福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

ばあばるば〈ランドリーボックス〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

多様な性のあり方が認知され始め、「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)」が広く語られるようになった昨今。体や性に関することを、わかりやすく、楽しく対話し合うために生まれたユニークなパペットをご紹介します。

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肩肘張らず、わかりやすく、楽しく。性について対話する、おばあちゃんとつくった“vulva”のパペット

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まるでペンギンみたいな形だけれど……これは一体なに?

あれ、これって、もしかして女性器……? それにしては色がずいぶんポップだけれど。デフォルメされた動物? いや、架空の生物にも見える……。

さまざまな考察を巡らせた方がいるかもしれません。今回のイッピンは、女性の外陰部(vulva)をモチーフにしたパペット「ばあばるば」です。

女性器と知って「一体なにに使うんだろう?」「どんな目的でつくられたの?」という疑問がふつふつと湧いてきます。なかには、動揺した方、抵抗感を抱いた方がいるかもしれません。はたまた、ポップな見た目に、よくわからないけどかわいい! と思った方もいるでしょうか。

さて、この「ばあばるば」が生まれた背景とは⁉

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偏見や思い込みを解放し、正しい知識で解きほぐす

自分で見てみようと思わなければ、目に触れることは殆どない女性の外陰部。さらに日本では、性や性器について公の場で話したり触れたりすることを「はしたない」とする風潮が、今なお少なからずあります。

一方で、近年は多様な性のあり方が認知され始め、「SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利)」といった人権・権利も広く語られるようになりました。

「ばあばるば」も、女性器について正しく知ることで、世にはびこる誤ったイメージや思い込みから開放され、自分の体は自分だけのものであること、さらに自分の体を知ることで相手の体も守りたくなる、そんな性に関する啓蒙を目指して制作されています。

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産婦人科医師にも意見をもらいながら、女性器を忠実に再現。大陰唇、小陰唇、膣口まで再現されており、女性器の構造がよくわかります

ところで、このパペットの配色について何か思う方もいるでしょうか。「外陰部はピンク色がいい」そんなイメージを持つ人もいるはずです。

しかし、それは世にまかり通った偏見であると、「ばあばるば」の企画・制作者であり、心身の悩みに寄り添うコミュニティプラットフォームを運営する〈ランドリーボックス〉の代表・西本美沙さんは言います。

「おそらくメディアやポルノなどの影響からそうした固定観念が生まれているんだと思います。実際に、自分の外陰部を見たらちょっと黒ずんでいて恥ずかしい、と自分の色に悩む人は多いんです。でも、正解の色なんてなくて、肌の色がみんな違うのと一緒。ホルモンバランスの関係で黒ずんだり、布で擦れて黒ずむことはあるものの、それは普通のことなんです」

色だけでなく、外陰部の形にも悩む人が多いという西本さん。だからこそ「ばあばるば」を通じて世の中にはびこる“理想の色や形”という思い込みも払拭できればと、あえて独特なカラーリングにし、手づくりから生まれる多少の形の違いも商品のひとつの特徴としています。

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そして、写真を見て気になっていた人もいるはず! このペンギンのような形の部分、じつは陰核(クリトリス)の全容です。体の表面から見える突起物はクリトリスの頭部分(陰核亀頭)だけ。さらにその下はこのような形状になっており、1万本以上の神経繊維が通っているのだとか。

ほかにも「そうだったんだ⁉」「知らなかった‼」がまだまだたくさんある女性器。ちょっと興味が湧いてきませんか?

「ばあばるば」は、おばあちゃんたちがつくっている⁉

生理、更年期、セクシャルウェルネスなど、女性のヘルスケアに関する情報を発信する〈ランドリーボックス〉の西本さんが「ばあばるば」の原型を制作したのは2022年。

「読者が集まるイベントで話をしたとき、女性のなかには外陰部がどこを指すのかわからない方や、抵抗感から自分の性器を見たことがない、という方が多くいたんです。そのため、言葉だけでは構造を理解するのが難しい方もいました。立体的に説明したくても、売られているのは男性用の性玩具だったり、人によっては受け入れがたく感じてしまうものも多くて。体の構造を理解するのに、抵抗感なく、楽しく話ができるアイテムがあればいいのに、そう思うことがありました」

調べてみると、欧米ではSRHR関連のカウンセラーが数多くおり、性に関する説明を手づくりのパペットで行うことも多いと知った西本さん。さっそくつくってみるべく、縫製をお願いしたのは、もと洋裁師をしていた西本さんのおばあちゃん。

工業用ミシンで丁寧に縫われたパペットは、イベント時に大活躍。伝わりやすさを実感したことや、こうしたツールがあることで、体や性についての対話がしやすくなり、正しい知識を伝えやすくなると感じた西本さんは、おばあちゃんたちと一緒に商品化を進めることに。ネーミングも“ばあば”とつくる“vulva”で「ばあばるば(Ba-Vulva)」となりました。

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現在は西本さんの実家がある大阪を中心に、おばあちゃんたちを含めた6名で「ばあばるば」の制作を担っています

「今でも一部の縫製を私のおばあちゃんが担っています。90代で物忘れが多くなって『これは何をつくってんねん?』とよく聞かれるんですね。そのたびに『おばあちゃんのソコについてるものやで』『……ほんまかいな⁉』って会話をエンドレスでしています(笑)。そんななかで、おばあちゃんの時代の生理や性のことを質問したりすると積極的に答えてくれて。学びの多い時間になっています」

さらにその話を横で聞いているのが、西本さんのお母さんと叔母さん。「私たちにはそんな話してくれへんかったやんか」と、興味深そうに聞いていたのが印象的だったといいます。

「親子間だと話しづらいことも、祖母と孫の関係だと『答えてあげたい』と思うようです。そんな経験から、『ばあばるば』がいろんな世代の方との対話のきっかけになればと思っていて。先輩たちの数々の経験に触れることは、私たち自身を生きやすくするきっかけになるんじゃないかと思うんです」

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「ばあばるば」の裏面

「あなたの体は、あなただけに決定権がある」

クリニック、大学、性教育者、消費財メーカー(注)など、さまざまな機関や企業から問合せや注文があるという「ばあばるば」。ゆくゆくは子どもの性教育の現場をはじめ、一般家庭などにも置いてもらえたら、と考えているのだとか。

近年の日本では、子どもへの性教育の必要性が語られ、子どもに読み聞かせる絵本、漫画、小説、性教育ツールも展開されています。

「ユネスコやWHOなどの国際機関が提供する指針『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』でも、性器に関心を持ち始める5歳くらいから、発達段階にあわせた性教育を行ったほうがいいと言われています。スウェーデンやオランダでは、小学校低学年の教科書に性に関するイラストが挿入されていたり、性器の解剖図を描く宿題を出す授業もあると聞きます。そんななかで、みんなそれぞれに違いがあることに気づく機会になるようです。また、バスタイムにプライベートゾーンの話をする家庭も多いみたいですね」

日本でも今後、子どもへの性教育はさまざまに発展し、展開されていくはず。そうした場でも活用できるツールとして、より手に取りやすいものや、伝え方や活用方法などもセットにして届けていきたいと西本さんはいいます。

「多くの方に商品を手にとってもらいたい気持ちはもちろんありますが、その大前提として、あなたの体はあなたのもので、あなた自身に決定権があること。そして、その権利は誰からも侵害されることなく、大切にされるべきものだということを伝えていきたいです。『ばあばるば』を介した対話のなかで、体や性に関する正しい知識や権利を知っていくことは、結果的に自分自身を大切にすることや、ケアにつながっていくと考えています」

(注)食品、飲料、トイレタリー(洗剤やシャンプーなど)、化粧品、衛生用品など、日常生活で消費される製品を開発・製造・販売する企業のこと。

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今後、現在のカラーのほか、紫ベース、緑ベースの3カラー展開になる予定!

現在展開されている「ばあばるば」は外陰部のみですが、近々“子宮”や“陰茎(ペニス)”の展開も予定されています。それぞれのパーツを使いながら、生理の仕組みや、セックスにかかわることなど、肩肘張らず、わかりやすく、そして楽しく、さまざまな世代と対話できるアイテムにできれば、と西本さん。

〈ランドリーボックス〉の公式サイトやSNSでは、あまり知られていない性に関する情報や、国内外のさまざまな専門家へのインタビュー、最新情報などが親しみやすく発信されています。ぜひチェックしてみてください!