福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

手描きのドットが描かれた、あお、ブルーグレー、ブラウンの3色の手ぬぐいの写真

こここなイッピン

てぬぐい・まる〈tam tam dot〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

今回のイッピンは、大小の「まる」が大胆にあしらわれた〈tam tam dot〉の「てぬぐい・まる」。描かれた「まる」は、障害のあるメンバーたちが日々制作に取り組むなかで得た感情の形、そのものでした。

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楽しい、おもしろいと感じた気持ちを、自由に「まる」で描く

5色のカラフルな手ぬぐいが並んでいる様子
障害のあるメンバーたちが描いた「まる」を組み合わせた〈tam tam dot〉のてぬぐい。どれもまるい形ではあるものの、決して同じ「まる」にはならない。それらを1枚のてぬぐいに集合させたデザイン

てぬぐいの定番柄といえば、小さな丸が無数に描かれた「豆絞り」。その伝統的な柄を手描きで表現した〈tam tam dot〉の「てぬぐい・まる」は、鮮やかなカラーと相まって、なんとも粋な仕上がりに。

宮城県仙台市にある福祉施設〈多夢多夢舎 中山工房〉が展開するブランド〈tam tam dot〉のてぬぐいは、障害のあるメンバーたちが描いた「まる(ドット)」を集めてデザインに落とし込み、創業300年以上の老舗〈武田染工場(注)〉で染め上げたイッピンです。

注染(ちゅうせん)という技法で染められ、表裏関係なく使えるのがポイント。大きな「まる」をあしらった大胆なデザインや、目を引くカラー展開は、全色コンプリートしたくなるチャーミングさ。ハンカチやタオルの代わりに使うのはもちろん、キッチンの布巾として使用するなど、生活のさまざまな場面で活躍してくれます。カラフルなてぬぐいの存在は、日常をささやかに彩り、気分を高めてくれるはず!

注:〈武田染工場〉は、残念ながら2020年に閉業となりました。現在のてぬぐいの染色は、ほかの染工場で行われています。

手描きのドットが描かれた、あお、ブルーグレー、ブラウンの3色の手ぬぐいの写真
豊富なカラーバリエーション。ほかにもわさび、からし、ブルーグレー、ラムネなど、全7色で展開しています

自由に「まる」を描くデザインブランド〈tam tam dot〉とは?

〈多夢多夢舎 中山工房〉は、就労継続支援B型事業所として、2006年に設立されました。施設が目指すのは、障害のあるメンバーが“自分の魅力を生かせること”で社会に参加すること。メンバーが自由に、自分のペースで過ごせる場を創造し、絵・音楽・パフォーマンスを軸に、彼ら彼女らの魅力を引き出す取り組みを行っています。

そんな〈多夢多夢舎〉に通うメンバーが、「まる」を自由に描くブランド〈tam tam dot〉。てぬぐいのほかにも、本来なら廃棄される服のデザインサンプル「トワル」にペイントを施すプロジェクトや、米袋にイラストを描いてリメイクしたポーチやブックカバーなど、さまざまな作品や商品を手がけています。

その制作中にはメンバーの好きなアイドル音楽、昭和歌謡曲、演歌などが流れ、メンバーは思い思いに歌ったり踊ったりしながら作業を進めていくのだとか。制作時間に湧きあがってくる楽しさ、おもしろいと感じた気持ちを、「まる」という形で描くことが、このブランドの根幹。てぬぐいに描かれたその模様も、心なしか楽しげな雰囲気をまとっているように見えませんか?

ラムネとわさびの2色には、大きいドットが施されています

メンバーの“楽しい”“おもしろい”が形になり、出会いをつむぐ

セレクトショップからの商品取り扱いの問い合わせ、テキスタイルのデザイン制作依頼、イベント参加への打診、ワークショップ開催のお誘いと、全国各地からさまざまな声がかかる〈tam tam dot〉。メンバーたちが手がける絵の力強さ、ユーモアのある表現に魅せられ、「〈tam tam dot〉のことをもっと知りたい!」と、仙台の施設へ直接訪ねてくる人もいるのだとか。

近年は、〈tam tam dot〉のインスタグラムを見たというフランスのとあるギャラリーから、作品展への出展のお誘いが。ふたりのメンバーが手がけた「トワル」のペイント作品がフランスで展示されました。

またスペインのバルセロナでは、日本の伝統文化を体験するイベント〈Festival MATSURI BARCELONA〉が開催され、今回紹介したてぬぐいが販売されるなど、海外進出も始まっています。

〈tam tam dot〉のインスタグラムを覗いてみると、グッと心掴まれる作品に交じって、メンバーたちがのびのびと過ごす施設での様子や、彼ら彼女らの生き生きとした表情に出会えます。自分のペースで、好きなことに打ち込める場所があり、そこで得た感情を表現しているメンバーたち。楽しい、おもしろいと感じた気持ちを形にするというブランドの根幹が実現されているからこそ、多くの人に〈tam tam dot〉の魅力が伝わり、出会いがつむがれていくのかもしれません。