福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

おめでたい神〈NPO法人kokoima〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

まちの誰かの不用品を誰かの必要品へと循環させるものづくりや、近隣大学と連携したプロジェクトなど、多様な事業を行う〈NPO法人kokoima〉。病院の看護師だった法人代表の構想した“まち場”が、いまや地域の日常に。そんな場から生まれたネコグッズをご紹介します。

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まちの人々が同じ時間を共有する“まち場”と、そこから生まれるネコグッズ

【画像】両手を広げた猫のマスコットたちがずらりと並んでいる

カラフルな布地をまとい、手を大きく広げ、辛も苦もはたまた喜楽も湛えたような面持ちで見つめてくる人形たち。ひらかれた口は、なにかを訴えている? それとも語りかけている? もしくは神託を告げている⁉ 

これら人形の名前は「おめでたい神(しん)」。大阪府堺市にある〈NPO法人kokoima〉が運営する〈アトリエ&ギャラリーふくもち〉のメンバー・千代子さんとフクイさんが、2021年頃から制作をスタートさせた、世界にふたつとない“ネコ”人形です。

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左3体のユーモラスな表情の人形は千代子さん、右の穏やかな表情の人形はフクイさんが制作。フクイさんは現在「おめでたい神」の制作はお休み中とか

「ネコなの?」とお思いでしょうか。「おめでたい神」がネコである証拠があります。ほら、耳をご覧あれ。地域ネコとして人々に気にかけられているがゆえの“さくら耳(注)”です。

また「おめでたい神」よりも小型のネコ人形は「ふくもちーず」と呼ばれています。形は違えど、つくられているのはネコばかり。その理由は、また後ほど。

注:不妊去勢手術を済ませた野良猫や地域猫の耳の先端をV字型にカットした印をこう呼びます。

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裏側には安全ピンがつけられ、ブローチとなっている「ふくもちーず」。形も布地も、いろいろ

“守り神”のような雰囲気が漂っていた⁉

堺市香ケ丘町内の徒歩数秒圏内に、カフェ、リサイクルショップ、作業所、アトリエ&ギャラリー、焼きいも屋と、いくつもの店舗や活動拠点を持ち、さまざまな事業を行っている〈kokoima〉。それらの拠点が点在する一角は、事業所のメンバー、スタッフ、まちの人々が集い、交流し、多様なつながりが生まれる、コミュニティスペースのような場になっています。

そして、まちの人からさまざまなものを譲り受け、それらを活用したものづくりや事業を行っている同法人。リサイクルショップ〈リユースショップぜろ〉で販売したり、ユーズドの服や着物をほどいてアップサイクルの服に仕立てたり。そのなかで出る端切れも無駄なく活用されており、そのひとつが「おめでたい神」と「ふくもちーず」です。

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「おめでたい神」よりも気軽につくれるものはないか? と生まれたのが「ふくもちーず」。人形たちは、制作された年代や、つくり手の心身の調子によって、表情や装飾などが変わるのだとか

法人代表の小川貞子さんは、ある日見かけた手づくり人形にヒントを得て、端切れで人形をつくるのはどうかと提案します。スタッフが型紙をつくり、端切れをカットして材料を用意し、手芸の得意な千代子さんに「こんなふうにできへん?」と制作を打診。

「できるよ」と、あっという間に千代子さんによって仕立てられたその人形は、そのポーズも、表情も、どこか“守り神”のような雰囲気が漂っていたといいます。

何かの願掛けに。イヤなことから守ってくれる身代わり人形に。そんな願いを託せる人形に……という思いと、当時千代子さんが活動していた拠点〈おめでたい作業所〉の名前をとって「おめでたい神」と名づけ、商品化が決まりました。

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ネコがネコの服着てネコの絵を持つ「おめでたい神」は、こここ編集部メンバーに引き取られました。きっと、こここを守ってくれるはず!

以降、ときどきは別の作業を行いながらも、いつも戻ってくるのは「おめでたい神」の制作という千代子さん。彼女がアトリエに通う日は、1日で1体が完成するといいます。

2021年頃から制作がスタートしたということは……これまで何体の神が誕生したのでしょうか⁉

人とのつながりを体感できる場づくり ー「開く」「居合わせる」ー

精神科を有する浅香山病院(堺市)で看護部長を勤めていた小川貞子さんが、病院を辞職して〈Caféここいま〉をオープンさせたのは2015年12月末。

精神科に入院する人は、日常生活に戻るための入院が長期化することも多く、退院後の暮らしに不安を覚える人も少なくないといいます。そうした人が退院する勇気を持ったとき、「誰かとコーヒーを飲んだことがある場」「顔見知りの顔が思い浮かぶ場」があることで、その勇気をあと押しできるのでは、そんな“まち場”を開く構想を思い描いた小川さんの大きなアクションでした。

病院に入院している人、退院した人、香ケ丘町の住人もがカフェに居合わせるようになり、いつしか“まちのリビング”的な存在となっていった〈Caféここいま〉。次は退院した人の働く場所が必要では? と検討していたところにカフェ隣の物件が空き、リサイクルショップ〈リユースショップぜろ〉を2017年5月にオープン。さらには、その向かいの空き物件に就労継続支援B型と生活介護の事業所〈おめでたい作業所〉を2017年8月に立ち上げ、メンバーの「やりたい」を仕事にする活動がスタートしました。

2021年4月には、1階が商品展示・販売スペース、2階がものづくりの場となる〈アトリエ&ギャラリーふくもち〉が誕生。「おめでたい神」はここに降臨します。

さらに2022年6月、まちの人からもらった火鉢で焼きいもをつくったことを発端に、壺焼きいも専門店〈ここいも〉を開業。かねてより交流のあった関西大学の学生たちと協働してさつまいもの栽培も始まっています。

そうした歴史の一コマには、ネコの「ふくまる」との出会いも。近所に捨てられていた仔ネコを小川さんが引き取り、〈Caféここいま〉の看板ネコに。ふくまるに会うためにカフェを訪れた人が、さまざまなご縁を繋げていくこともあるといいます。そんなふくまるの存在こそ、同法人が「ネコグッズ」を多様に手がける理由、というのは既にお気づきでしょうか。

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「おめでたい神」が誕生する以前、千代子さんが制作していたというヘアゴム。クマのようにも見えますが、言わずもがな、ネコです

拠点の拡大だけでなく、さまざまなプロジェクトの中心となり、活動を行う〈kokoima〉。例えば、夏祭り、フリーマーケット、学生たちと交流するクリスマス会など、地域の人々がボーダレスに集い、まちに新たな賑わいと価値を創出する「浅香山GENKIプロジェクト」。ゼミ生や近隣住民と一緒に、食べられる植物をまち中で育て、収穫して食べる「エディブルケア・プロジェクト」などが行われてきました。

実にさまざまな活動、出会い、物語が生まれている香ケ丘町の一角。大きな勇気で病院を退院し、まちに暮らし始めた人と、昔からまちで暮らしてきた人が、場を開くことで顔の見える関係になり、同じ時間を共有するコミュニティが生まれ、小川さんがかつて思い描いていた構想は現実となり、地域の日常となっています。

「カズボン個展vol.1 人生は縁・運・恩」が12月3日~7日で開催

さて、〈kokoima〉のメンバーのひとり、カズボンこと渡邉和也さんの個展「カズボン個展vol.1 人生は縁・運・恩」が、〈Caféここいま〉〈アトリエ&ギャラリーふくもち〉〈ここいも〉の3会場で、2025年12月3日(水)~7日(日)の期間で開催されます。

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渡邉さんが描いたイラストのTシャツ

20年以上にわたって自宅で絵を描き続け、描きあがった作品を作業所に持ってくるという渡邉さん。その作品数も200点を超え、この度の個展が開催されることになりました。お近くの方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょう?

また、今回のイッピン「おめでたい神」のオンライン販売が年内にスタートする予定! 1点1点手づくりにつき、表情も服も装飾も異なる人形たち。ぜひお気に入りの1体を見つけてください!