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“今、暮らしが軽蔑されている” 。「言葉」を拾う武田砂鉄さんの、『暮しの手帖』6年の連載が書籍化
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【画像】本のタイトル『今日拾った言葉たち』、帯に「わざわざ言わなくても、と思うかもしれないけれど、これ、わざわざ言わないと大変なことになる。」の言葉

ライター・武田砂鉄さんの新刊『今日拾った言葉たち』

創刊70年を超える雑誌『暮しの手帖』。一人ひとりが「自分の暮らし」を大切にすることを通じて、戦争のない平和な世の中にしたいと、戦後に生まれた雑誌です。

隔月で刊行されているこの『暮しの手帖』の人気連載の一つに、2016年から始まったライター・武田砂鉄さんによる社会批評『今日拾った言葉たち』があります。2022年9月、過去6年に渡る連載が一冊の単行本にまとめ直され、〈暮しの手帖社〉から発売されました。

政治家の発言、著名人のツイート、新聞や雑誌など、社会や生活の中で武田さんが出会い、立ち止まって拾い上げた言葉は、世の中を見る視野を広げ、知恵をはたらかせながら時代の中で生きていく礎になり得るもの。出版を記念して、いくつかのトークイベントも予定されています。

【画像】雑誌『暮しの手帖』の表紙。右上に20の数字と、「こころざしってなんだろう」の言葉
花森安治さんらが1948年に創刊した『暮しの手帖』は、現在「5世紀20号」を発売中(100号を「1世紀」と数える)。料理や手芸などのテーマから、生活保護や子ども食堂など時事性のあるトピックまで幅広く扱うことで、「暮らし」と「社会」のつながりも感じられるようになっている

時代の中で出会ってきた言葉を拾い、投げかける

本書のまえがきで、“暮しを軽蔑する人間は、そのことだけで、軽蔑に値するのである”(『花森安治選集』第1巻)の言葉を引用し、「今、暮らしが軽蔑されているな、と感じる」と自らの実感をつづる武田さん。「いいから黙ってて」のように沈黙を強要し、人から言葉を取り上げてしまう風潮が加速するなか、言葉を拾うことが暮らしを軽蔑しないために大切なのではないかと続けます。

時系列順でまとまっている本書は、2016年から2022年までに武田さんが気になった一つひとつの「言葉」にまつわる考察を連ねたうえで、1年の終わりを総論で締める構成になっています。時事性の高い言葉を拾っていることも多く、読者はさまざまな角度からこの6年間を振り返るような感覚が味わえます。

記憶を確認して、1週間以内には お話しできると思います。
甘利明 経済再生相
記者会見で(1月22日)”

たとえば「2016年」の章の冒頭では、疑惑について明言せずに先延ばしをしていく、辞任数日前の元閣僚の発言を引用。そこから、聞き手・受け手側の興味や記憶が薄れ、猶予期間が生まれてしまうことを指摘しています。

怖がって沈黙する人々の国にだけはならないようにしよう。
アレクセイ・ナワリヌイ ロシアの反政府活動家
ロイター通信(3月3日)”

こちらは、「2022年」の章で紹介された、ロシアのウクライナ侵攻に対する服役中の活動家による自国民への呼びかけ。声を大きく上げれば上げるほど、“怖がって沈黙する人々”が声をあげやすくなるのだと書かれています。

拾われる言葉は、もちろん政治分野だけではありません。

当事者による運動である障害者自立生活運動のスローガン「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」、5年かけて古文『源氏物語』の新訳を行った角田光代さんのツイート「古来から続く日本語のあいまいさが今、責任の所在なさに 使われている気がしてこわいんです」、自らの感情を伝えることの大切さを表現するイ・ランさん(シンガーソングライター)の「人は自分のことをどんなふうに面倒をみてあげながら生きているんだろう?」など、さまざまな言葉が取り上げられていきます。

かつて話題になった言葉も、ページをめくりながら改めて武田さんの解説とともに出会ってみると、当時と一味違った意味が立ち上がることがあります。そこから、自分の興味の変化や記憶の薄れ、構造的な問題などに気づくことも。言葉と考察を通して、立ち止まって「じっくり考えてみる」ことが人間の暮らしにとっていかに大切かを示唆する一冊になっています。

【画像】本の見開きデータ。右ページに「ごめんなさい、質問の意味が理解できませんでした」「全員団結」の言葉、左ページに「沈黙は中立ではない。自分と同じ過ちをしないでほしい。」の言葉と、それぞれに解説文
それぞれのページ下部には「この頃の出来事」として、当時の時事問題など武田さんからの一言コメントとともに記されている。読者にとっては、読みながら当時の記憶を呼び起こすヒントになる
【画像】本の表紙、帯上に武田さんの似顔絵が3カット載っているのが見える
連載当時からイラストを担当していた浅妻健司さんが、書き下ろした武田さんの喜怒哀楽を伝えるチャーミングなイラストがたのしい。年ごとのタブもあり、どこから開いても読むことができる

刊行記念には、オンライントークイベントも開催!

社会への違和感を追究し続けている武田砂鉄さんは、過去の著書に、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、のちに新潮文庫)や『マチズモを削り取れ』(集英社)、『べつに怒ってない』(筑摩書房)などがあります。本連載は『暮しの手帖』での読者アンケートの評価が高く、またTBSラジオで放送されている『アシタノカレッジ』も好評で、書店員にラジオを聴いているという方が多かったことも発刊の後押しになりました。

【写真】こちらに向いて立つ男性
武田砂鉄さん

待望の単行本化に伴い、オンラインでの刊行記念トークイベントもいくつか用意されています。

2022年10月22日(土)に予定されているのは、〈MARUZEN JUNKUDO〉が主催する、文筆家・イラストレーターの金井真紀さんとの対談イベント。自らも著作の中で多くの方を取材し、魅力的な言葉や仕草を集めている金井さんと2人で、ひとつの「言葉」がどのように世の中を見る視界を広げてくれるかを語り合います。さらに10月26日(水)には、〈文化通信社〉の主催で、高円寺の書店「蟹ブックス」店主・花田菜々子さんとのトークショーも予定されています。

イベントに参加したり、書籍を読んでみたりすることで、自分の中にある言葉や日常で触れる言葉を一度受け止め、じっくり考えてみるきっかけにしてみるのはいかがでしょうか。