「生活からうまれた切実な言葉を詩として届けてください」第1回作品発表! 次回は11月24日〆切です。 ムラキングとみんなの詩(うた) vol.02
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第1回テーマに寄せられた4作品を紹介
妄想恋愛詩人・ムラキングと〈こここ〉編集部による、読者投稿型連載「ムラキングとみんなの詩(うた)」がはじまります。日常の切実な気持ちを言葉にしてきたムラキングと、その活動に伴走する水越さん。そこへ〈こここ〉編集部メンバーがおじゃまして、詩や創作、居場所などさまざまなテーマで語り合う連載「ポロリとひとこと」を、2021年10月から続けてきました。
新連載「ムラキングとみんなの詩(うた)」では、「生活から生まれた切実な詩」を読者のみなさんから募集していきます。寄せられた作品を眺め味わいながら、その人が送っている日常の手触りや、誰かにとっての切実で大切なことを想像して、ラジオ番組のようにあれこれとおしゃべりしていきます。
第1回の募集テーマは「ど忘れ」「遮光カーテン」「前の席と後ろの席」です。初回にもかかわらずたくさんの詩を寄せていただき、ありがとうございました。今回はそのなかから4作品をご紹介します。また、記事の最後に第2回の募集テーマも掲載しますので、ぜひご参加ください!
登場人物紹介
- 妄想恋愛詩人ムラキング:1981年生まれ。高校生時代から詩を書きはじめ、即興で詩を書くのが得意。認定NPO法人クリエイティブサポートレッツの就労継続支援B型を利用している。
- 水越雅人:認定NPO法人クリエイティブサポートレッツのスタッフ。同い年のムラキングと出会って10年になる。
- 中田一会:こここ編集長
- 岩中可南子:こここ編集部メンバー
顔の見えない3人が繰り広げる、生活の一場面
1作目はじゃじゃこさんの作品です。手書きの画像で送っていただきました。
「詩の舞台は教室なのかな。友達やクラスメイトがあだ名をつけるときってどちらかが一方的につけることも多いと思うんですけど、『スカ』と『のの』の様子を観察している誰かによって両方にあだ名がつけられているところが面白いですね」
「そうか、3人いないと成り立たないですもんね。それに、引用の仕方がいいですよね。『スカ』と『のの』の言葉を、冒頭と最後で違う使い方で繰り返しているところが面白いなあ」
「私も最初、教室なのかと思ってたんだけど。学校で多用される『男子・女子』じゃなくて『男』と『女』という言葉が使われているから、どんなキャラクターなんだろう、どんな状況なんだろうって想像しながら、不思議とこの世界観に引き込まれる感覚になったなあ。リズム感や言葉の流れもよくて、声に出すとまたいいですね!」
「ああ、僕はバスでの出来事なのかなと思ってました。『度重なる』って描かれているから、『スカ』さんにも事情があるような気がしていて、それを後ろの『のの』さんが怒鳴るでもなく、本当に臭すぎてふり絞って言ったのかもしれないし。前と後ろの席ってお互い顔が見えないから、その関係性が象徴されているように感じました」
「なるほど。バスに乗り合わせた初対面の人同士かもしれませんね。私はお題発表のときから勝手に教室のイメージがあったんですけど、『前の席と後ろの席』って、もっとバリエーションがいろいろありますよね。そりゃそうか。みんなで読んでみると、違いに気づけて面白いですね」
全開になった「私」、それを受け止める「君」
2作目は、銀行太郎さんの作品。編集部に送られてきたメールはなんと……真っ白。ところが、本文をカーソルで選択すると三行の詩が現れました。白い文字で書かれていたようです。
「最初は『あれ、何も書かれていないメールが送られてきたのかな?』と思っていたんですけど、カーソルでスクロールして詩が現れたときはびっくりしました」
「『光あれ』という言葉に白のイメージがあったから、白い文字でこういうふうに表現したかったんですかね」
「これが表現なのか、たまたまこうなってしまったのか、ご本人に聞いてみないとわからないけど、あぶり出すと文字が現れる手紙みたいで、秘密のメッセージのようだなと思いました。それに詩自体は短いんだけど、情景の劇的な変化にインパクトがありましたね。『私の遮光カーテン』が『君の前で全開になる』、その前後にどんなことが起きていたんだろう。想像力がかきたてられるというか」
「一面真っ白になるくらいまぶしかったんだろうなあ。『かくして』のところで一体なにがあったのかも気になる」
「この詩では遮光カーテンが『その人の心』を表しているってことなんですかね。3行のなかにぎゅっと詰まっていていいなあと思います」
「ムラキングの言うとおりだとすると、『全開になった』のは、心を開いた瞬間のことですよね。自分ならどんなときに全開になっているんだろう。現実だとすごいささやかなことなんだけど『あ、この人って仲間かも!』って思えた瞬間に、自分の内側ではフルオープンになってしまうような出来事ってありますよね。それを遮光カーテンというモチーフで“新しい関係の始まり”として描いた、明るい兆しのあるいい詩だなと解釈しました」
「でも、光って慣れていないと刺激が強くて痛く感じることもありますよね。『私』の目線に立つと、全開にすることは勇気が必要だし、そこまでしないと自分を超えられないなにかがあるかもしれない。だけど、この『君』からすると、目の前で一気に全開になられることって、ちょっと怖さもありそうで。よかれと思って『私』は全開にしたけど、相手はいきなりのことに『ちょっと待って!』と思っているかもしれない。そんな展開を期待してしまっている自分もいました」
「たしかに。これはかなりの『全開』でしょうし、それを一方的だと『君』が感じる可能性もあるかもしれない!」
「なるほど、水越さんはその箇所に“人同士の関係性や態度”を見たんですね。私はこの詩に“現象”みたいなものを感じました。暗い中でもがいているときって、なにがきっかけで光が見えてくるかわからないじゃないですか。だからここは、暗いところから一気に抜けたその瞬間を描いたものなのかな、とも思いました」
「詩を書くと、人に言えない自分の気持ちや状態も、表現として打ち出せることも多いけど、それが自分の意図通りに伝わらないことも多いですよね。水越さんたちの話を聞いていろんな解釈があるなと思って、それをいますごく感じました」
境界線をつくることで、守ろうとする
つづいてはsatoriさんの作品です。お題は「遮光カーテン」です。
窓の外 雨が降ってる
眺めていたら 蘇ったの
土砂降りの日 遮光カーテンの中で
何度もいったりきたり
私たちの愛の印
窓際で肘をついて 眺めてた
こどもの帰りを待ちながら
外に出た 空を見上げた
星が降り出した キラキラしてる
土砂降りの日 遮光カーテンの中で
何度も見えていたよね
私たちの愛の炎
窓際でため息して 気づいたの
メラメラと 揺れている 残火に
あのとき あの場所で 見えたもの
いまでも この場所に ちゃんとある
どうして 気づかなかったの
忙しさや焦りに 追われたの
いまでも 遮光カーテンは
忙しさや焦りを 鎮めるの
晴れの日にも 雨の日にも
守られた 私たち
「遮光カーテンって遮断するイメージが私のなかにはあったけど、この詩は、一見悲しいようで、実はカーテンの内側で何か守られているものがあった。その発想が素敵だなと思いました」
「僕は『カーテン』という言葉を聞いたとき、登場する人物のイメージは1対1のことが多いんですが、この詩の登場人物たちはどんな関係性なんだろう。守るための遮光カーテンなのか、隠すための遮光カーテンなのか」
「プライベートな関係や、内緒話のようなモチーフとしてよく描かれたりしますよね。私はこれを家庭のことだと思って読んでいました。とくにこの詩は、歌詞のように言葉が選ばれていて、読んでいて音がよいなって」
「遮光カーテンによる境界のつくり方が面白いですよね、土砂降りできっと外からは見えないはずなのに遮光カーテンを引いていたりして、その人の身体感覚や生活ぶり、価値観が透けてみえるというか」
「もしかして雨音をさえぎろうとしているのかな。こんなとき、こういうふうにして過ごしてしまうという生活の切実な習慣が表れていますね」
「同じ遮光カーテンでも、さっきの銀行太郎さんの作品は全開にしていて、このsatoriさんの作品では閉めていて。カーテンを使った行動を見比べてみると、違いが際立ってなんだか新鮮ですね」
ぐるぐるとグラデーションの中を行き来する
最後は、おののもとさん作《明暗》。お題は「ど忘れ」です。
「明暗」
人について考えている人間には、常に陰りがつきまとう。
人について語るその言葉にも、常に陰りがつきまとう。
しかし、物や時刻、数字、天気予報、その他凡ゆるものについて考え、語る人々の言葉の持つ、底知れぬ明るさはなんだろう?
「あっ、ど忘れしちゃった」
という言葉の持つ、人について考え続けてしまっている故に、モノへの執着心を失くしてしまっている、その間抜け。
その間抜けにおかしみを覚え、親しみを示してくれる人もいようが、そのすべてが私には、狂おしく、愛おしいのだ。
彼ら彼女たちの多くは、瞬間、瞬間を生き、抜かりがなく『ど忘れ』とは、程遠い人々だ。
私はその翳りのなさ、瞬間瞬間を生き、人について考え続けることのない生き方を、どこかで羨ましく感じ、また、理解出来ないのだ。
「底抜けに明るくみえる人を前に、うらやましいな、『翳り』がないなと思えてしまう。そういう気持ち、ちょっとわかる気がします。実際のところ、他者について何も考えていかどうかって、確かめようがないかなとは思うんですけど、それでも人と比べるともしかしたら自分って考えすぎなのかもなとも思うことがよくあって。こういうぐるぐるしている状態は、身に覚えがあります。誰かと比べればそうかもしれない、そうじゃないかもしれない。まさに白黒はっきりしない『明暗』を行き来する感じかなと」
「私はそこに、ついど忘れしてしまう滑稽さ、考えていることと自分の行動の結果が一致しない、人間のおかしみみたいなものも感じましたね」
「みなさんに聞きたいんですけど、この『あっ、ど忘れしちゃった』からつづく一文、どういうふうに解釈しました?」
「僕にも『あっ、ど忘れしちゃった』の経験があるなあと思いました。例えば、自分が『あんこ餅を食べたいなあ』と一人で感じているときに、誰かが目の前に現れて『挨拶しなきゃ』という考えに上書きされる。そのとき、あんこ餅の存在は自分のなかから消えてしまっているんです。で、相手が去ってまた自分だけになって、自分がなにを考えていたのかが戻ってきて、『あ! そうそう僕はあんこ餅が食べたいんだった。どこにあったっけ?』となる。この状態って、僕はど忘れに近いものなんじゃないかと思います」
「なるほどね。ムラキングがものを忘れるときの感覚がちょっとわかった。思わぬ収穫があった気分です」
「『あっ、ど忘れしちゃった』が誰の行動なのかは作中不明ですが、誰かのことや自分のことをずっと見つめつづけていると、生活するうえで当たり前のことがすぽっと抜け落ちることもありますよね。考えすぎてご飯を食べ忘れたり、本屋に来たのに本を買わずに店を出たり」
「本人が当たり前だと思っていることでも、詩として書いていくうちにその切実さがよりはっきりと出てきてしまう。そこに自然とたどり着いてしまう詩の力ってすごいなと思います」
これからも切実な言葉を一緒にたずねていきましょう
「どんな作品が届くだろう? と、どきどきしながら迎えた第1回でしたが、みなさんどうでしたか?」
「同じお題でもいろいろなシチュエーションの詩が来て、屋外だったり屋内だったり心の中だったり、思った以上にバリエーションが出たなあと思います。自分じゃ書けないようないい詩がたくさんありました」
「そうだよね。こんなにも違うのか、と僕も驚きました。詩ってものすごくそれぞれの身体や人生のはしっこが見えるものなんですね」
「こうしてみんなで読み合わせていくと、自分で読んでいたときの印象とは違う姿や光景が見えてきて、とてもおもしろかったです!」
「実はこの『生活から生まれた切実な言葉を眺める』は、ムラキングさんとの連載で得た体験がもとになっています。言葉にどんな切実さがこめられているのか、話し合いながら一緒にたずねると、誰かの日常に思い馳せられる余白ができるというか、そういうところがいいなぁと感じました」
複数の詩を重ね合わせながらみんなで眺めてみることで、たくさんの気づきに賑わった第1回「ムラキングとみんなの詩」。上で取り上げた詩のほかにも、バスの後部座席に座りながら、過去の自分を静かに深く見つめなおしている詩や、裾足らずなカーテンに生活のモヤモヤを見つけてしまった詩など、今回もさまざまな“切実さ”に出会うことができました。今回〈こここ〉上でご紹介した作品の作者にはささやかですが記念品をお届けします。
次回はどんな切実な言葉に出会えるのでしょうか。それでは次回テーマの発表です!
第2回募集内容(〆切:11月24日)
テーマ
- あなたの生活から生まれた切実な言葉を詩として届けてください
- 第2回の募集テーマ「やりっぱなし」「鍵」「乾杯の後」のうち、好きなものをひとつ選んでください。複数テーマをつかう作品もOKです。
形式
- あなたが「詩(うた)」だと考える言葉であればどんな形式でもOK
- テキストデータにした文章でもいいですし、紙に書いた文字を写真やスキャナなどの画像にするような形でもOK
締め切り
第1回テーマの締め切り:2023年11月24日(金)24:00まで
応募方法
メールの件名に「みんなの詩作品応募」と記入し、〈こここ〉編集部メールアドレス(co-coco@magazine.co.jp)まで以下の内容をお送りください
- 作品(詩) ※メール本文に記入しても、添付ファイルにしてもOK(ファイルサイズは5MB以下でお願いします)
- 選んだテーマ
- ペンネーム
- 作品についてひとことコメント
発表/記念品
- 掲載させていただいた作品は〈こここ〉の記事上で発表します(2023年秋頃を予定)
- 掲載作品の作者には、記念品を贈呈します
※作品が掲載された場合、作品を応募いただいたメールアドレス宛に、記念品の発送先について編集部からご連絡します
注意点
- 応募された作品がすべて掲載されるわけではありません
- 未発表の作品、ご自身が考えて書かれた作品に限ります
- 代理でエントリーしていただくこともできますが、御本人に事前に確認をとった上で代理応募していることを明記してください
- ご応募いただいた情報は本企画の運営を担う株式会社マガジンハウス〈こここ〉編集部と、協力団体である認定NPO法人クリエイティブサポートレッツで共有させていただきます
- 他者の尊厳や権利を傷つけたり、損なったりする表現はご遠慮ください