市内外のお店やポップアップイベントで販売中。近々オンライン販売も始まる予定

作業場でもある京町家の1階には、「Sippo」をはじめとした商品が並ぶショップが併設されています。二条城からほど近く、京都観光の折に訪れるにはピッタリの立地。京都を訪れた際は、ぜひ足を運んでみては?

また、さまざまな事情により安心できる居場所が欲しいという女性も、ぜひ〈Salut〉を訪ねてみてください。新しい居場所の発見や、心休まるものに触れるきっかけになるかもしれません。