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福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

手づくり焼き菓子〈かすたねっと〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。


今回のイッピンは、大切な方への手土産や贈り物にオススメしたい、〈かすたねっと〉の手づくり焼き菓子セット。シンプルながらも、しっかりとおいしいその味は、つくり手である障害のあるメンバーの、働くよろこび、積み重ねてきた時間が生みだした味でした。

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届けたいのは、障害のあるメンバーの働くよろこびから生まれる、まっすぐなおいしさ

レモン・アールグレイ・苺ジャムサンド・くるみのクッキー4種、くるみとキャラメルのガレット、ドライフルーツのパウンドケーキが入った、人気の詰合せギフトボックス。〈かすたねっと〉で働くメンバーが描いたお菓子のイラストのリーフレットがかわいい

「どうぞ」と手渡された贈り物の、おいしさ、そのものに込められているストーリーに、心ときめいた経験がある人は多いのではないでしょうか。同時にそれが、大切な人への贈り物の候補になることがあるかもしれません。〈かすたねっと〉の焼き菓子セットも、貰ってうれしい、贈って喜ばれる、とっておきのギフトとなるイッピンです。

箱いっぱいに詰められた、たくさんの焼き菓子たち。むらなく焼かれたキツネ色のクッキー、どんな食感か想像するのも楽しい厚みのあるガレット、フルーツがチラチラ顔をのぞかせるずっしり重たいパウンドケーキ。「どれから食べよう?」とわくわくしながら選び、かじったお菓子の素朴なおいしさに、ふぅ、幸せ。

東京・練馬で、35年にわたって焼き菓子をつくり続けている〈かすたねっと〉。お菓子に特別な飾り気はありませんが、見た目そのままの、まっすぐなおいしさが評判です。

得意を極め、おいしさの追求にひたむきな菓子職人たち

30種類以上にも及ぶ〈かすたねっと〉のお菓子をつくるのは、店長の矢吹良子さんと、28名の障害のあるメンバーたち。それぞれの得意を生かせる作業を担当し、その仕事にひたむきに打ち込みます。

プリンのカラメルを絶妙なタイミングで仕上げる人、正確な計量を得意とする人、生地を均等な厚さで型に入れる人、クッキーの袋詰めが芸術的な人。「この仕事なら、このメンバーが一番!」という、なかなか代わりの利かない仕事を、それぞれが受け持っています。

彼ら彼女らの得意を見つけるのは、店長の矢吹さん。ひとり一人に向き合っていると、どんな作業が向いているかわかるといいます。

「その人にあった作業を見つけて任せれば、やりがいが生まれるし、皆が楽しいですよね。自分のやるべきことがちゃんとあるので、仕事を休む人はいません。」

キメが細かく、しっとりと口の中でほどけるフルーツパウンドケーキ。ドライイチジクのプチプチ感、ラムレーズンの豊潤さ、ひとつのケーキからいろんな味わいが広がります

父母の有志でつくり上げた、障害のある子どもの働く場

焼き菓子店の創業は1986年。練馬区内に住む障害のある子どもたちの働く場所として、矢吹さんをはじめ、障害児を持つ父母によって創設されました。

当時、特別支援学級や特別支援学校に通う子どもたちが学校を卒業しても、区内には彼ら彼女らが働ける場所がほとんどありませんでした。矢吹さんも、自身の子どもの働き先に悩んでいたひとり。あるとき「自分たちで子どもの就労の場をつくろう」と有志を募って動き出します。

渋谷区で焼き菓子の製造販売を始めたというNPO法人〈おかし屋ぱれっと〉の記事をたまたま目にし、さっそく見学を申し込んだ矢吹さんたち。そこで見たのは、小さなオーブンで楽しそうにお菓子を焼く障害のあるメンバーの姿。そこに漂うお菓子のいい匂い。矢吹さんたち父母は〈おかし屋ぱれっと〉でボランティアとして働きながら、お菓子づくりのノウハウを学ばせてもらうことに。その1年後、〈おかしやぱれっとねりま〉として、練馬の地で、焼き菓子専門店をスタートすることになりました。

5人の父母と、3人の障害のあるメンバーから始まった、9坪ほどの小さな焼き菓子店は、時間をかけて地域にとけこみ、区内の特別支援学級や特別支援学校の卒業生を少しずつ受け入れていきます。1997年には〈かすたねっと〉として独立。3種類のクッキーから始まったお菓子も、パウンドケーキ、アップルパイ、マドレーヌ、カヌレなど、年を追うごとに種類が増えていきました。

左から、ほんのり甘酸っぱいザクザク食感の「レモン」、アールグレイの穏やかな香りときび砂糖のやさしい甘さに伸ばす手が止まらなくなる「紅茶サブレ」、クルミとキャラメルがまんべんなく敷き詰められた、食べごたえのある「クルミの森」

〈かすたねっと〉のお菓子づくりの基本姿勢は、「おいしい材料でつくる」こと。添加物は使用せず、できる限り新鮮で、おいしい、いい素材にこだわっています。そして、いつも変わらないおいしさは、メンバーが日々行うひたむきで正確な作業のたまもの。メンバーが楽しく、やりがいをもって、繰り返し、繰り返し、同じ作業を丁寧に続けるからこそ成せるまっすぐな味が〈かすたねっと〉の魅力です。

35年前に始まった障害児を持つ父母の小さな活動は、今や全国にファンを持つまでに成長しています。ですが、メンバーが生き生きと、自信をもってお菓子づくりに取り組める、働くよろこびにあふれた場所、という当時からの思いや精神は、なにひとつ変わっていません。〈かすたねっと〉のその普遍的な思いは、ささやかなエッセンスとしてお菓子に込められ、これからも多くの人に届いていくはずです。