
“ケアするしごと”の若手たちは何を大切にしている? 社会福祉HERO’Sイベントレポート ケアするしごと、はじめの一歩 vol.7
Sponsored by 厚生労働省補助事業 令和7年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)
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私の祖母は生前、介護付有料老人ホームで暮らしていた。
そこでは、祖母が快適に暮らせるようにさまざまなことを工夫してくれていたのだという。例えば、ベッドから起き上がるときにふらつくようになると、祖母の身体の負担を考え、どのように環境を整えていけばいいかアイデアを出してくれた。それ以外にも、曾孫の顔と名前を覚えて、写真を見ながら一緒に楽しんでくれたり、気に入っている洋服を覚えていてくれたのも嬉しかったと母は話す。
「おばあちゃんが何を話しているのか家族がわからなくなっても、施設の職員さんは言っていることや伝えたいことを理解してくれていたのよ」。そう話す母は、祖母の暮らしていた場所から新幹線を使って3〜4時間かかる距離に住んでいる。母がたまに祖母を訪ねながらも、安心して自分の生活を続けられたのも、祖母が最晩年まで自分らしく生きることができていたのも、“ケアするしごと”を行う人たちがいてくれたからなのだと感じる。
ケアするしごとに携わる人たちは、何を思い、どんなことを大切にして働いているのだろう。そんなことを知ることができるイベント「社会福祉HERO’S」が、2026年1月28日(水)に東京・渋谷の渋谷ストリームホールとオンライン配信のハイブリッド形式で開催された。
全国社会福祉法人経営者協議会の主催で、第8回目の実施となる本イベントは、社会福祉の現場で、さまざまな挑戦をしている若手スタッフの声や福祉の魅力を伝えるイベントだ。選考を経て、ファイナリストに選ばれた若手6人が、福祉の仕事の魅力をプレゼンする。特別審査員と学生審査員による投票、SNSの反響による事前審査が行われ、「ベストヒーロー賞」が1名選ばれる。
児童福祉、障害福祉、高齢者福祉、さまざまな福祉の分野に携わる人が登壇し、自身の挑戦や考え方を語ってくれたこのイベント。ケアするしごとに携わる人たちが、なぜこの仕事を選び、日々どのように仕事と向き合っているのか。プレゼンテーションから見えてきた、ケアするしごとに携わる人たちが大切にしていることをお届けしたい。
子どもたちのひらめきを、地域資源とつなげて実現
最初の登壇者は、兵庫県明石市の幼保連携型認定こども園「和坂こども園」(社会福祉法人和坂福祉会)に保育教諭として務める、佐藤涼(さとう・りょう)さん。
中学3年生の頃、テレビドラマに登場した「子どもの笑顔のために全力になれる先生」に憧れて、保育士を志した。ところが実際に保育士になってみると、先輩保育者の機嫌を伺う日々で、思いと行動が伴わないことに葛藤していたという。
ちょうどその頃保育業界で提唱され始めた「こどもの主体性を尊重する保育」。これに取り組んでみようと和坂こども園で働き始めてから、佐藤さんの挑戦が始まる。
例えば子どもに「サーカスがやりたい」と言われたら、佐藤さんはまずは本物のサーカスへ連れていこうと考える。園長・保護者への説明、人員や移動手段の確保など、一つひとつ課題を解決して、クラス全員を本物のサーカスへ連れていった。さらにサーカスを見て終えるのではなく、子どもたちと一緒に手作りサーカスを準備し、保護者に披露する。
「広島焼きってなんなん?」と問う子どもがいたら、地域のお好み焼き屋の店主の協力のもと、広島焼き体験を行う。「先生、釣りしてみたい」という子どもの声には、釣具店と協力して、釣りのイベントを開催することで応える。そうして、子どもの言葉を起点に、地域とつながりながらリアルな体験を実現していっているのだ。
佐藤さんのプレゼンで印象的だった言葉は、「保育者は子どもと社会をつなぐ重要な存在」ということ。「保育士」と聞くと、保育園の中で子どもの世話をする仕事という印象だが、保育園の外へ飛び出して、地域社会で子どもを育てる架け橋になることができるというのは、新しい視点に感じられた。
「保育はクリエイティブで面白くて、地域や未来も変えられる仕事」と言葉に力を込めた佐藤さん。その表情からは、ケアする仕事のやり方を自ら開拓していく姿勢を感じた。
警察官を経て、福祉のしごとへ。障害のある人たちの働くをサポートする
2人目の登壇者は、神奈川県横浜市の地域活動支援センター「ぱんぱかパン」(社会福祉法人横浜共生会)で生活支援員をしている藤原卓(ふじはら・たく)さん。
「福祉の仕事が大好きです」とスピーチの冒頭に、明るく宣言した藤原さん。そんな藤原さんの経歴はちょっとユニーク。IT企業の営業職や警察官を経て、障害のある人の移動をサポートする仕事に携わる。その時に、誰かの人生に寄り添い、喜びを共有でき、感謝される。「福祉の仕事こそ、やりたかった仕事だ!」と思うようになり、横浜共生会へ入職。障害のある人とともにパンづくりを行う「ぱんぱかパン」で働き始める。
藤原さんは現在、利用者が働きやすい環境づくりをしているという。例えば、「声が大きくて迷惑!」と他の方に言われたことを気にしていた方へは「あなたの声はすてきだからそのままで大丈夫。他のみんなには伝えておくね」と声をかける。その結果その方は「いらっしゃいませ!」と元気な声で接客するようになり自信を取り戻し、「藤原さん、あのとき背中を押してくれてありがとうございます」と笑顔で話してくれるようになった。
その他にも、パン屋で働くことが子どもの頃からの夢だった方、発話が難しくても関わるうちに表情で伝えてくれるようになった方。一人ひとりのエピソードを紹介しながら、「温かい言葉や思いがあふれるのは、福祉の職場ならではなのではないか」と話す藤原さん。利用者一人ひとりの背景や感じていることを想像しながら、前向きな気持ちで仕事に取り組めるように寄り添う姿が感じられた。
藤原さんの言葉で心に残っているのは「福祉の仕事は誰かをしあわせにする仕事ではなく、自分自身も共にしあわせにする仕事なのだ」ということ。さまざまな経験や利用者との関わり方を聞いた後に再び聞く「僕はこの仕事が大好きです!」という言葉に、私も共感しながらうなづいた。
不安もニコニコも連鎖するから。笑顔の輪を広げる
3人目の登壇者は、埼玉県幸手市にある障害者支援施設「あやめ寮」(社会福祉法人平野の里)で主任生活支援員として働く青山美咲(あおやま・みさき)さん。バンドの追っかけをしていた頃のファン仲間に、知的障害と精神障害がある方がいて、一緒に過ごしていたことが原点となり、障害福祉の分野への就職を志した。
現在は、障害のある人が安心して自分らしく暮らすための施設でリーダー職として働いている。リーダー職になった当初は、余裕がなくなりトラブルが増えたことがあったそう。そんなとき、青山さんの様子を近くで見ていた利用者が「ちゃんと休んでる?」と気にかけてくれた。この出来事をきっかけに、不安な気持ちは連鎖すること、同時に、“ニコニコ”も連鎖することに青山さんは気づく。
そんな青山さんが大切にしているのは、行動だけではなくその背景にある気持ちを考えること。落ち着かない環境だと大きな声で歌い出してしまう利用者へは、「歌うのをやめましょう」というのではなく「何を歌っているんですか?」と声をかける。そうすると、話しかけたことに耳を傾け、返事をしてくれるそう。こうした相手の背景にある気持ちを想像する支援を繰り返すことで、青山さんは利用者との信頼関係を深めてきた。
青山さんのプレゼンで特に印象的だったのは「“ニコニコの素”を貯金する」という言葉。これは、その人の好きなことやこだわり、嫌いなこと、ふとしたときの会話などを、自分の中に蓄えておくことを指すのだそう。
例えば不安が強くなっている人や困っている人がいたときに、こうした「ニコニコの素」を取り出すことで、その人が笑顔になるきっかけを生み出すことができるという。またこのニコニコの素は、笑顔が生まれたり関係が深まったりするだけでなく、その人の暮らしそのものを支えることにもつながるのだとか。
「笑顔の輪で世の中を変える、そのきっかけをつくる人でありたい」。最後まで穏やかな笑顔で語ってくれた青山さん。目の前の行動だけでなく、その人がこれまで生きてきた時間も想像するような関わり方によって、信頼関係を積み重ねているのだと感じられた。
一人ひとりのやりたいこと、得意なことから仕事をつくり出す
続いての登壇者は、長崎県長与町にある就労継続支援B型事業所「GOOOOD KAGAYAKI」(社会福祉法人ながよ光彩会)で、社会福祉事業や公益事業のマネージャーとして働く光岡勇祐(みつおか・ゆうすけ)さん。不動産開発会社を経て一度起業を経験している光岡さん。しかし、経営者として無理をしている自分に気づき、生きる目的を見失っていたという。
光岡さんの転機は、仕事先の長崎で訪れた。不登校の高校生と出会い、関わる中で、彼が前向きになっていく姿を目の当たりにする。高校生からの「出会ってくれて、ありがとう」という言葉に救われた光岡さんは、教育や福祉の分野に舵を切るようになった。
現在の光岡さんがモットーとしているのは、「誰一人取り残さない」ということ。障害福祉現場で働くことにおける2つの課題「安い価格で取引され、賃金も安いこと」「作業内容が施設側の都合で決められていること」を解決しようと日々取り組んでいる。
そのため、光岡さんは、人を起点に仕事をつくり出すことをしている。例えば、裁縫が得意という方には、着物を法被に仕立て直すことや帽子の修繕、オーダーメイドバッグの開発などを依頼し、得意を仕事につなげることを実現した。洗車が好きな方のためには、高齢者施設職員の車の洗車サービスを立ち上げる。「誕生日が近づくと何も変わっていない自分が嫌になる」と話していた方には、彼女の話し上手な一面をいかして、法人が運営するカフェで働いてもらう。結果「去年よりもできることが増えた」と話してくれるようになった。
光岡さんが働く事業所のコンセプトは「得意を伸ばして、いかしあう」こと。「ひとりひとりのやりたいこと、得意なことを起点として仕事をつくり、“誰一人取り残さない”障害福祉を実現したい」。落ち着いた言葉の中にも熱を込めながらそう語ってくれた光岡さん。一人ひとりのやりたいことや得意から仕事をつくり出すあり方には、これからの福祉の仕事のヒントがあるように感じた。
その人らしく生きることをサポートする「日本式介護」を、世界へ広げる
5人目の登壇者は、愛知県清須市の特別養護老人ホーム「ペガサス春日」(社会福祉法人西春日井福祉会)に勤務するラマ・サビナさん。ネパールで看護師として働いた後、ネパール人初の介護技能実習生として2019年に来日した。
日本で働き始めた当初は、仕事で悩んでも上司や同僚に相談することができなかったというラマさん。利用者に相談すると、「よく頑張ってるね」と言って一緒に泣いてくれたこともあったそう。そこで気づいたのは、「本当の気持ちを伝えることで信頼してもらえる、お互いの思いが伝わると良いケアができる」ということ。それから少しずつ利用者から信頼してもらえるようになり、仕事が楽しくなっていったと話す。
ラマさんのプレゼンで知ることができたのは他の国にはない、「日本式介護」というものがあること。ラマさんが考える日本式介護とは、「人生の最後までその人がその人らしく生きることができるようにサポートすること」だそう。
例えばラマさんの場合は、話をする中で編み物が好きだとわかった利用者には、作りたいものや毛糸の色などを一緒に選んで、編み物をする時間をつくった。また、移動するのに車椅子が必要なのに、自力で立ち上がろうとする利用者には、その気持ちを尊重して歩く時間をとるようにした。結果、今ではひとりで歩けるようになったという。
実はネパールでは、子が親の面倒をみるのが当たり前のため、介護施設はない。しかし、海外や遠方で働く人も増え、これから介護施設が必要になることが想定されるそう。利用者に寄り添い、その人を尊重するような介護をこれからも続け、世界に発信していきたいとラマさんは結んだ。
私たちが当たり前に受け取ってきた日本の介護を、外から見る視点がとても新鮮で、これからのラマさんの活躍にも期待が膨らんだ。
効率を求めるやり方から、利用者に本気で向き合う介護へ
最後は、鳥取県米子市の特別養護老人ホーム「博愛苑」(社会福祉法人博愛会)で介護職員として勤務する明正航太朗(みょうしょう・こうたろう)さん。明正さんのスピーチは、自身のモットーから始まった。「一人でも多くの人に笑っていてほしい」。小学校2年生のときに亡くなったお父さんの笑顔を覚えていないことへの後悔から、周りの人に笑顔でいてほしいと思うようになったのだそう。
しかしそんな明正さんも介護職員になった当初は、周りについていけないことに焦り、効率よく対応することばかりを考えるようになっていたという。おむつを履いている方に「トイレに行きたい」と言われたけれど、効率を求めるあまり対応できずにいた。そんな自身の行動を省みて、「利用者に本気で向き合う介護、一人でも多くの人を笑顔にする介護をしよう」と思い直す。
次に同じ利用者に「トイレに行きたい」と声をかけられると、先輩職員と二人でトイレへ連れていく。「助かりました」と笑いかけてもらえたことで、やりたい介護をやってもいいのかもしれないと思えるようになったそう。それからは、「さびしい、誰かと話したい」という利用者とはたっぷり時間をかけて話すようになる。また、仲間の職員と協力して、車椅子ユーザーである利用者を、思い出の山へ連れていった。
そんな明正さんは、上司のすすめで、介護技能を審査されるコンテストの「入浴」部門に出場。普段通りの丁寧な声掛けをしたために、制限時間をオーバーしてしまったが、優秀賞を受賞する。この受賞も、利用者一人ひとりに本気で向き合って、一人でも多くの人を笑顔にする介護は間違っていなかったのだという自信につながる。「幸せな笑顔があふれる介護の仕事を、これからも続けていきたい」と締めくくった。
理想を描きながら働き始めたものの、目の前の仕事の忙しさに、当初の理想を見失ってしまうことは、多くの人にあることなのではないだろうか。環境を変えなくても、自身の心の持ち方を変え、仲間を巻き込むことで、理想とする働き方は叶えられるのだと勇気をもらえるプレゼンだった。
特別審査員と学生審査員の両者から評価された、ベストヒーロー賞
6人のプレゼンテーションが終わった後、投票が行われ、ベストヒーロー賞は、西春日井福祉会のラマ・サビナさんが受賞した。特別審査員から1位、学生審査員から2位と、専門家と学生双方から高い評価を受けての受賞となった。ラマさんは、「緊張したけれど思いを伝えることができた。これからも利用者さんに寄り添った日本式介護の魅力とやりがいを世界中の人々に伝えていきたい」と笑顔でコメントした。
福祉の分野で挑戦する若手6人のプレゼンテーションから、ケアするしごとを担う人たちが、何を大切にし、どのような実践を行っているのかを知ることができた今回のイベント。福祉の仕事は誰かをサポートする仕事というイメージがあるが、相手に応答しながらも、地域や誰かを巻き込み、その思いを形にしていくことができる。その仕事のダイナミックさやクリエイティブさも感じることができた。
また、6人の福祉の分野や、具体的なアクションは異なるけれど、相手の主体性を大事にすることや、関わる人の背景を想像することなど、いくつか共通して大切にしていることもあったように思う。
「社会福祉HERO’S」の「ヒーロー」は、私が子どもの頃テレビで見た「〇〇マン」のような、特別な強い力で相手を制圧する存在とはかけ離れている。でも、誰かに寄り添い、その人や、その人の家族がしあわせに生きていくことを支える人々は、間違いなくほんもののヒーローだと感じた。
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マガジンハウスの3メディアで「ケアするしごと」を特集!
〈こここ〉では連載「“自分らしく生きる”を支えるしごとー介護の世界をたずねてー」 や「ケアするしごと、はじめの一歩」を通して、さまざまな「ケアするしごと」を取り上げています。また、〈anan web〉や〈POPEYE web〉でもさまざまな記事を公開中! ぜひご覧ください。
【anan web】
・山崎怜奈さん、介護のしごとを初体験! 子どもと高齢者がともに過ごす「深川えんみち」へ
・移住して実現! 鞆の浦で“自分らしい介護”を届ける24歳の物語
・介護の仕事も自分らしく! 東京・三鷹で働く三者三様の働き方ケーススタディ
【POPEYE web】
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- ライター:福井尚子
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アート、表現、書籍、暮らし、食、教育などに興味関心を広げながら、執筆や編集をしています。神奈川県二宮町を拠点に、本を紹介する活動や絵本を用いた語り劇がライフワークです。
この記事の連載Series
連載:ケアするしごと、はじめの一歩
vol. 62025.12.26自分の暮らしと「介護のしごと」はつながっている? “わたしの暮らし”をノックすることば展レポート
vol. 052025.03.13ケアの現場へ小旅行? ケアするしごとツアーレポート
vol. 042025.03.12お酒を片手に“ケアする仕事”に携わるゲストとおしゃべり。ケアするしごとバー2025開催レポート
vol. 032025.03.03動画から知る「介護のしごと」
vol. 022025.02.27自分や自分が大切な人にとっての「幸せ」ってなんだろう? 小学生の登場人物たちと考える冊子紹介
vol. 012025.01.15ケアするしごとは、想像以上にひらかれている? ケアするしごと展2024レポート







