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〈認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ〉のプロジェクト「表現未満、」をアカデミックな視点から考察した報告書が公開中
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ひょうし
〈認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ〉が2021年3月に発行した報告書。4人の研究者がそれぞれの研究分野から「表現未満、」について分析・考察した内容。PDF版を無料ダウンロードできます

アカデミックな視点から「表現未満、」を分析・考察した報告書

〈認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ〉(静岡県浜松市)が、4人の研究者の協力のもとアカデミックな視点からプロジェクト「表現未満、」を検証した報告書を発行しています。報告書のPDF版は〈クリエイティブサポートレッツ〉のWebサイトから無料ダウンロードができるほか、冊子も無料で配布(送料のみ実費)しています。

日常の中にある個人の生活文化を捉え直すプロジェクト「表現未満、」

「表現未満、」は知的障害のある人たちの表現活動をサポートする〈クリエイティブサポートレッツ〉で、2016年に立ち上がったプロジェクトです。社会的に広く認められた作品や作者だけを「表現」とするのではなく、一見取るに足らない行為と思われてしまいがちな個人の生活文化を、「表現みたいなもの=表現未満、」と捉え直すことで、その人のありのままを認めていこうとする文化活動です。

かつどうのようす
〈クリエイティブサポートレッツ〉は2000年に創設。重度の知的障害のある人のやりたいことをサポートする公共文化施設「たけし文化センター 連尺町」の運営など、アートと福祉を掛け合わせながら、障害・国籍・性差・年齢を超えたつながりを育む場所づくりを行っています

これまで、「表現未満、」プロジェクトでは、カルチャーセンターや音楽スタジオなどを兼ね備えた複合施設〈たけし文化センター連尺町〉の運営や、人の数だけ音楽(表現)があることを実体験する音楽イベント「スタタン!!」の開催、障害福祉施設での宿泊やツアーなどを行う観光事業などに取り組んできました。現在も福祉・アート・まちづくりなど、多岐に渡る活動を展開しています。

4人の研究者から見た「表現未満、」とは

今回の報告書では、こうした「表現未満、」を含む〈クリエイティブサポートレッツ〉のこれまでの活動を振り返るとともに、テキスト分析・文化政策・憲法・美学の視点から国内外4人の研究者がプロジェクトを検証しています。

長津結一郎さん(九州大学大学院芸術工学研究院助教)は、『「表現未満、」プロジェクト試論』(P12-31)を寄稿。テキストマイニング(注)を用いた分析から、語り合う場としての「表現未満、」の機能を考察しています。

注:テキストマイニング:文章を単語や文節で区切り、それらの出現頻度や傾向、相関などを解析することで有用な情報を取り出す。

過去に発行した8冊の報告書をテキストマイニングすることで、「表現の」捉え方や「表現未満、」の基盤になっている考え方が様々な分析によって浮かび上がります。

もくじとはじめに
報告書の「目次」と「はじめに」

若林朋子さん(プロジェクト・コーディネーター/立教大学大学院 21 世紀社会デザイン研究科特任准教授)は、『「表現未満、」が文化政策を救う』(P32-53)を寄稿しています。

本稿では、「障害者とアート」の日本国内の動向とともに〈クリエイティブサポートレッツ〉の歩みを振り返り、「表現未満、」の意義を分析。またその上で、文化政策の視点からどのように「表現未満、」を位置付け、意義付けられているのかを明らかにしています。

憲法の視点からの分析は、中村美帆さん(公立大学法人静岡文化芸術大学 文化政策学部芸術文化学科准教授)が寄稿。 『日本国憲法第25条からみた「表現未満、」生存権と文化・試論』(P54-72)と題し、日本国憲法で唯一「文化」という文言を用いた条文であり、社会権のひとつである生存権を保障する第25条に基づき、社会保障・社会福祉の実践例として「表現未満、」の考え方や活動を考察します。

さっしのないよう
適宜、「表現未満、」のプロジェクトの様子が挿入されていて、日頃の活動がわかりやすく読みやすい内容になっています

美学の立場からは、ジャスティン・ジェスティさん(ワシントン大学 アジア言語文学学科准教授)が『鑑賞の増殖 —— 美的判断のための実験室としてのレッツ』を寄せています。

ジェスティさんは、〈クリエイティブサポートレッツ〉と重度の障害のある利用者がつくり出すアート的な枠組みに焦点を当てながら、〈クリエイティブサポートレッツ〉の思想と活動が障害研究と現代アートの分野に影響を与える存在であることを主張します。

4人の研究者それぞれの専門分野から考察される報告書は読み応えたっぷり。〈クリエイティブサポートレッツ〉の活動を詳しく知りたい方にも、障害とアートの歴史的な背景を知りたい方にもおすすめです。

人と人のコミュニケーションをうむ「表現」の可能性

〈クリエイティブサポートレッツ〉が「表現未満、」を掲げる理由は、「いわゆる『表現』の一般的定義に収まり切れない、『表現』の可能性をそこに見出し、また、それを人と人との新しいコミュニケーションとしてとらえている」から(理事長・久保田翠による「はじめに」より)。

そうした考えに基づいて活動する「表現未満、」の可能性については、4人の研究者の視点で多角的に分析されることで、より立体的に理解することができます。報告書は、無料でダウンロードできます。「表現」や「福祉」の可能性を考えるヒントとして、ぜひ手にとってみてください。

また、2021年11月4日には、関連トークイベントも開催されます。詳細は下記Informationをご覧ください。