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即興音楽の概念が変わる!? 〈音遊びの会〉のドキュメンタリー映画『音の行方』が公開中。上映・トーク・ライブの3部構成イベントも
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『音の行方』のチラシ画像。ドラムスティックを持つ男性が耳をふさぎ、集中している写真

観るものを圧倒する、即興音楽集団のドキュメンタリー映画が公開

「予測不能」「人の鼓動のよう」「驚きと感嘆」「自由」「理想的な音楽のあり方」――

観た人から、このような言葉を引き出す映画『音の行方』。2022年10月に封切られ、今後関西方面を中心にリレー上映が決まっているドキュメンタリー映画です。

障害のある人もない人も一緒になり、さまざまな楽器を演奏し、歌い、踊る、兵庫県神戸市を拠点に活動する即興音楽集団〈音遊びの会〉。彼ら彼女らの日常、さまざまなスタイルの音楽セッション、朗読、メンバーの親たちへのインタビュー、ワークショップ、ステージなど、〈音遊びの会〉の活動が9つのチャプターに分かれて記録されています。

『音の行方』パンフレット

メンバーの体の内から湧き上がってくる、どこかプリミティブな、鼓動にも似たリズム。衝動的に、深い集中力を傾けるパフォーマンス。込み上がるエネルギーを惜しげもなく開放するメンバーたちの表現活動は、観る人の目や耳を釘づけに。特に音楽関係者を中心に、さまざまな驚きの声が寄せられています。

〈音遊びの会〉とは?

トロンボーン、ドラム、エレキギター、シンセサイザー、パーカッションといった楽器から、ジャンベ、カリンバ、木の実のシェーカーなどの民族楽器、はたまた100円ショップなどで手に入るおもちゃの楽器などを用い、楽譜も、決まりごともなく、演奏スタイルや表現のジャンルを超えた自由な即興演奏を得意とする〈音遊びの会〉。

港に集合した〈音遊びの会〉のメンバーたちの写真
〈音遊びの会〉のメンバーたち

この活動がスタートしたのは、2005年9月。神戸大学で即興音楽療法に関する研究を行っていた当時大学院生の沼田里衣さんが、知的に障害のある人や、即興演奏の分野で活躍する専門家に声をかけ、始まりました。

もともとは半年間のみの活動を想定したプロジェクトで、2つの公演をもって終了する予定でしたが、会の活動はいつしか参加者にとってかけがえのない時間となっていきます。関わる人、その周囲からの強い希望で、会はそのまま継続することに。スタッフやメンバーも入れ替わりながら現在も活動を続けています。

写真アルバムをめくる様子
2009年に撮影された〈音遊びの会〉の記録写真。メンバーの幼き頃の姿が写っている

スタート当初、人前で楽器を演奏したり、歌ったりすることなど考えられないといったメンバーたちも、さまざまな楽器に触れ、自分にとって心地いい楽器や表現を見つけていきます。17年という月日のなかで、さまざまな場数を踏み、彼ら彼女らは熟練ともいうべきミュージシャンやパフォーマーへと変化してきました。

現在のメンバー数は総勢約50名。月2回、地元・神戸を拠点に、即興の音楽セッションを中心としたワークショップを行っています。また、全国から公演の依頼もたびたび寄せられ、2013年にはイギリスにも遠征し、ツアーを敢行しました。

ステージで演奏する〈音遊びの会〉のメンバーの様子

2021年11月には、〈音遊びの会〉の黎明期から関わり、NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』や、大河ドラマ『いだてん』などの音楽を担当したことでも知られる大友良英さんをプロデューサーに迎えたアルバム『OTO』をリリース。会の活動はますます広がりをみせています。

さまざまな楽器がおいてあるスタジオのような部屋で、音楽家・大友良英さんが笑顔を見せる写真
音楽家・大友良英さんも映画に登場

ワンカットを撮るのに半年かかった監督の苦悩

「〈音遊びの会〉って、いろんな所でいろんなことが起こるので、どこを撮っていいかわからないんです」

『音の行方』の監督として、約1年間〈音遊びの会〉にカメラを向けてきた野田亮さんは、このように語ります。

感動的なセッションを生む時間もあれば、なんとなく興の乗らない時間もあるメンバーたち。ステージにあがる日も、リハーサルと本番とではまったく違うものになることもあります。そんな気まぐれなメンバーたちのパフォーマンスをどのように記録するべきなのか、野田さんはしばらく悩んでいたといいます。

カメラを回し始めたのは、京都でのライブに帯同した2021年1月頃。以前からワークショップに度々参加し、メンバーや、その親御さんとの関係を少しずつ築いてきてはいたものの、それでも映画の構想がいまひとつ掴めず、苦悩の日々が続きました。

3人の〈音遊びの会〉のメンバーが楽器を手にしている写真
野田さんの映画撮影への心境を変化させるパフォーマンスをみせた富阪友里さん(写真中央)

夏のある日、メンバーの富阪友里さんのにわかに高揚したパフォーマンスに遭遇。野田さんはその様子をカメラに収めながらようやく、〈音遊びの会〉の状況を撮るのではなく、自分が美しいと感じたものの記録でよいのかもしれない、と思えるようになったといいます。

「作品の最初に登場する三好佑佳さんのドラムのカットも、同じ日に撮れました。メンバーは常にあのテンションというわけじゃなくて、突然自分のありったけを出し始める。本当にフッと変わるんです。そういったワンカットや、自分が美しいと思えるものが撮れるまで半年くらいかかりました」

ドラムを演奏する女性の写真
体全体でリズムを刻む三好佑佳さん

彼ら彼女らと同じ目線でなければ、内面から放たれる表現を捉えることは難しいと感じ、とにかくメンバーに目線を合わせ、「撮っているぞ!」という姿勢を投げかけた撮影期間。それらに反応してくれるときもあれば、そうならないときもあったと、野田さんは振り返ります。

映画は9つの章で構成されています。メンバーによる即興演奏の様子や、親御さんへのインタビューなど、さまざまなシーンが登場しますが、〈音遊びの会〉を説明するような描写はありません。あるときは断片的に、音楽が立ち上がってくる様子や、野田さんが心動かされた瞬間が捉えられています。

メンバーが予測不能にみせるパフォーマンスを、メンバーとセッションするかのように向き合い、撮りためてきた野田さん。その熱意や、メンバーとのコミュニケーションの集積も、この映画から多分に感じられるはずです。

今後の上映&イベントについて

各地での上映はもちろん、映画の公開に合わせたイベントを予定している〈音遊びの会〉。

2022年10月16日(日)には兵庫県の〈三田市総合文化センター〉にて、「音遊びの会フェス『音の行方』」と題し、映画の上映・トーク・ライブと、約4時間にわたる3部構成のイベントを開催します。

トークには、監督である野田さんと、〈音遊びの会〉を長年見守り、自身の音楽創作活動にも大きな影響を与え続ける存在であると公言する音楽家・大友良英さんが登壇。

ライブでは、〈音遊びの会〉による即興演奏ライブを披露。映画やトークを楽しんだ後に観るライブは、メンバーの奏でる音やパフォーマンスをより鮮明に感じることができるはず。

たくさんのメンバーがセッションを行い、盛り上がる様子

10月22日(土)~28日(金)には大阪府大阪市の〈シアターセブン〉にて、10月28日(金)~11月3日(木)には京都府上京区の〈出町座〉にて上映が予定されています。

即興音楽とは何か。その概念を揺さぶるような〈音遊びの会〉の豊かな表現や湧き出るリズムを、ぜひ会場で体感してみてください。