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「齋藤陽道写真展—存在。生。死。あわいの光。—」が岩手〈るんびにい美術館〉で2022年1月まで開催
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齋藤陽道さんにとって、およそ1年ぶりの個展。開催場所となった〈るんびにい美術館〉は、本展を「『命とは何か』が否応なく見る人の心に届き、響き渡る写真展」と紹介している

「齋藤陽道写真展—存在。生。死。あわいの光。—」が開催中

岩手県花巻市の〈るんびにい美術館〉にて、「齋藤陽道写真展—存在。生。死。あわいの光。—」が開催されています。会期は2021年9月17日~2022年1月24日。

本展は、写真家・齋藤陽道さんの2021年初めての個展です。展示されているのは、齋藤さんが世界のあらゆる存在や、その根源にある意味を見つめながら撮影した80点の写真作品。加えて、プロジェクターを使用した映像投影や、映画『うたのはじまり』上映会なども開催されます。

本展ポスタービジュアル
実際の展示写真と、映像投影(スライド83点・約15分)の様子

ろう者でもある、写真家・齋藤陽道さん

写真家として活動する齋藤さんは、ろう者でもあります。幼い頃から補聴器をつけて生活するなか、聴者と同じであることを求められる世界に自分の居場所を感じられず、苦しんでいました。

しかし、ろう学校への進学で手話と出会い、「深い沈黙によってつながる世界」を手にしたといいます。そして、20歳になると補聴器を着けるのをやめ、「コミュニケーションとは何か?」という好奇心を土台に写真家活動を始めます。

2010年には、第33回キャノン写真新世紀優秀賞を受賞し、2013年に〈ワタリウム美術館〉にて大規模個展『宝箱』を開催。以降、展覧会出品や写真集の発表など活躍を続ける傍ら、文章やイラスト、漫画の執筆なども行っています。

〈こここ〉でも、2021年4月の創刊時より「働くろう者を訪ねて」を連載中。初回は齋藤さんご自身によるセルフインタビューで、幸せな瞬間を「こどもたちとぎゅっぎゅっ抱き合っているとき」と表現するなど、人柄に触れることができる内容になっています。それぞれの人の過去や今の働き方を掘り下げながらも、「好きな食べ物は?」などと聞いていくインタビューには、一人ひとりの存在と深くつながろうとする齋藤さんの姿勢が表れています。
(「働くろう者を訪ねて」 https://co-coco.jp/series/hataraku/

「存在」の尊さを伝える写真展。主演映画の上映会、トークイベントも開催

本展では、言葉を持たない世界で互いをどう認め合うか考え続けてきた齋藤さんが、「写真」という媒体を通じて、「ただ存在していること」の尊さを表現しています。

展示に合わせて発表された齋藤さんのステートメントには、次のような文章が記されていました。

私が写真において見ているものは、くらがりを照らす光のごとき、生命の力だけ。
孤独や死をふくむ風景は、己の掌のなかにある宇宙にも気づかされる。
そういった可能性を信じたい。理屈ではなく、目の歓喜で。
死と隣合わせにある弱さを抱えながら、かつ生命を横溢する子どもが見上げる世界の輝きを私は求めてきた。

 

齋藤さんは「写真のもたらす『存在することが尊い』という価値観に、これからも希望を捧げていきたい」と語る
会場で配布されている、齋藤さんの言葉が綴られたリーフレットの一部

今回の舞台となる〈るんびにい美術館〉は、社会福祉法人光林会が運営するギャラリー・アトリエ・カフェ・ベーカリーを併設する施設。見る人が「命」を感じるような表現物を紹介していくことで、ボーダーレスな世界を目指しています。

人の心に潜む境界線を消し去って、一つのものとして捉えたとき、そこに何が見えるのか。2007年に開館して以来、模索を続けながら、「命との出会い」をテーマに企画展などを行ってきました。

直接見たり、触れたりできなくても確かに存在する「命」に向き合い、「存在すること」そのものを光と共に写し出す齋藤さんの写真は、館のテーマにも沿ったものになっています

齋藤陽道さんのまなざしに視点を重ねたとき、あらゆる存在に宿るかけがえのない尊さが、鮮烈に浮かび上がります。
命が存在すること。命が生まれ、死ぬこと。
それらのあわいが、溶け合うかのように照らす光。
齋藤さんの写し取る光に対峙したとき、私たちもその光の中にあるということに気付かされます。

本展に際して、〈るんびにい美術館〉展示担当の佐藤茜さんはこのようにコメントをくださいました。

「うた」が嫌いになってしまった齋藤さんが、生後間もない息子の育児を通して、「うた」と再び出会うまでを追ったドキュメンタリー映画『うたのはじまり』 (C)2020 hiroki kawai/SPACE SHOWER FILMS

会期中の2021年11月27日には、映画『うたのはじまり』の上映会に合わせ、主演も務めている齋藤さんが登壇するトークイベントも開催されます(事前申込制)。
久しぶりの齋藤さんの個展であると同時に、普段は熊本県に住んでいる齋藤さんのお話を直接伺える機会を、ぜひお見逃しなく。