福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここ文庫

COJI-COJI さくらももこ(著)

本を入り口に「個と個で一緒にできること」のヒントをたずねる「こここ文庫」。今回は、編集者の多田智美さんに「“当たり前”がとろける一冊」を教えていただきました。

多田さんが推薦されたのは、『ちびまる子ちゃん』の作者さくらももこさんが描く、メルヘンでファンタジーでナンセンスな異色作品『COJI-COJI』です。

こじこじのひょうし さくらももこさく

「わからない」は最強の巻

「……コジコジ キミ…将来 一体何になりたいんだ それだけでも先生に教えてくれ なっ」
「コジコジだよ コジコジは生まれた時からずーっと 将来も コジコジは コジコジだよ」
(真理だ… 負けたぞ 先生の負けだ…)

『COJI-COJI 新装再編版1』第1話「コジコジはコジコジの巻」P.17


ふと、わたしって一体何者なんだろう……と不安になることはありませんか?

“編集とは、夜空に浮かぶ星を結んで星座を名づける行為”と捉え、出版にとどまらず、図書館の設計や学びのプログラム構築など多分野でのメディアづくりを続けてきた野良編集者のわたしは、「……ん!? わたし、一体何者やねん……」といつも迷子になっています。

そんなわたしを幾度となく救ってくれるのが、メルヘンの国に暮らすコジコジです。「立派なメルヘン者になるために勉強をしろ」と檄を飛ばす学校の先生を前に、「コジコジは一回も勉強ってしたことないよ」とあっけらかんと答え、テストは名前を書き間違えてマイナス5点(100点満点の概念が覆される!)。メルヘンの国をめちゃくちゃにしてやろうと張り切る嵐の大王様襲来にも、「ねぇ 遊ぼうよ〜」と近づき、大王様は戦意喪失。そんなコジコジの前には、誰かが決めた「当たり前」も、まったく意味をなしません。

でも、自由奔放で無邪気なコジコジの態度には、わたしたちが「○○しなきゃいけない」「○○するべき」など、気づかぬうちに自らにかけた呪いを解くヒントが隠れているのではないかと思うのです。肩書きや役割、立場で「ここまでしか立ち入れない」「自分の限界はここまで」「この人はこういう人だから」と線を引けば、そこまで。誰の敷地なのか気にせず、うろうろできる野良犬や野良猫、野生の鳥のような気持ちで領域を横断していくと、まだ見ぬ出会いや新たな可能性がひらかれていく。

それは、障害のある人もない人もともに働ける状況づくりを50年近く続ける奈良の〈たんぽぽの家〉〈GoodJob!センター〉の活動を近くで拝見していて実感することでもあります。わたしたちはここ8年ほど、彼らのプロジェクト(Good Job! Project障害とアートの相談室IoTとFabと福祉知財学習推進プロジェクトNEW TRADITIONALなど)に伴走しながら、メディアづくりに参画してきました。「福祉」の枠をひょいっと行き来しながら、それぞれの嗅覚を信じ、新たな学びに挑み続ける彼らを見ていると、いつまでも挑戦を止めないこと・何度でもはじめてみることの大切さが伝わってきます。

はじめてのことに挑戦するとき、わたしは、いつも心のどこかでうまくいかないかも……と尻込みしそうな気持ちになります。でも、どうせなら、アホのふりしてやろう精神(=なりふり構わず、知らないので教えて〜と泣きつく最強の必殺技です)で持ち直す。その世界での「当たり前」を知らないからこそ、予想外のドラマが生まれる。それも、コジコジが教えてくれたことかもしれません。

最近わたしは、仲間たちと一緒に、ずっとずっと念願だった出版社 株式会社どく社を立ち上げました。「読むことは、立ち止まること。」を基本理念に、自分たちが最初に読者になりたいと思える本をつくり、届けていきたいと考えています。創業第一弾企画の『学校の枠をはずした』も、日常のなかでわたしたちが思い込んでいる「当たり前」や「普通」を吹き飛ばしてくれる1冊。ぜひ『COJI-COJI』とあわせて読んでいただけると嬉しいです。