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テーマは 「現実逃避」。介助とともに生活をする人/介助の仕事をする人、2つの視点が折り重なるエッセイ集のvol.1発売中
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【画像】かいじょなりわい、と書かれた紺色の表紙。白い線で家々の輪郭が描かれ、月を模した円にvol.1の文字

当事者と介助者の視点から語られるZINE『介助生業』

介助とともに生活をする人と、介助の仕事をする人は日々、少人数のクローズドな人間関係のなかで、互いの時間を重ねながら過ごしています。家族でも、恋人でも、友人でもない立場から生活をともに営んでいくそのプロセスには、「介助してもらう」「介助する」という枠組みでは捉えきれない両者の奮闘があります。

それぞれの本音と喜び、そして時に生まれる葛藤。そんな私的な気持ちに、どちらの視点からも光を当てたZINE『介助生業(かいじょなりわい)』vol.1が刊行されました。

制作を手がけたのは、日常的に介助を必要とする重度身体障害者と介助者が集うクリエイティブ集団〈ひびとこ〉。vol.1は「そろそろ、現実逃避してもいいですか?」を副題に、双方の等身大の営みや、他者とともにある暮らしの工夫がエッセイで収められています。

【画像】表紙と同じイラストに、テキストメッセージ。1日1日を積み重ねていくことを応援する旨が記されている

「トイレ」「一人カラオケ」…どうやって「現実逃避」してますか?

本書には、介助とともに生活をする当事者と仕事として働く介助者、それぞれの立場の「現実逃避」のあり方が描かれています。たとえば、介助者として働く、だーしまさんのエッセイ「アジールとしてのトイレ」では、かつて会社員時代に仕事の重圧から逃れるためにトイレへ駆け込んでいた経験が語られます。

自分を立て直すための「統治権力の及ばない避難所(アジール)」だったトイレが、介助の仕事を始めてからは、駆け込む頻度が下がったそう。そこには、介助という仕事ならではの「余白」があるからではないかと、だーしまさんは綴っています。

仕事ではあるのだけど、仕事とは言えないような、人間同士の付き合いで成り立っている「余白」のようなものだ。
仕事としては割り切れないような、人間関係の蓄積で成り立っていくようなそんな不思議な側面が、この介助の仕事にはあるような気がする。
(「アジールとしてのトイレ」p.19)

一方で、電動車椅子に乗り始めて25年になるAさんのエッセイ「ヒトカラで現実逃避」では、介助を受ける側にとっての「ひとりきりになれる場所」への思いが語られます。

介助を受けながら生活するAさんにとって、介助者との基本的な距離感は常に声の届く範囲。そのため誰にも知られずに自分一人で過ごす時間を得るのは、自室やトイレであっても簡単ではありません。そんなAさんがひと時だけ現実から離れられるのが、カラオケボックスでの一人カラオケの空間だと言います。

普段、介助の指示を声で伝える私にとって、自分の声が人に届かないことは危険なことでもある。
だが、私はこの一人きりの密室をとても心地よく感じる。たとえなにを歌っても、急に叫んでも、普段言えないことを口にしても、誰も聞いていない。そこで行われたことは、私しか知らない。
(「ヒトカラで現実逃避」p.47)

他者と長い時間をともにする生活や仕事のなかで、いかにして自分だけの空間や息抜きの時間を確保しているのか。さまざまな切り口から、「現実逃避」の営みが収録されています。

毎月の「雑談」から生まれる、生々しくも温かい言葉

もともと『介助生業』は、匿名性を持たせたアナログな雑誌という場だからこそ表現できることがあるのではないかと、〈ひびとこ〉のメンバーが考えたことがきっかけでした。

〈ひびとこ〉は、重度障害者の地域での自立生活をサポートする〈一般社団法人わをん〉で活動しているメンバーが主体となったクリエイティブ集団です。〈わをん〉は「重度障害者の困りごとをサポートする」をミッションに掲げ、自立した生活を目指す当事者の方に向けた相談窓口の設置や、「特別支援教育支援員」制度を紹介したハンドブックの制作などを行ってきました。

こうした事業に加え、介助とともに生きる人たちの姿を伝えるウェブマガジン「当事者の語りプロジェクト」も運営してきた〈わをん〉。

発信を続けるなかで、「実名でのウェブ記事ではなかなか出しにくい、生々しい本音や悩みを話せる場も作りたい」と考え、編集長を務める登り口倫子さんをはじめとする〈ひびとこ〉のメンバーによって本書が企画されました。

【写真】机の上に置かれたパソコンのモニターに、ZINEの表紙画像やオンライン会議の様子が写っている

北海道から九州まで全国に点在するメンバーは、オンラインを中心に制作を進めています。そのプロセスにおいて最も大切にされているのが、毎月開かれるミーティングでの「雑談」の時間です。

日々の暮らしの中で生まれる小さなモヤモヤや近況を分かち合う互助会のような時間が、誌面の内容をより深めることにつながっています。現在vol.2も制作中です。

【写真】広い会場の1ブースに雑誌が積み上げられている
「文学フリマ大阪」で出展した際の様子。左から〈ひびとこ〉メンバーの油田優衣さん、登り口倫子さん、吉成亜実さん

本書は2025年に開催された大阪の文学フリマをはじめとしたイベントでの手売りを行っており、2026年は文学フリマ札幌、香川、福岡に出展予定です。その他、公式のオンラインショップいくつかの実店舗でも販売されています。また実物の本をめくることが難しい視線入力デバイスのユーザーなどにも届くようKindle版も用意されているなど、アクセシビリティへの配慮もなされています。

他者と支え合いながらも、自分自身であり続けるための「現実逃避」。そんな日常の工夫がそっと綴られた一冊を、手にとってみてはいかがでしょうか。