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福祉を担う18名の「違和感のゆくえ」は?〈クリエイティブサポートレッツ〉の新エッセイ集が発売
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本著の内容が書かれている。違和感をなかったことにせず、立ちどまって目を凝らしたら、一体何が見えてくるだろう? 障害のある人を核とした文化創造発信拠点「たけし文化センター」で働く18名が綴る、違和感のゆくえ。
『違和感のゆくえ』(出版社 いい風)書影

足を止め、日常のなかの「違和感」に向き合う一冊

日常のふとしたタイミングで、「違和感」を覚えることはないでしょうか。日々働き、身の回りのことをしながらさまざまな決断をし、社会に適応しようと力を尽くしている私たちにとって、それら一つひとつの「違和感」にじっくりと向き合っていくのは簡単なことではありません。

それでも、「違和感」は、あたりまえや常識を問い直すきっかけとなるものです。それらをなかったことにすることは、ともなう痛みや苦しみを無視すると同時に、「自分らしく生きる」妨げともなるでしょう。現状が少しでも良い方向へ変わるチャンスを逃さないためにも、私たちは自らの「違和感」にどのように向き合っていけばよいでしょうか?

そんな問いかけに対するヒントとなるエッセイ集が出版されました。障害のある人を核とした文化創造発信拠点〈たけし文化センター〉などを運営する認定NPO法人、クリエイティブサポートレッツ〉(以下、レッツ)で働く18人が、それぞれ「働くなかで覚えた違和感」をめぐる文章を寄せた『違和感のゆくえ』(出版社 いい風)です。

【画像】書影

「表現」とは何かを問う、〈クリエイティブサポートレッツ〉の活動

〈レッツ〉は、アートを通して、障害や国籍、性差、年齢といったあらゆる「ちがい」を乗り越え、さまざまな人たちがともに生きる社会の実現をめざす認定NPO法人です。

代表をつとめる久保田翠さんと障害のある子どもの保護者による、ボランティア団体として2000年に設立した〈レッツ〉は、2008年に個人を文化創造の拠点とする「たけし文化センター」プロジェクトをスタート。2010年には障害福祉事業を開始して、2025年11月現在は、〈たけし文化センター連尺町〉や〈ちまた公民館〉などを拠点に文化事業を行いながら、生活介護、相談支援、地域活動支援センター、重度訪問介護・行動援護を行う事業所を運営しています。

本著の出版は、そんな〈レッツ〉が2024年度、「違和感」「自治」「共生」をテーマに文化事業の取り組んだことがきっかけとなりました。また、それに先立って2024年2月、〈レッツ〉スタッフ17名とゲストたちによるワークショップイベント「アーダ・コーダ・ソーダ!どうだ?」が行われていたこともヒントに。働き手一人ひとりにフォーカスした本イベントの延長線上に、スタッフの寄稿によるエッセイ集が誕生しました。

【画像】本文のキャプチャ。違和感をなかったことにしたくない、の1文で始まる、はじめにの見開き文章
『違和感のゆくえ』p.2-3より

既存の社会で「あたりまえ」とされている構造を疑う

この本を読んでわかるのは、「違和感」というテーマひとつでも、感じ方も、それに対する対処も人によってまったく異なるということ。芥川龍之介が小説『薮の中』で、同じ出来事に対してもまったく違う見え方があることを表したように、『違和感のゆくえ』は、社会の中に「見えている景色が異なる場面も実は多々あるかもしれない」と気づかせてくれるようにも思えます。

また、ひとつの組織のなかに、これだけ多様な思惑や感情が詰まっているのだと感じさせる一方で、18人の言葉を通して、ぼんやりと〈レッツ〉という組織の輪郭が浮かび上がってくる内容にもなっています。以下で、何人かのエッセイをピックアップして紹介します。

・夏目はるなさん「即興演奏のような場から」

アルス・ノヴァではさまざまな場面が日々起きている。スタッフ・利用者問わず、お互いがお互いに影響しあって、ひとりでは生まれ得なかったものが発生しては消えていく。こうしたスタッフと利用者、利用者間に発生する即興的な場を「支援」としてしまっていいのだろうか。

幼い頃からクラシックピアノを演奏してきた夏目さんは、〈レッツ〉でさまざまな人が交わることによって起こる影響や変化を、即興演奏に見立てて表現します。その中で、スタッフや利用者たちの間に発生するものを単に「支援」と呼ぶことは、大切なものを矮小化しないだろうかという「違和感」に触れる夏目さん。異文化体験を行うように、さまざまな人たちが影響しあって場が動く瞬間に、自分自身もドキドキしながら居合わせたいと綴ります。

・水越雅人さん「粗忽長屋はどこにある」

理屈や理論だけではなく、人との関わりや経験によってゆっくりと形成されていく「本人の意味」があると思う。それはもしかしたら他人にとって理解しがたいものかもしれない。しかし、少しずつ紆余曲折を経てつくられた本人の意味は、他者からの理屈で説得されて生まれたものよりも、芯が太く本人にとって必然的なものだ。

 「通常」や「普通」とのズレを感じることが「違和感」だという水越さん。古典落語の演目や、結婚に強い憧れを抱いていた女性を例に出して、さまざまな経験を通じて「通常」や「普通」から離れた自分自身の問いや意味を見出すことが重要だと語ります。そして、ルールや規則だけに縛られることなく、チャレンジや失敗、対話や交流ができ、非効率でも時間をかけてゆっくり考えることができる場所を社会の中につくっていきたいといいます。

・久保田翠さん「違和感を越えたところに何が見えてくるのだろうか」

残されたそれほど長くはない人生をこの「怒り」に消費していくのか、それとも「自分のやりたかったこと、好きだったこと」をもう一度再考していくのか。怒りといった負の感情が発露になっている活動が幸せにつながるとは到底思えない。

子どもの頃から、自分の中に世間の常識とは違う感覚があることを理解していたという久保田さんは、美術大学に入学してそれらの「違和感」を何かを生み出す原動力に変えていく術を得ました。浜松に移住して、たけしさんを産み、自分自身やたけしさん、家族が安心して「いる」ことのできる場所として〈レッツ〉を立ち上げて、子どもたちの自立生活を見届けた久保田さん。彼女がいま考えるのは、自分自身の幸せについてです。社会とのずれを解消するために「仕方なく」活動を続けるのではなく、「違和感」を幸せに変換していくことができるのだろうかと思索します。

「違和感」と「楽しさ」を表現し続ける

「働く」ことを「人と人との働きかけ」や「存在し影響しあうこと」と捉えると、「働く」に関係がない人はいないでしょう。社会のなかで生きていくうえで、誰しもが「違和感」を覚える瞬間があるのであれば、ここに記された「働くなかで覚えた違和感」は多くの人が共有できるものです。

本書の編集を務めた垣花つや子さんは、そんな誰しも関係のあるテーマを通して、「個々人の身体的感覚や『取るに足らない、役に立たない』とされてしまうものたちをすくい、既存の社会で『あたりまえ』とされている構造を疑うきっかけになれば」と本著の狙いを語ります。

【画像】ちまた文化祭のキービジュアル。あそぶ+話す+休む+まつり+表現のワードや、9月20日から12月20日までの日付が見える

「違和感」のほかに、エッセイのなかで多く語られていたのが「楽しさ」についてです。〈レッツ〉を単なる「支援」を行う場所ではなく、利用者はもちろん、スタッフ、施設を訪れる人まで、「楽しさ」を共有できる場所にしたい。そんな共通した思いは、〈レッツ〉が生み出すさまざまなプロジェクトやイベントの企画としても表現されています。

例えば現在、〈レッツ〉では、まちなかを舞台にした文化祭「ちまた文化祭」を開催中です。2025年9月から約3か月の間、まちなかにある〈ちまた公民館〉、〈ちまたパーク〉、〈たけし文化センター連尺町〉の3カ所を舞台に、地域の人やアーティスト、障害のある人もない人もみんなで協力してつくる、まちなかの文化祭。とくに、2028年に開所予定の新拠点予定地を期間限定で開放している〈ちまたパーク〉では、ドローイングやUMA(未確認生物)を生み出したり、パレードでまちを練り歩いたりと、思い思いに過ごすことができます。

〈レッツ〉は、「違和感」にじっくり向き合う場であると同時に、自分自身の「楽しさ」を解放できる場でもあります。「違和感」や「楽しい」といった感情を通して、自分自身の輪郭をつかむためにもこの本を手にとってみてはいかがでしょうか。