こここなイッピン
チョキチョキ & おばけちゃんシリーズ〈PoMA〉
福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。
メンバーの特性やこだわりを“芸術”や“唯一無二のおもしろさ”と捉え、さまざまなアート活動に落とし込む〈PoMA〉。それらの作品の魅力を伝え支えるのは、支援員であるスタッフだけではなく、ある理解者たちの力が大きくかかわっていました。
メンバーの特性を“芸術”という観点で捉える〈PoMA〉のテーブルウェア
どんな料理も引き立ててくれそうな白釉の器に、ランダムに浮かび上がるポップな形の縞模様。これらのプレートやマグは「チョキチョキシリーズ」と呼ばれています。
「チョキチョキって、どういうこと?」とそのネーミングに首をかしげる人もいるでしょうか。その名前の由来は器の“模様”にあり。じつは、ギザギザとした厚手のクラフト紙をチョキチョキとハサミで切って器に押し当て、これらの模様をつけています。だから、チョキチョキシリーズ。
そして今回のイッピンがもうひとつ。
お皿に浮かび上がるのは、おばけ! この遊び心たっぷりなプレートは「おばけちゃんシリーズ」と呼ばれています。盛りつけた料理の横におばけがチョコンと居座っているのを想像してみてください。お皿に目を向けるたびにおばけと目が合って、食事タイムがより楽しいものになるかも?
見て、使って、楽しいこれらの陶芸作品は、東京都練馬区の障害者支援施設〈やすらぎの杜〉の芸術活動〈PoMA(ポマ)〉にて生まれたもの。陶芸作品のほか、羊毛フェルトのグッズや、メンバーのアートを活用したさまざまな商品を展開しています。
白根さんの特性を生かした「チョキチョキシリーズ」
「チョキチョキシリーズ」を制作するのは、〈PoMA〉の代表作家のひとり、白根弘子さん。チラシを切り抜くのが大好きで、掲載商品を巧みにつなげて切り出したそれは“芸術的”という言葉がピッタリなのだとか。
チラシに飽き足らず、自身の髪の毛や服までもチョキチョキと切ってしまうという白根さん。ある日スタッフが、陶芸指導の講師へ白根さんの特性を共有すると、「切り抜いた形がおもしろいなら、それを陶芸の模様にしてみよう」というアイデアが持ち上がります。
模様の出やすい波型のクラフト紙を白根さんに渡すと、ポップな形が次々と切り出されていきました。それらをギュッとお皿に押し当てて模様をつけていくと、ユニークなデザインプレートに。こうして「チョキチョキシリーズ」が誕生したといいます。
かわいいけれど、結構怖い⁉ 和気さんがつくる「おばけちゃん」たち
一方の「おばけちゃんシリーズ」を制作するのは2人のメンバー。そのうちのひとり、和気知美さんのつくるおばけは「かわいいけれど、結構怖い」と、施設内外で人気を博しています。
「おばけちゃんシリーズ」の制作プロセスは、おばけの型枠に粘土を詰めて形をつくり、それらをプレートやマグに接着するというもの。ところが和気さんは、そのつくり方には準じません。フリーハンドでおばけをつくり、ひとつの器に2つ、3つ、4つ……とおばけを盛っていきます。
虚空なおばけの目、ヌッ……と浮き出てきたようなフォルム、陰影と相まった釉薬のかすれ、不気味さのあるゴースト感。和気さんが手がけるおばけは、キュートながらも、ちょっとしたおどろおどろしさが特徴です。
メンバーの強いこだわりこそ、唯一無二のおもしろさ
メンバーが生み出すアート作品の魅力に気づき、創作に力を入れ始め、2013年から〈PoMA〉という名を冠して芸術活動を本格化させた〈やすらぎの杜〉。陶芸作品、羊毛フェルトグッズ、メンバーのイラストをプリントしたTシャツなどを販売したり、練馬区が主催する美術展や、全国の公募展などにも積極的に参加したりと、メンバーの作品の魅力をさまざまな形で発信してきました。
〈PoMA〉の活動においては、メンバーの創作に口を出さないのがスタッフ間のルール。そして、メンバーの強いこだわりは“芸術”という観点で捉えるようにしていると、支援員の皆川恵さんはいいます。
「福祉施設では、利用者さんのこだわりは“問題行動”と捉えられることが多いんです。でも、視点を変えてみれば、それは唯一無二のおもしろさだと感じるようになって。それに、スタッフ側にある“常識”といわれるものが入り込まないほうが、おもしろいものが生まれるんです」
実際に「おばけちゃんシリーズ」でご紹介した和気さんは、時間をかければかけるほど“盛る”特性があるといいます。フェルト作品づくりにおいては羊毛を積み重ねる手が止まらず、こんもりとした山や丘のような立体物になることも。また、綱のような太いヨコ糸を自作し、タテ糸に織り込んでいくというトリッキーな織物作品も手がけています。
「初めは私もヨコ糸がどんどん太くなるのを『どうしよう……⁉』と思っていたんですが(笑)、完成した作品を『すてき!』と言ってくださるお店やお客さんがいるんですよね。それに気づいてから、もう口出しするのは止めようと思いました」
スタッフの価値観だけでは生まれないものがあり、同時に福祉関係者ではない人のほうが、メンバーたちの創作への理解が高いことを痛感してきたという皆川さん。応援者の反応や声から「これでいいんだ」とスタッフ側も学びを得て、現在の〈PoMA〉らしい商品が生まれてきた、と語ります。
メンバーの作品の魅力を伝え、〈PoMA〉を支える“外部の声”
前述の通り、〈PoMA〉のものづくりにおいては、メンバーの創造性や魅力を理解し、楽しんでくれる“外部の声”が大切にされています。
陶芸指導の講師も、メンバーのこだわり、得意、好きなことをスタッフにヒアリングしながら、積極的に作品に落とし込もうとしているのだそう。今回のイッピンも、そのような作業のなかで生まれています。
それらの作品をSNSで発信するなかで、雑貨店などから問い合わせがあったり、卸した先での購入者が〈PoMA〉のファンになったりと、作品の魅力がさまざまな形やきっかけで広く知れ渡るようになりました。
「今では、外部の方たちから『私にやらせてください!』と声を掛けてくれることが増えていて。そんな申し出を大切にしています。というのも、〈やすらぎの杜〉にはアートを専門的に学んだスタッフは一人もいなくて。知識もないし、自分たちだけではとてもできない。だから、声をかけていただいた方と協働することも多いです」
毎年制作しているカレンダーの2025年版は、〈PoMA〉のファンというグラフィックデザイナー・いぬいかずとさんが、作品選定から製作までプロデュース。今回は豪華特典もつき、「新しいPoMAカレンダーが完成したと自負」していると、皆川さん。
障害やメンバーへの理解が循環する
2024年から一般参加者を招いた「オープンアトリエ」をスタートさせた〈PoMA〉。メンバーと隣り合って絵を描いたり、おしゃべりしたり、という時間が設けられています。
「私たちの活動に興味を持ってくださる方や、商品を購入したことがある方、他施設の職員さんも来られますね。私たちがこういった活動を行っているのは、なかなか接することのない障害のある人たちの魅力を伝えたいから。オープンアトリエも、SNSも、利用者さんの魅力を知ってほしいという思いで発信しています」
当初、障害のある人との接し方がわからず見学に留まっていた参加者も、回を重ねるごとにアトリエの雰囲気を楽しむようになり、メンバーの隣で絵を描く人も増えているそう。
また、普段は芸術活動に関わらないスタッフにもオープンアトリエへ入ってもらい、参加者のさまざまな声を聞くことで「こういう価値観があるんだ」という気づきを得る機会にもなっているようです。
メンバーの魅力の伝播を担うスタッフの思いが、外部の人を通じて波紋のように広がり、かかわるからこそ気づきにくい支援スタッフにも届く。障害やメンバーへの理解が、おもしろい形で循環しています。
さて、〈PoMA〉の活動や作品に興味を持った読者の皆さんに朗報です!
2024年11月15日(金)~23日(土・祝)、東京都世田谷区の雑貨店〈TETENTOTEN〉にて〈PoMA〉の展示販売会が開催されます。勤労感謝の日を含むことから、「働く」をテーマにしたアート作品、陶芸品、ウェアなど、ユニークなアイテムが並ぶ予定です。
今後も各地で展覧会やイベントへの参加が決まっており、オープンアトリエでも新しい企画を考えているという〈PoMA〉。SNSなどをチェックし、お出かけしてみてはいかがでしょうか。
Information
チョキチョキ & おばけちゃんシリーズ
サイズ:商品により異なります
販売価格:
<チョキチョキシリーズ>
ちょきちょき皿 1,650円
ちょきちょきマグカップ 1,650円
TETENTOTEN×PoMA オリジナル皿 3,080円
<おばけちゃんシリーズ>
おばけちゃん皿
おばけ1つ付き 2,200円
おばけ2つ付き 2,420円
おばけちゃんマグカップ
おばけ1つ付き 1,650円
おばけ2つ付き 1,870円
おばけメモフォルダー 660円
販売:
PoMA
TETENTOTEN
GOOD JOB STORE
制作:社会福祉法人 章佑会 やすらぎの杜
Information
PoMAだ!まいったか!展②
- 会期:2024年11月15日(金)〜11月23日(土)
- 時間:12時〜19時(期間中無休 / 最終日18:00)
- 会場:TETENTOTEN(東京都世田谷区若林4-3-9)