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東京都美術館と東京藝術大学によるフォーラム「『鑑賞』はコミュニティに効く?」が1月25日(日)開催
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〈とびらプロジェクト〉と連動するプロジェクト「Museum Start あいうえの」で彫刻家 井上武吉の 《my sky hole 85-2 光と影》を鑑賞するこどもととびラー。写真:中島佑輔

「作品を鑑賞する」ことでつながりが生まれる理由を考える

「成熟社会」という言葉が近年よく語られるようになりました。経済成長を追いかける段階を過ぎ、多様な価値観が当たり前となった現代において、一人ひとりが自分のペースで生きられるようになった一方で、私たちは新しい課題にも向き合っています。それは、多様な価値観をどう尊重し合い、そして孤立させずに社会の中でつないでいくかということです。

人にはそれぞれ異なる背景や文化、経験があります。その違いを認めながら、互いに無理なく関係し合える社会のあり方を探ること。これからの私たちに必要なのは、そんな “ゆるやかなつながり” のための土台づくりなのかもしれません。

美術館での作品鑑賞を通して、ゆるやかにつながるためのヒントを考えるイベント「『鑑賞』はコミュニティに効く? みんなで作品をみる場づくり」が、東京都美術館にて2026年1月25日(日)開催されます。

鑑賞するだけでなく、つながる場所としての美術館

〈東京都美術館〉では、これまでにも美術館をただ作品の鑑賞をするだけではなく、人と人が自然につながっていく“公共の場”とする試みが行われてきました。その試みのひとつとして、多様なバックグラウンドを持つ参加者がともに作品を見つめ、言葉を交わす「対話型鑑賞」が挙げられます。同じ絵を見ているはずなのに、見えているものや感じていることは人によって違う。その違いを知ることで、作品への理解が深まるだけでなく、ひとつの作品を介して交わされる対話が他者への理解となり、コミュニティとしてのつながりを育てていきます。

東京都美術館「つくるよろこび 生きるためのDIY」展にてアーティスト久村卓の作品を体験する参加者ととびラー。写真:中島古英

そんな〈東京都美術館〉のアート・コミュニケーションの中心となるのが、〈東京都美術館〉と東京藝術大学と市民とが協働し、美術館を拠点にアートを介してコミュニティを育むソーシャルデザインプロジェクト〈とびらプロジェクト〉です。そして今回〈とびらプロジェクト〉フォーラムでは、「作品を鑑賞する」という活動を通して、なぜそのような場や人とのつながりが生まれるのか。プロジェクトメンバーによるディスカッションや、アート・コミュニケータ「とびラー」のトークなど、これまで積み重ねてきた取り組みを通じてその理由を探ります。

第1部の「みんなで作品をみる場づくり」をテーマにしたトークには、活動中のアート・コミュニケータと熊谷香寿美さん(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長)、小牟田悠介さん(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域特任准教授)が登壇。「『鑑賞』はコミュニティに効く?」をテーマにしたディスカッションでは、アーティストで東京藝術大学学長の日比野克彦さんも加わり、その可能性について語り合います。

第2部は、とびらプロジェクトの活動拠点を公開し、とびラーが普段の活動について紹介する「とびラーオープンセッション」を開催。時間内は自由に出入りできます。

〈とびらプロジェクト〉と連動する「Museum Start あいうえの」のファミリー向けプログラムに参加したこどもの造形活動に寄り添うアーティスト日比野克彦さん。

アートを通じて社会を育む「とびらプロジェクト」とは

〈とびらプロジェクト〉では、2012年のスタート以来14年間にわたって美術館でさまざまな人がともに作品を鑑賞する場づくりを行ってきました。このプロジェクトがめざすのは、多様性を尊重しながら孤立を生まない社会基盤を、アートを通じて育むことです。価値観も人生経験も異なる人たちが、美術作品を前にして言葉を交わす時、そこには“わからなさ”を共有する安心感があります。正解のない対話だからこそ、人は他者の視点に触れ、自分の世界を少し広げることができる。その積み重ねが、しなやかで柔軟なコミュニティのかたちを少しずつ育てていく。そんな社会的な可能性にかけて、これまで実践を続けてきました。

そして、このプロジェクトで大きな役割を担うのが、「とびラー」と呼ばれるアート・コミュニケータの存在です。「とびラー」という名前には、東京都美術館の愛称である「都美(とび)」と、“新しい扉をひらく”という意味が込められていて、アートをきっかけに誰もがフラットに参加できる対話の場をつくり、多様な価値観をもつ人々をつないでいく役割を担っています。会社員や教員、学生、フリーランス、専業主婦、退職後の方など、さまざまな背景を持った人が集まって、単なるサポーターではなく、学芸員や大学教員など専門家とともに、美術館の実践を支える“能動的なプレイヤー”として〈とびらプロジェクト〉に関わっています。

任期は3年間ですが、任期終了後も多くのメンバーが美術館や大学との関係を続けながら、活動で培ったスキルやネットワークを生かして、地域や教育、福祉などさまざまな場所でアート・コミュニケーションを実践しています。対話を大切にする社会づくりに向けて、とびラーの経験がそのまま広がっていくような形で、活動の輪が今も広がっています。

東京都美術館「つくるよろこび 生きるためのDIY」展の会場にて、グループで作品を鑑賞するとびラーたち。

鑑賞から始まる、これからのつながりへ

「鑑賞」という行為には、個人の内省を促すだけでなく、人をつなぎ、社会の輪郭を少しずつ変えていく力があります。今回のフォーラムは、実践者とともにその理由をたどりながら、“みんなで作品を見る”という営みが持つ可能性を探ります。誰かの視点に触れ、自分の世界を広げてみたいと思う方は、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

2026年1月31日まで15期「とびラー」を募集中

2026年、新たに活動を担う15期「とびラー」の募集がスタートします。募集人数は40名で、応募受付期間は2026年1月4日(日)1月31日(土)まで(当日消印有効)。初めての人でも学びながら活動できるよう、学芸員や大学教員、第一線で活躍する専門家とともに学びながら活動を生み出していくことができます。講座や活動には、必要に応じて手話・通訳などの情報保障対応を行います。

「とびラー」としての3年間は、「美術館での活動」にとどまらず、対話の実践を通して、視野を広げ、人との関わりや生き方を改めて見つめる経験となるはずです。対話のある社会づくりに関心がある人、アートや教育、福祉、地域づくりに携わりたい人、新しいつながりの中で自分の可能性を見つけたい人、新しく何か始めたい人など、こちらも気になる人はぜひ応募を。

「とびラー」への応募はこちらから。