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少年院・刑務所の外に「居場所」を感じられる求人誌づくりとは? 創刊8年目『Chance!!』、無料閲覧&一部無料配布中
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Chance29号の表紙画像。メインは、作業着を着た2人の男性が肩を組んでいる写真
全国の少年院・刑務所・拘置所約240カ所で無料配布されている『Chance!!』。定価は500円(税込)

やり直す“チャンス”に出会える、受刑者専用の求人誌

2023年に日本で認知された犯罪の数は、およそ70万件(法務省『犯罪白書』より)。2002年をピークに長く減少していた犯罪件数は2年連続で上昇に転じ、「闇バイト」などの新たな犯罪も近年大きな問題となっています。

不況で生活が追い込まれ、適切な判断が難しくなってしまった人。必要な支援を受けられる環境になく、限られた選択肢の中で生きざるを得なかった人。毎日のように運転する車や自転車で、ふいに事故を起こしてしまった人……。自分や自分の身近な人を含め、この社会の誰もが罪を犯してしまう可能性を抱えています。

だからこそ、罪を償いながらも再びやり直せる道筋が目に見えることは、その先も続く人生の中でどれほど私たちの助けになるでしょうか。

過去7年に渡って、少年院・刑務所などで配布されてきた求人誌『Chance!!』は、そうした機会を届ける、大切な手段の一つとなっています。

少年院・刑務所と企業をつなぐ『Chance!!』

『Chance!!』は、服役中の受刑者や、少年院の入院者向けの求人情報誌です。

〈株式会社ヒューマン・コメディ〉が毎年春・夏・秋・冬と発行を続けており、全国の少年院・刑務所・拘置所約240カ所では、現在無料で配布されています。最新号のvol.29(2025年3月1日発刊)は過去最多の4900部が発行されました。

この雑誌が求められる背景には、「一度服役をした人の中に、再び罪を犯してしまう人が少なくない」という現実があります。『犯罪白書』によれば、2023年に検挙された18.3万人のうち再犯者は8.6万人。特に出所後帰る場所のない人にとって、自分だけで一から生活を築き直すことは簡単ではなく、食事や寝具のある刑務所に戻るための犯罪を行ってしまう人もいるといいます。

【画像】左に自動車修理業、右に解体業の求人情報。それぞれ、代表者や社員の写真が3つ載っている
最新号vol.29の求人ページの一部(p.32〜33)。本号には35社の求人が掲載されている

そういった人を少しでも減らすためにつくられてきた『Chance!!』には、通常の求人誌にはない情報がいくつもあります。

例えば「住居・生活サポート」。この欄には、社宅や寮の家賃・光熱費、給与の日払い制度、貸与されるものなどが明記されています。そもそも『Chance!!』では、全ての企業が「身元引受」(仮釈放時に必要な、身柄を引き取る責任を負うこと)に対応しており、当面の生活費を支援することも、求人掲載の条件の一つになります。

そして「応募可能なタイミング」の項目。刑務所の受刑者は、制度として用意されている「就労支援」を利用できますが、その開始時期は多くの施設において出所の3カ月前です。外に出た後の生活のために早く準備したい人に向け、企業がここに「出所まで2年を切った時点」などの条件を提示することで、早くから就職活動を進められるようにしています。

ほかにも業種や業務内容の特性に応じて示される「採用が難しい罪状・病気など」や、テレビ面接の対応可否なども記される「面接可能な地域」など、出所者の就職活動はもちろん、企業にとっても採用活動がスムーズになるよう誌面の工夫がされています。

画像。累計実績が一覧になっている。応募件数3138、内定者470、半年の定着率47%、1年以上の定着率28%。この1年だと、内定者77名
vol.29までの掲載企業数は累計152。建設業を中心に、飲食、福祉などさまざま業界から手が挙がっている

「ここに自分の居場所がある」と思える誌面づくり

『Chance!!』の創刊は2018年3月。出所者の社会復帰の難しさと、犯罪の背後にある家庭環境や貧困、社会的孤立などの問題を知った三宅晶子さん(ヒューマン・コメディ 代表取締役)が、就労の側面から何かできないかと模索し、立ち上げた事業です。

雑誌づくりは未経験だった三宅さんですが、手探りで制作を進め、13社の求人を載せた創刊号を750部発行。その後、求人数や部数を拡大させながら年4回の発行を欠かさず続けてきました。

写真。笑顔を向ける、スーツを着た白い髪の女性
『Chance!!』編集長の三宅晶子さん

創刊時からこだわっているのは、読者が「居場所」を感じられる誌面づくりです。いくら給与や福利厚生の条件が良くても、ただきれいにまとまった情報だけでは、そこでの生活や自分が働く姿を想像していくのは難しいと三宅さんは感じています。

「求人誌に載せる写真や言葉って、出す側はどうしても“盛る”ことをしたくなります。でも実際は、華やかな情報があるよりも、代表者が自らの失敗について触れていたり、社員の素の姿が感じられるような写真があったりするほうが、応募も集まりやすいんです。刑務所や少年院にいる方にとって、『ここに自分の居場所がある』と思えることがすごく重要だと考えています」(三宅さん)

出所後の自分自身を、具体的に重ねられる求人誌であること。そんな三宅さんの思いは、求人情報以外に『Chance!!』を彩る、さまざまな特集ページにも反映されています。

例えばvol.29、お笑い芸人として活躍するチャンス大城さんとの対話や、懲役3年の実刑を受けた元法務大臣の河合克行さんのインタビューでも、それぞれが失敗した経験が率直に明かされました。読み物としての充実を図りながら、受刑者が前を向けるようなエピソードが綴られています。

左にインタビューの冒頭部分、右に男性の大きな写真が一面に載っている見開きページの画像
vol.29の編集長インタビューページ(p.6〜7)。こうした取材記事やコラムページを目的に読んでいた結果、就職活動を始めた読者もいるという

「毎号の表紙には、犯罪歴のある方が登場します。少なくとも半年以上就労していて、社会的感情が表紙になることをゆすると思われる方々にお声がけをしています。巻頭にはその人たちのインタビューもあって、ここに出ることが一つの目標になるようにと思い、始めました。

実際、『表紙になることを目標に頑張ります』とお手紙をいただくこともありますし、少年院の先生や刑務所の刑務官で、『Chance!!に載るのを楽しみにしてるからな』と送り出してくださっている方もいらっしゃると聞いています」(三宅さん)

互いの覚悟の先に、「選択肢」が多くある社会を

“「絶対にやり直す」という覚悟のある人、それを応援する企業のための求人誌”。

表紙にそんなコピーのある『Chance!!』には、現在、毎号30社を超える求人情報が集まるようになっています。何号も継続して掲載する企業も少なくないのは、これまでの採用実績に示される数字以上に、三宅さんが目指す「やり直せる社会」を、共につくりたいと考える人が多いからかもしれません。

もちろん、そうした企業側の覚悟に応える必要もあります。三宅さんが『Chance!!』に用意した専用履歴書などは、その思いが形になったものの一つ。「事件の内容、背景・きっかけ」や「以前の犯罪歴」「再犯の可能性について」など、一人ひとりが自分と向き合わなければ書けない内容になっています。

履歴書の2/4、3/4ページの画像
vol.29に収められている専用履歴書の一部(p.74〜75)。今の考え方や就職への本気度が問われる

出所者の3人に1人が、5年以内に刑務所に再入所している今の社会。その根底にある問題は、就職支援だけで解決されるわけではありません。それでも、半年以内に8〜9割が“飛ぶ”(行方をくらます)、と言われてきた出所者雇用の世界で、『Chance!!』による半年以上の定着率は47%に上ります。

今後目指すのは、求人の選択肢をさらに増やしていくことだと三宅さんはいいます。『Chance!!』という場でそれが起きるということは、受刑者や出所者のことを他人事と捉えず、「自分事」として想像する人が増えることでもあるはずです。

個人でも購読が可能な『Chance!!』。Webでも最新号を無料閲覧できるので、気になる方はぜひ一度手に取ってみてください。