福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【画像】

こここなイッピン

SHAKA POUCH〈tam tam dot〉×〈TEXT〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

シャカシャカとした手触りが特徴の「SHAKA POUCH」は、仙台市内の福祉施設と同市で活動するクリエーターとのコラボレーションから生まれたイッピン。施設と作家の出会ったきっかけや、今後目指すものづくりとは?

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仙台の福祉施設×クリエーターの出会いから生まれた、新感覚のものづくり

【画像】地球柄、ヴィヴィットな色、ベージュに線画など、いろいろな模様のテキスタイルで作られたポーチの写真
(提供写真)

カラフルでちょっぴりイビツな卵型が愛おしい「SHAKA POUCH(シャカポーチ)」。かつて持っていたポータブルCDプレーヤーなんかがぴったり収まるサイズ感。ふわふわとした厚みでクッション性があって、デリケートなアイテムの持ち運びによさそうです。

その名の通り、シャカシャカとした手触りですが、素材を見れば綿100%の布地がベース。手にとった瞬間「本当に綿素材⁉」と、そのテクスチャーに驚くかもしれません。

うっすらと格子模様がついた「SHAKA POUCH」の表面(提供写真)

今回のイッピンを制作するのは、宮城県仙台市にある福祉施設〈多夢多夢舎 中山工房〉が展開するデザインブランド〈tam tam dot〉と、同市内でテキスタイル制作やそれらを活用したものづくりを行う〈TEXT〉の大江擁さん。2022年から、メンバーが描いたアートやイラストを布地にプリントしたコラボレーション商品を制作しています。

〈tam tam dot〉については以前、利用者であるメンバーたちが、活動時に湧きあがってくる楽しさ・おもしろさを“まる”という形に描き、それらを集めてデザインに落とし込んだ「てぬぐい・まる」をご紹介しました。今回のポーチのまる型も、楽しさの表現の延長上にあるのかも?

仙台市内の福祉施設とクリエーターが出会う〈AとW〉

〈tam tam dot〉と大江さんは、仙台市内の福祉施設と、地元で活動するクリエーターやFab施設(専用の工作機器、工具、加工設備など取り揃えた施設)などをマッチングさせ、アートと仕事につなげていくネットワーク〈AとW〉をきっかけに出会いました。

近年は、創造的な活動を行う福祉施設が全国的に増え、仙台市内の各施設でも新しい取り組みに着手したいという声がありました。一方で、施設スタッフがアート活動を主導するには時間も知識もなく、外部のクリエーターとの接点や、他施設との情報交換の機会もないという課題もありました。

そうした声を受けて立ち上がったのが〈AとW〉。公益財団法人仙台市市民文化事業団の「持続可能な未来へ向けた文化芸術の環境形成事業」として運営されています。

【画像】白地にこけしがプリントされたテキスタイルのポーチ
2024年に制作されていたナイロン生地の「SHAKA POUCH」。現在は綿素材に変更され、形も卵型のような楕円形に変更されました

〈AとW〉を通じて出会い、2022年に初めて〈tam tam dot〉を訪れた大江さん。メンバーが描き溜めていた数多(あまた)の作品を目にし、これらのアートをテキスタイルに落とし込んでみてはどうかと閃きます。

極薄のナイロン生地に、メンバーの作品をインクジェットでプリントしてみると、メンバーの作品が空気をまとって揺らめく、シアーなテキスタイルが完成。この滑らかでシャカシャカとした素材がどのようなプロダクトにマッチするか、さまざまな商品を試作していくなかで、ポーチやバッグなどが誕生しました。

シルクスクリーンの導入で、新たなものづくりがスタート

2024年からは週に1度、大江さんが〈tam tam dot〉に赴いてメンバーと一緒に手を動かし、施設内に新設したシルクスクリーン工房でさまざまな試みを展開中。そんななかで生まれたのが、ナイロンではなく、綿生地にシルクスクリーンで透明なインクを格子状に刷った、シャカシャカとした新感覚の手触りを持つ生地でした。

「工房内で完結する特殊な生地づくりを目指しているんです。現在テキスタイルのプリントは外注していますが、いつかはその印刷もシルクスクリーンを使ってメンバーと一緒にできないかとテストを繰り返しているところです」(TEXT・大江さん)

そのような生地の試作に加え、刷った生地で展開するプロダクトもさまざまに企画中。今後、イベント時にメンバー全員で着るユニフォームも制作する予定なのだとか。

横長のポーチもご用意。L字型のチャックで口が広く、中のものが取り出しやすい!

木曜は、メンバーにとって特別な日

就労継続支援B型事業所として、2006年に設立された〈多夢多夢舎 中山工房〉。メンバーたちは、自由に、マイペースに過ごしながら、絵や音楽、パフォーマンスといった“自分の魅力を生かせること”で社会に参加しています。

普段から多様なものづくりを行っているメンバーたちですが、大江さんが訪れる木曜は“いつもと違うことができる日”と捉え、朝からシルクスクリーン工房で待機していることも多々。メンバーにとって特別な日であることが一目瞭然だとスタッフは語ります。

未経験のシルクスクリーン印刷もすんなりと受け入れて楽しみ、現在は近隣企業から依頼のあったノベルティの印刷にも取り組むメンバーたち。配色も、色の混ざりも、版の位置も、1枚1枚異なるフリースタイルのシルク印刷を行い、ユニークなノベルティバッグが生まれています。

大江さんとの関わりのなかで、多くの刺激を受けているメンバーの作品にもさまざまな変化が表れているのだそう。それらを活用した今後の新商品にも期待がふくらみます。

福祉発プロダクトという枠を超えるものづくりを目指す

【画像】積み重なったポーチの写真。横から見るとふっくらと厚みがあるのがわかる
ポーチをセットする台紙は、メンバーが1枚1枚手描きしています(提供写真)

徐々に取り扱いショップや、ポップアップ出店などが決まっているという〈tam tam dot〉と〈TEXT〉のプロダクト。今後はメンバーのイラストをリスト化して購入者が選択できるようにし、選んだ絵柄をテキスタイルにして商品を制作するという仕組みも展開していくのだそう。

また、〈tam tam dot〉のメンバーだけでなく、アーティストや子どものイラストなどを採用したり、メンバーの作品とミックスするなど、福祉発プロダクトという枠を超えたものづくりも目指しています。

2025年4月からは〈tam tam dot〉のオンラインストアにて「SHAKA POUCH」の購入が可能に。また、4月4日(金)から愛知県名古屋市にある予約制古着屋〈SOME〉にて1カ月間のポップアップも予定されています。お近くの方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。