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“触る”を楽しむ博覧会「ユニバーサル・ミュージアム」開催中。国立民族学博物館で2021年11月末まで
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「ユニバーサル・ミュージアム ―― さわる!“触”の大博覧会」が大阪・国立民族学博物館で開催中

スローガンは「非接触社会から触発は生まれない」「さわるとわかる、わかるとかわる」

「歴史にさわる」「風景にさわる」「音にさわる」などのテーマのもと、触れるアート作品を展示した「ユニバーサル・ミュージアム ―― さわる!“触”の大博覧会」が開催されています。国立民族学博物館 特別展示館(大阪府吹田市)にて、2021年11月30日(火)まで。

このユニバーサル・ミュージアムでは、ユニバーサルであることを「感覚の多様性、違いを大事にすること」と捉えています。触ることで得られる気づきが、人間の多様性を活かしあう社会につながると考えて企画されました。

スローガンに「非接触社会から触発は生まれない」「さわるとわかる、わかるとかわる」を掲げ、約280点のアート作品を6つのセクションに分けて紹介。また会期中は、ワークショップや研究者と話せるサロン、映画会、タッチツアーなどの関連イベントも充実しています。開催状況や予約は、国立民族学博物館の「催し物ページ」をご確認ください。

チラシの表には、文字情報を表す点字以外に、背景色の部分に「さわることでしか得られない情報」を表す点字がついています

「視覚を使えない不自由」から「視覚を使わない解放感」へ

本展は作品を通じて、「視覚を使えない不自由」ではなく、「視覚を使わない解放感」を体験してほしい、という狙いで企画されています。

会場は、入り口すぐの“さわるマナー”を学ぶ「試触コーナー」と、「彫刻を超克する」「風景にさわる」「アートで対話を拓く」「歴史にさわる」「音にさわる」「見てわかること、さわってわかること」の6セクションで成り立っており、触覚に集中できるようにあえて暗くしているエリアもあります。

導入の「試聴コーナー」では、国宝でもある興福寺仏頭のレプリカなどに触ることが可能です。手のひらや指先でなでていくと、顔のハリや目鼻の凹凸を感じるだけではなく、普段目で見ることのない頭の裏の形や、火災で欠けた耳の一部などの歴史まで感じとることができます。

セクション5「音にさわる」土の音(渡辺泰幸)

セクション5の「音にさわる」では、音を振動で感じてみたり、映像無しに音だけでスポーツを観戦してみたりと、音を聴覚ではなく身体でさわる感覚として捉え直すことができます。

その一つ、「土の音」は、さまざまな大きさの陶器をたたける作品です。実際に音を鳴らし、たたき方で変わる振動を全身で感じとることができます。

国立民族学博物館准教授・広瀬浩二郎さんの解説付き展示紹介映像

オンラインからも楽しめる触博覧会

ユニバーサル・ミュージアムには、さまざまな関連イベントも用意されています。

毎週金曜日に開催されているのは、タッチツアー「あの手この手で特別展を楽しむ」。講師に本展の実行委員長の広瀬浩二郎さんを迎え、展示を共に巡るツアーを行っています。

日本宗教史と触文化論を専門とし、“触”をテーマとするイベントを全国で企画・実施してきた広瀬さん。本展はそんな広瀬さんの研究活動の、ひとつの集大成でもあります。

“触”の楽しみ方を広瀬さんが解説する動画

また、オンラインで参加できる「みんぱく映画会」も実施されます。2021年11月23日(火)には「世界の感触を取り戻せ! ――目の見えない者は、目に見えない物を知っている」として、映画『瞽女さんの唄が聞こえる』を上映。

本作品は、三味線を奏で、語り物などを歌いながら各地を門付けして歩く盲目の女旅芸人、通称「瞽女(ごぜ)」である杉本キクエさんの晩年の生活などをとらえたドキュメンタリーです。今回のイベントでは、上映後に瞽女文化についてや、瞽女を描いた絵画の触図化についてなどのトークショーも実施されます。

豊かな触感を持つ文化を育てるため、コロナ渦であえて「触る展示」を

もともと本展は、視覚に頼りがちな博物館の制度に対する挑戦として、コロナ以前に企画されていました。「観覧者」という言葉づかいや「作品に手を触れないでください」といった但し書きが「視覚を特権化させてきた」と考え、触覚の復権を訴える展示にしようという想いで始まったものです。

しかし、コロナ禍を体験し、会期が1年延長になったことで「やわらかさ」や「あたたかさ」を持つ触感文化自体を、生み育てるきっかけとして捉えるようになりました。

また、広瀬さんご自身は視覚障害があり、日常をさまざまな人や物との濃厚接触により成り立たせています。コロナ渦の“接触=悪”と決めつけられる風潮の下で、「自分の存在が否定される危うさを味わった」からこそ、「触る意義」を訴える展示をあえて今行うことにしたといいます。

「じっくりさわる」「見てさわる」「見ないでさわる」のコーナー。「見ないでさわる」(右奥)ではさわることだけで、資料の形や細部の様子についてどこまで把握できるか挑戦することができる

国立民族学博物館は、大阪の〈万博記念公園〉の中にあります。園内には高さ約70mの「太陽の塔」、のびのびと過ごせる「芝生の広場」などがあり、触ることで得られた新たな感覚は、視覚以外が発するさまざまな情報への気づきにつながるかもしれません。

同館では本展の催しにオンラインで参加できる企画や、常設展示の「バーチャルミュージアム」なども実施していますが、触ることは会場でしか味わえない体験です。接触が忌避されることの多い今だからこそ、その価値を改めて問い直す時間を過ごしてみてはどうでしょうか。