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展覧会「キュレーションを公平に拡張する」が2023年1月に〈HAPS HOUSE〉でスタート。vol.1キュレーターに保坂健二朗さん
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展覧会「キュレーションを公平に拡張する」の第一回目となる古谷渉さんの個展「私はなぜ古谷渉を選んだのか」のポスター画像

「開かれた、公平なアート」へと歩みを進めるための実践

近年広がりを見せる、障害のある人たちが関わる文化芸術活動。美術館やコンサートホールなどで絵画やパフォーミングアーツ作品に接する機会も、以前に比べずいぶんと増えてきました。

しかしそこには、「障害のある人の」という観点からの、一定の棲み分けがあることも否めません。無意識だとしても、なにか“特別さ”をもって見られていたり、肯定的に捉えられているようで背後に差別や排除が潜んでいたりする場合も、なかにはあるのではないでしょうか。

〈一般社団法人HAPS(ハップス)〉は、こうした状況に積極的に働きかける企画として、「キュレーションを公平(フェア)に拡張する」を開始します。

第1回目のゲストキュレーターは、〈滋賀県立美術館〉館長(ディレクター)の保坂健二朗さん。2023年1月7日(土)~29日(日)の期間、京都駅から徒歩10分ほどの〈HAPS〉の拠点のひとつである複合スペース〈HAPS HOUSE〉にて、古谷渉(ふるたに・わたる)さんの個展「私はなぜ古谷渉を選んだのか」を開催します。また関連イベントとして、保坂さんによるトークが1月13日(金)、27日(金)の2日間で行われます。

〈HAPS〉が「キュレーションを公平に拡張する」を開催する“視点”とは?

本プログラムを主催する〈HAPS〉は、京都市を新たな魅力に満ちあふれた世界的な文化芸術都市とすることを目指し、同市の計画する「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」事業を行う組織として2011年に設立されました。2019年からは一般社団法人として活動しています。

これまでに、芸術と共生社会をテーマにしたプロジェクトをさまざまに行ってきた〈HAPS〉。とくに2020年に開設した相談事業「Social Work / Art Conference」では、障害のある人の創作活動に関する相談を受けることも多いといいます。その一方で、「障害のある人が関わった作品だから優れている」といった特別視が、一定の“棲み分け”をさせてしまう状況にも出会ってきました。

「キュレーションを公平に拡張する」は、以前に紹介した対話プログラム「もぞもぞする現場」と同様、「公立美術館における障害者等による文化芸術活動を促進させるためのコア人材のコミュニティ形成を軸とした基盤づくり事業(文化庁委託事業「令和4年度障害者等による文化芸術活動推進事業)」の一環として実施されます。

そもそも「芸術家」「作品」などの概念や、その良し悪しは、安定して存在しているのではなく、キュレーションの積み重ねによって、絶えず“実務的に”変更されてきたもの。そう考察する〈HAPS〉は本企画で、気鋭の現代美術キュレーターによる展覧会制作を通して「障害のある人たちの作品が優れているかどうか」という議論を一旦留保し、小さなつまずきの一つひとつを確認しながら、「開かれた、公平なアート」へと歩みを進めることを目指します。

保坂健二朗さんによる企画展「私はなぜ古谷渉を選んだのか」

展覧会「私はなぜ古谷渉を選んだのか」は、近現代美術やアール・ブリュットの企画を精力的に手がけ、2022年には固定化されがちな“アール・ブリュット”のイメージの相対化を試みた企画展「人間の才能 生みだすことと生きること」(滋賀県立美術館)のキュレーションを担当した保坂健二朗さんがゲストキュレーターを務めます。

本展にて取り上げる古谷渉さんは、創作活動を行うすべての人の自由な表現の場を目指す「ポコラート全国公募展」の第6回(2016年)にて、保坂健二朗賞を受賞。

「ポコラート全国公募展 vol.6」にて、保坂健二朗賞を受賞した古谷渉さんのアート作品。物干し竿にかかるタオルが風になびくイラスト
古谷渉「シマウカヴ」2016年 / 画像提供:ポコラート全国公募展vol.6(photo by 宮島径)

保坂さんは展覧会のステイトメントのなかで、今回の展示に至った経緯を以下のように語っています。

古谷渉の作品にはじめて出会ったのは、2016年のポコラートの審査の時だった。それは物干し竿にかけられたタオルを描いたドローイングだったのだが、黒い模様が、タオルのそれなのか、それとも風になびくタオルの起伏に生まれた影を表現したものなのか、もし影だとしてなぜそれを濃厚に表現したのか、それとも単に技術が稚拙なだけなのか、わからないことだらけだった。
(中略)
この多様性、あるいはとりとめのなさは、いったいなにゆえなのか。それを判断できる人はいるのか。彼の個展をするとしたら、そのキュレーターはなにをどうすべきなのか。そんなことを考えていたところにHAPSからの連絡があって、この展覧会に至る。

2022年の「ポコラート全国公募展 vol.10」に出展された作品。緻密な線や模様をなす馬が描かれたイラスト作品
古谷渉「後検量」2021年

今回、〈HAPS HOUSE〉で展示される作品は約40点。本展の実施にあたって試みたこと、実施してみての思いなどを、保坂さん自身が語る無料のトークイベントも見逃せません。2023年1月13日(金)と27日(金)、各回10名まで参加可能です。事前申込の上、ご参加ください。

また本企画そのものがシリーズとして回を重ねるごとに、「キュレーション」という行為がよりひらかれたものとして更新される機会になるかもしれません。アートファンの方、障害のある人の表現に関わる方や興味のある方、そして、そもそも展覧会はどのようにつくられるのかという素朴な疑問を持つ方は、ぜひ「キュレーションを公平に拡張する」の今後の展開や、〈HAPS〉の活動にも注目してみてはいかがでしょうか。