

パッサパサの唄声ってどんな声だろう。生活から生まれた詩(うた)、投稿作品発表!【後編】 ムラキングとみんなの詩(うた) vol.06-2
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「ムラキングとみんなの詩(うた)」は、「生活から生まれた切実な詩」を読者のみなさんから募集して紹介する読者投稿型連載。妄想恋愛詩人・ムラキングと〈こここ〉編集部による企画連載です(※)。
今回も、寄せられた作品を眺め味わいながら、その人が送っている日常の手触りや、誰かにとっての切実で大切なことを想像して、ラジオ番組のようにあれこれとおしゃべりしていきます。
後編記事の最後に、次回の作品募集も掲載していますので、ぜひふるってご参加ください!
※日常の切実な気持ちを言葉にしてきた妄想恋愛詩人ムラキングと、その活動に伴走する水越さんを、〈こここ〉編集部メンバーが訪ねていく連載「ポロリとひとこと」から続く企画です。
登場人物紹介

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妄想恋愛詩人ムラキング:1981年生まれ。高校生時代から詩を書きはじめ、即興で詩を書くのが得意。認定NPO法人クリエイティブサポートレッツを利用している。
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水越雅人:認定NPO法人クリエイティブサポートレッツのスタッフ。同い年のムラキングと出会って10年になる。
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中田一会:こここ編集長。ダジャレみたいなコピーライティングが得意。今年の目標はよく眠ること。
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岩中可南子:こここ編集部メンバー。東京の下町暮らし。今年の目標は休肝日をつくること。
第5回の募集テーマは「ねごと」「コンセント」「パッサパサ」。今回はなんと50もの作品が寄せられ、メンバーもおおわらわ。応募いただいた作品のなかから、印象深かった作品を前編・後編の二本立てでご紹介します。
前編はこちら:「近くだから見えないもの、聞こえないものがある。生活から生まれた詩(うた)、投稿作品発表!」

「ここからは『パッサパサ』を中心に、編集部へ寄せられた詩を見ていきましょう。そういえば、『パッサパサ』から散髪を連想してくれたユニークな作者の方がいましたね」
毎日がファーストクラス(タカハシケンタさんの詩)
9作目はタカハシケンタさんの詩。テーマは「パッサパサ」です。
「仮初の自分と髪染めの僕」
朝目覚めてまず目に映るのは無機質なLEDの輝きが思考が半覚醒の自分に降り注ぎ、それとともに鳴り響く
上半身を起き上がらせるモーター音僕は春風に全身を覆われながら長座状態で洗面の鑑を見つめ僕は心中に『そうだ!髪を切ろう。』という言葉が思い浮かんだ。
しかし僕のスタイリストは愛用の枕なので個の逡巡をし自問自答の自己決定を行い改めて結論を思考の奥で決定す。
身支度を整え花粉が舞う、パッサパサの髪に引っ付きながら、薄日の天気の十字路を相棒と、ともに渡り。
行きつけの理髪店に向かう。
僕の髪を切る席は、いつもの自車の車いすだから毎日がファーストクラスだ。地毛と染めた部分の髪がまばらに
店内の鏡に映り今日も、また染めようと決意するのだった。でも僕はここで思う、どうして僕は髪を染めるのだろう!。
それは自分を美化するため、それとも、ええカッコ良くするため、いや違う、これは生活圏内が狭いマイノリティーでも
好きなヘアースタイルは、変えられると言うパンクな心境を深層心理に描きながらカリスマ店員のカッティングを待つ自分、
店員がハサミを入れるチョキ、チョキ、チョッキン小気味良く進む断髪のリズムが僕の鼓動のメトロノームを早め体幹を揺らしつつも、ベストなタイミングでセッションしてくれるヘアーアーティスト2人のイメージがカミあった時そこに意見の遠慮の綱引きのようなものはなくなり
対等な時間が流れる『カスハラなど気にしない社会が僕は好きだ!!!』
そんなミリ対位の心の交流が社会を安定させるとヘアアイロンを当てながら夢うつつに思いにふける僕

「『仮初の自分と髪染めの僕』、韻を踏んでいるタイトル、いいですね!」

「かっこいいなあ。タカハシケンタさんが車椅子ユーザーだということが作品の途中でわかるんですけど『上半身を起き上がらせるモーター音』とか『スタイリストは僕の愛用の枕なので』っていう表現がおしゃれ!」

「ね。最初はどういうこと!? って思ったんですけど、寝癖ってことなんですよね」

「『自問自答の自己決定』って少しシニカルな表現があったり、『毎日がファーストクラスだ』ってなるほどと思う視点があったり、面白いですね」

「かっこいいなあ、なんだか」

「ここの『カスハラなど気にしない社会が僕は好きだ!!!』の部分、どういう想いが込められているんでしょうね」

「まず、作者の方が『どんな髪型にでもしてくれ』って思っているなら、カスハラは起きないはずですよね……あれ、逆なのか!? 」

「あ、でもご本人からのコメントを読むとちょっとわかるかも。『私はこの「パッサパサ」というテーマを聞いた時、自分が理髪店で美容師さんが髪を切る音に聞こえて最初は遠慮と言うフィルターがは掛かる為店員さんにニーズを上手く伝えられないけど短時間の間に利用者と店員で「パッサパサ」と目的に髪型に向かうという行動が対等に物事が進んでいるなっと思えてこの詩を書きました』だそうです。美容師さんに自分の要望を気兼ねなく言えるようになる、という話題で出てきた言葉みたいですね」

「詩のなかでは饒舌に言葉を重ねているけど、実際は遠慮して心のなかでいろいろ語りながら、なのかな。『最後にミリ単位の心の交流が』って書かれているから。実際はささやかな髪を切る/切られるの関係なのに、自身の頭のなかでは矢継ぎ早なラップみたいな言葉が流れているような、なんだか音楽的な感じがしてかっこいいですね」

「ですねえ」

「ねぇ、いいですね」

「口に出して読みたい感じがしますね」
なんだか楽しくなってきた!(emi.kさんの詩)
10作目はemi.kさんの詩。テーマは「パッサパサ」です。
「パッサパサ」
お肌も心もパッサパサ
指先パッサパサで
つかめない
いつからこんなにパッサパサ?
あの頃はパッサパサじゃなかったはず
こまめにお手入れ 必要パッサパサ
ズボラなあたしはパッサパサ
パッサパサってリズム感ない?
歌もできそなパッサパサリズム
お肌も心もパッサパサだけど
なんだか楽しくなってきた!
パッサパサでひともうけ?
パッサパサっていう生き物いそう
パッサパサもしかして流行る?
外は雪で寒いけど
パッサパサリズムでおどろうよ!


「絵本に載っていそうなリズム感がいいですね、読んでいて楽しい!」

「emi.kさんからのコメントをご紹介すると『寒くて雪片づけに追われる毎日。外に出るのもままならない中で、楽しくなるような詩を読んで欲しくて書きました』。そうかあ、雪の中なんだ。お家が」

「生活に切実ですね」

「楽しい感じの切実さですね。『パッサパサでひともうけ』ってなんでしょう」

「化粧品かな。潤い系?」

「潤い系のひともうけ!(笑)。作者の方は『パッサパサ』って言葉を気に入ってくれた感じがしますね」

「みんなすごいですね。この詩もそうですけど、先の見えていない『パッサパサ』と向き合って作品を作っているんだなって」

「先の見えていないパッサパサ……?」
人は水分量で他人を判断したりしないけど(SAWAさんの詩)
11作目はSAWAさんの詩。テーマは「パッサパサ」です。
「パッサパサ」
野菜が乾いて パッサパサ
乾燥ひどくて 髪 パッサパサ
乾燥ひどくて 肌 パッサパサ


「SAWAさんの詩も乾燥がすごいですね」

「みなさん、やっぱりパッサパサって気になりますか?」

「潤いがあるほうがいいとされている『潤い中心主義』の世の中において、パッサパサは価値が低いものになっている……」

「それは他人に対してですか、自分に対してですか」

「人を見るときにその人がパッサパサかどうかで見ているかな……? どうかな、そんなに人は水分量で他人を判断したりはしないと思いますけど」

「食べ物におけるパッサパサは美味しくないとは思いますけどね」

「この詩の切実さは、その視点をどこに置くかによって変わるような気がしていて」

「確かに。パッサパサの対義語は『瑞々しい』ですかね? 水分量が関係していますよね」

「豊かな、潤いのある生活。水って人間が生きるうえで必要なものだから余計に、そういうイメージがあると思うんですけど」

「じゃあ、お化粧でマットな仕上がりにするメーク道具はどうしてつかうんでしょう」

「ああ、ファンデーションとかアイカラーにありますね」

「あれは油分を抑えるために使う人もいるんじゃないかな」

「『パッサパサ』ではなく『テッカテカ』を抑えるためなんですね」

「そう『ツッヤツヤ』と『テッカテカ』は価値が違って。『ベッタベタ』はだめだし」

「水はいいけど、油はちょっと、なんですね」

「水分と油分の加減は、生き物としての状態を表すひとつの指標でもあるのかもですね。肥沃な大地ってほどよい水分があるし、乾燥していたら生命も絶たれ実りも得られない……もしかして人類は『パッサパサ』に対して危機感を抱いているのでしょうか」

「僕、一日に水を2リットルくらい飲むんですけど、飲みすぎると気持ち悪くなりますよ。ちょっと身体が震えてくる。だから適度がいいんですよね」

「あ、それはきっと水中毒ですよ。なるほどね、だから『ビッチャビチャ』も『ギットギト』もだめなんだ。ではなぜ人は潤いを求めるのでしょうね……。さて、王道なパッサパサの詩を読んだので、次はパッサパサが意外な使われ方をしている詩を探してみましょうか」

「あ、じゃあ私の好きな詩を発表してもいいですか。のぶ子さんという方の作品なんですけど」

「いいですね。のぶ子さんの詩、全部好きでした」
すごく、大好きな人が、巡りました(のぶ子さんの詩)
12作目はのぶ子さんの詩。「パッサパサ」「コンセント」「ねごと」のテーマでそれぞれ作品を寄せてもらいました。
パッサパサの、
唄声で、
うたうよ。
カラオケで。
のぶ子


「おお……味わいがありますね」

「パッサパサなのに『すごく』大声で歌っているんだ。でも、そこに嫌な感じもしないし、読点がリズムを作ってて、いいですね。情景が浮かんで『詩だなあ』って」

「丸みのある筆跡と、書かれた内容のギャップにぐっときますね。これまでパッサパサの詩は、パンや髪の毛や肌が多いなか、唄声というフレーズがなんだか新鮮でした。しかも『歌』じゃなくて『唄』だから、この男性はけっこうカラオケに行っている人なんじゃないかな。いろいろな妄想をかきたてられますね」

「ハスキーボイスなのか、喉がガラガラな感じなのか。それにどんな唄を歌うんだろう」

「くちへんに貝はけっこうな『唄』ですよね。この場合の『パッサパサの唄声』は、味わいになりそうな感じがして、聞いてみたい」

「のぶ子さんの別の詩で、コンセントが題材のものも、好きなんですよね」
ドラえもんも、
コンセントで、
生きるよ。
のぶ子


「私もこれ好きでした。いいですよねえ」

「左下のコメントに『ドラえもんは、マンがで、見て、ドラえもんが、コンセントを、つないで、いたよ。びっくりしたよ』と添えてあって『そうだろうなあ……!』って」

「ドラえもんですらコンセントで生きるんだって思うと元気が出ますよね」

「こっちのねごとの詩もいいですよ」
大好きな人の、
名前を、
呼ぶ
ねごとよ。
のぶ子


「パッサパサが題材の詩には他の人のことを書いていますが、こっちの詩ではのぶ子さん自身のことを書いてくれています。もしかして、パッサパサの唄声で歌っている男性のことをのぶ子さんは好きで、ねごとにしているのかな。ううん、妄想スイッチが」

「んん、どうかなあ」

「そうかそうか。パッサパサの詩から、このねごとの詩につながっているのかなあ。いいなあ。自分のなかに溜めこんでいたものを詩にしたから、こういう感じになったのかな」

「ムラキングさん、盛り上がってる」

「もしかしたらそうなのかも。ムラキングさんのなかではそうなったっていうストーリーも含めて、いろいろな味わいかたがありますね」

「コメントが『のんちゃんの、こころの中が、すごく、大好きな人が、巡りました。とても、やさしいよ。』とあって、すごくいい表現だなあって。こころの中に大好きな人がわあっといっぱい入っている感じというか」

「それが素直にねごとに出るという循環なのだとしたら、そのような心持ちが潤いのうえでは必要ですね」

「ああ、これは潤ってますね、こころが!」

「『パッサパサ』でも『ギットギト』でもない、ほどよい潤いですね、これが」

「のんちゃんじゃなくて『のぶ子』って名前で直球に送ってくださって、そことのギヤップにもグッときますね」

「そしてどの詩も妄想をかきたてられるという」
あなたの切実な詩(うた)、ぜひお寄せください!

「今回は打ち文字だけじゃなくて、書き文字やイラストを交えての応募も多くて嬉しかったですね。〈こここ〉のたずね先である福祉施設からも多数応募があって、輪が広がってきていますね」

「今回50作品も応募が来ましたが、ムラキングいかがでしたか」

「本当に人それぞれだったなあと思います。誰かと一緒に詩を書くことはもちろんいいと思うんですけど、その人らしさを大切にした作品が、これからもたくさん来てほしいですね」

「このコーナーはコンテストとは違って、詩をつくって送ってみる、それが楽しめる場所だと思うので、福祉施設からの応募であれば、支援スタッフや周辺にいる人と『私、実はこう思っているんだよね』と普段伝えないようなことを話すきっかけに、詩をつくることがなっていたらいいですよね」

「そうですね。記事に掲載できる作品数は限られてしまうんですが、応募いただいた作品はすべてみんなで楽しく目を通しています。私たちも『詩を起点に生活について一緒に話したり考えたりする投稿コーナー』のような感覚でこの企画を進めています。この機会に、例えばいつもそばにいる人が『ああ、この人のこの言葉は詩なんだな』って気付いて送ってくれるようなことも起こったら嬉しいです」

「確かにご自身で文字を書けなかったり、テキストを入力できない人も、支援スタッフから『それ、面白いから詩にしてみようよ』って声をかけられて、寄せられた作品もあるんじゃないかと思います。それもある意味、スタッフさんとのコラボ作品でもあるってことですもんね。誰かがいるから、外に出る表現というのもあって、面白いですね」

「今回は福祉施設の職員さんが利用者さんの代理で応募してくださる作品も多かったので、こんな総括になりましたが、もちろんどういう状況にあるかた、どなたからの作品でも応募OKです。お待ちしております。『どんなかたちでもあなたが詩だと思うものを』と呼びかけているので、次はどんな表現に出会えるのかなと楽しみにしています!」
詩の森を探検するように、会話を重ねた第6回『ムラキングとみんなの詩』。今回〈こここ〉上でご紹介した作品の作者にはささやかですが記念品をお届けします。
誰にも話したことのないような、身近な人も聞いたことのないような、その人にとって切実なこと。紙とペンを用意して、言葉を書き留めるところから、絵を描いてみるところから、そのコミュニケーションの中心で思わぬ詩が生まれるかもしれません。ぜひあなたも詩を書いてみませんか。
次回テーマは「スケボー」「ゲリラ豪雨」「ベトベト」です。
次はどんな“生活上の切実さ”に出会えるのか、連載メンバー一同、とても楽しみにしております。みなさま、ぜひふるってご応募ください。
募集についての詳細はこちら

Profile
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- ライター:遠藤ジョバンニ
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1991年生まれ、ライター・エッセイスト。大学卒業後、社会福祉法人で支援員として勤務。その後、編集プロダクションのライター・業界新聞記者(農業)・企業広報職を経てフリーランスへ。好きな言葉は「いい塩梅」、最近気になっているテーマは「農福連携」。埼玉県在住。知的障害のある弟とともに育った「きょうだい児」でもある。
この記事の連載Series
連載:ムラキングとみんなの詩(うた)
vol. 072025.06.06【作品募集】ムラキングとみんなの詩|テーマは「スケボー」「ゲリラ豪雨」「ベトベト」(7月14日締切)
vol. 062025.06.06近くだから見えないもの、聞こえないものがある。生活から生まれた詩(うた)、投稿作品発表! 【前編】
vol. 052024.12.04"駅ビルに憧れた私"という私。「駅ビル」「豆腐」「勘違い」をテーマにした詩(うた)、投稿作品発表!
vol. 042024.07.182時間スペシャルって、ちょっと複雑。生活から生まれた詩(うた)、投稿作品発表! 〜次回募集テーマは「駅ビル」「豆腐」「勘違い」
vol. 032024.02.22“切実に生きる”方法はみんな違う。生活から生まれた詩、応募作品発表! 〜次回テーマは「失敗」「目玉焼き」「2時間スペシャル」
vol. 022023.10.12「生活からうまれた切実な言葉を詩として届けてください」第1回作品発表! 次回は11月24日〆切です。
vol. 012023.08.09【作品募集】“生活からうまれた切実な詩”を募集。 テーマは「ど忘れ」「遮光カーテン」「前の席と後ろの席」(〆切:9月8日)