
こここなイッピン
“小さなアート作品”つきランチバッグ〈PICFA〉
福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。
佐賀県の障害福祉サービス事業所〈PICFA〉と、群馬県の〈日東電化工業〉の協働から生まれたランチバッグ。セットになっているのは、持ち歩ける小さな絵画⁉
“小さなアート作品”を持ち歩く、世界にひとつだけのランチバッグ

キリのいいところで仕事や勉強を切り上げて、ほっと一息つくランチタイム。お弁当でお腹が満たされて、思考もフラットになったその時間、みなさんは何をして過ごしますか?
ここでひとつご提案。その時間を“小さなアート作品”の鑑賞タイムにしてみるのはいかがでしょう。その“作品”とは、パステルカラーのランチバッグとセットになった「缶バッジ」。もちろん、ただのバッジではありません。このアイテムのために描き下ろされた原画をバッジにした、世界にひとつだけの絵画です。

ミントカラーのバッグとセットになっているのは、中川原あすかさんによる作品。「密シリーズ」と呼ばれる、モノをギュギュッと密に描くのが好きなアーティストです。ちなみに、それぞれのアートの中には、リンゴや向日葵(ひまわり)じゃないモノが隠れているのですが……わかりますか?
ピンク色のバッグには、「酒」と書かれた瓶を抱えて眠る猫と、無防備にもお腹丸出しで、口からはよだれを垂らす猫。杉野はるかさんの描く眠り猫たちはあまりにも心地よさそうで、こちらまで夢の中に誘われるよう。
紫色のバッグには、カラフルな1頭のライオンが。たくさんの色で埋め尽くされる園田瑞樹さんの作品を眺めていると、彼の目に世界はどのように映っているのだろう、と想像を巡らせたくなります。
美術館で鑑賞を楽しむなかで、いつの間にか心身がリラックスしていたりするように、ランチ後のひと時をアート鑑賞に充てることで、頭の片隅にあった気掛かりやモヤモヤも晴れ、気持ちのよい午後のスタートを切れるかもしれません。

コスメブランドのコラボから、ECサイト運営という協働へ
このバッジを制作しているのは、佐賀県東部地区にある医療法人清明会が運営する、障害福祉サービス事業所〈PICFA(ピクファ)〉。350年以上の歴史を持つ〈きやま鹿毛(かげ)医院〉内に2017年に設立された就労継続支援B型事業所で、所属するメンバーは日々さまざまな創作活動を行っています。
そして、〈PICFA〉から生まれたアート作品やプロダクトを扱うECサイトの運営を担っているのが、1959年に群馬県高崎市に創業した〈日東電化工業株式会社〉。金属の表面処理加工事業とヘルスケア事業を展開しています。
この2社の関係は、〈日東電化工業〉が手がけたコスメブランド・OSAJIの商品パッケージを〈PICFA〉とコラボレーションしたことをきっかけにスタート。そして今回のイッピンは、〈日東電化工業〉のスタッフの提案から誕生しました。

誰にでもひらかれ、コミュニティが生まれる創造の場を目指す〈PICFA〉
アートを「人と人をつなぐ媒体」と考え、イラスト・絵画・造形・刺繍といった表現活動を「仕事」と定義し、日中活動のすべてを創作やものづくりに充てている〈PICFA〉。
所属する19名のメンバーは、絵を描く・造形するのが好き、何かしらで表現したい、という人ばかり。スタッフが用意したさまざまな画材・素材を自由に使って創作し、わからないことがあればメンバー同士で教え合ったり、自ら本やネットで調べたり。自主的で探求心が強いという彼ら・彼女らにとって〈PICFA〉は、やりたいことをやりきる場となっています。

そんな〈PICFA〉の事業所は、誰でも、いつでも、施設内を見学・入館できるようにひらかれています。そして、毎日誰かしらが訪ねてくると話すのは、スタッフの川畑麗奈さん。作品を通じてファンになった人、メディアで知って興味を持った人、打合せで訪れる人、メンバーとおしゃべりをしにふらりと訪ねてくる地域の人——。
「関わるなかでメンバーのことがどんどん好きになって、いつしか友だちになり、週末に一緒に遊びに行ったりする方もいるようです。毎日誰かが訪ねてくるので、メンバーもそんな環境に慣れていて。作品の説明をしながら、フレンドリーに話しかけたりしていますね」(川畑さん)
関係者や利用者しか入館できない所も多い福祉の現場。事業所内でどんな活動を行っているかさえ、見えにくい場合も多々あります。そんな福祉事業所のイメージをアートを通じて取り払い、コミュニティが生まれる創造的な場を〈PICFA〉は目指しているといいます。
〈PICFA〉を身近に感じる、“持ち歩けるアート”
一方の〈日東電化工業〉は、金属表面処理技術で培った知識を生かしたスキンケア事業を2004年に立ち上げ。その活動のなかで、視覚に障害のある人が自身でフルメイクする「ブラインドメイク」の普及などにも携わってきました。
多様な人々の思いや個性を尊重する文化的社会の礎となりたい——そんな思いで事業を展開するなかで出会ったのが〈PICFA〉。福祉とアートが一体化した事業所の活動と、そこから生まれくる作品に感銘を受けた〈日東電化工業〉は、OSAJIなどの製品パッケージデザインやイベントなどを通じて交流を深めてきました。2022年には〈PICFA〉とアライアンスを結び、アート作品やアイテムを販売するECサイトを開設。その運営を行っています。

〈日東電化工業〉のスタッフ・早川歩美さんも、定期的に〈PICFA〉に足を運ぶひとり。事業所の雰囲気や、メンバーたちとの交流のなかで、いつも何かしらのパワーをもらっているといいます。
「〈PICFA〉のみなさんを見ていると『どっちがメンバーで、どっちがスタッフ?』ってわからなくなる瞬間があって。それに、外部のファンや私たちとの関係も、気づいたら友だちのようになっていることがあります。メンバー同士で助け合う姿だったり、外部の人への関わり方などを見ていると、小さなステキな社会を見ているような感覚があるんです」(早川さん)
魅力的なメンバーと作品に圧倒されつつ、不思議とリフレッシュできるおもしろい場所、と語る早川さん。そんな〈PICFA〉を身近に感じられるようなアイテムがつくれないかと、川畑さんに相談するなかで生まれたのが「“小さなアート作品”つきランチバッグ」でした。
大きな作品は、飾る場所や購入数に限度があるけれど、小さな作品、それも「缶バッジ」という形状なら、さまざまなメンバーの作品を集めやすく、どこにでも持ち歩け、いつでも楽しめます。
「“持ち歩けるアート”というのが自分のなかに強いイメージとしてあったんです。ランチバッグとして持ち歩く以外にも、洋服やお気に入りのアイテムに付け替えたりして、〈PICFA〉を身近に感じてもらえたらいいなと思っています」(早川さん)
ECサイト開設から3周年! 今しか買えないグッズを販売
2025年6月は〈PICFA〉のECサイトが開設されて3周年を迎えました。そして、6月25日(水)〜7月31日(木)の約1カ月間、佐賀にある事業所内や、イベント時にしか販売されないグッズが、オンラインで販売されます。どんな商品が並ぶかは、サイトを覗いてのお楽しみ!
また〈PICFA〉では、事業所の活動に関心を持つ方の見学や来訪を受け付けています。イベントの翌日などは休館している場合があるため、事前に一報するのがおすすめ。メンバーによるアート作品が館内の壁を埋め尽くす〈PICFA〉。ご興味のある方は、ぜひ足を運んでみてください!
Information
“小さなアート作品”つきランチバッグ
サイズ:約W200×H160×D80mm
素材:綿、ポリエステル
価格:3520円
販売:PICFA オンラインショップ
製造:PICFA
オンラインショップ運営:日東電化工業株式会社