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たたかない、怒鳴らない子育てへ。「ポジティブ・ディシプリン®」参加者の声からまとめた報告書を公開
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「2022 たたかない・怒鳴らない子育てを広めるために今できること」と記された、「声をきかせてプロジェクト」の報告書の表紙
養育者を支援するプログラム「ポジティブ・ディシプリン®」の、参加者の声を集めた「声を聞かせてプロジェクト」。調査をまとめた報告書が2022年12月に公開されました

広がりを見せる「体罰に頼らない子育て」のためのプログラム

2019年、児童福祉法などの改正により、子どもに対する「体罰の禁止」が定められました。

しかし、法律に明記されたとはいえ、大人がそれを十分に理解し、子どもへの向き合い方をすぐに変えられるかは別の問題かもしれません。実際に〈公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン〉が2021年に行った調査(PDF)では、日本社会の約4割の大人が「子どもへの体罰を容認している」という結果が報告されています。

子どもに対して愛おしさを感じつつも、予定通り・思い通りにいかないことが増えてくると、イライラや怒りの感情が芽生えてしまうことはあるでしょう。同じ調査によれば、実際に怒鳴ったり、たたいたりしてしまうケースもあることがわかります。

「グラフ17 あなたは過去3ヶ月にしつけのために次のことを子どもにしたことがありますか?」という質問事項に対する棒グラフでの回答図
『子どもの体やこころを傷つける罰のない社会を目指して─子どもに対するしつけのための体罰等の意識・実態調査結果報告書 2021年度版』(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)より引用

こうした「しつけ」と称された体罰がエスカレートし、悲しい事件となって報道されることもあります。誰もが体罰に頼らずに、大人と子どもの良好な関係を築くには、どのようにすればよいのでしょうか?

そのような問いに向き合い、子どもの人権に視点を当てながら、養育者側を支援するプログラム「ポジティブ・ディシプリン®」が、近年少しずつ広がりを見せています。さらなる普及を目指す〈NPO法人きづく〉は、2022年に「声をきかせてプロジェクト」を立ち上げ、プログラム参加者の声を報告書として公開。Web上で、誰でも閲覧できるようになっています。

たたかない・怒鳴らない子育て「ポジティブ・ディシプリン®」とは?

「ポジティブ・ディシプリン®」は、たたく・怒鳴るといったしつけに頼らず、子どもの健やかな成長や学ぶ権利を尊重し、子どもの行動を導くための子育ての「考え方」を学ぶプログラムです。

0~18歳の子どもを育てる人なら誰でも参加が可能で、講座は約18時間(2時間×9日間)。ファシリテーターの進行のもと、参加者がともに学び合い、話し合い、それぞれの子育てを振り返ります。

ポジティブ・ディシプリン®の標準プログラムの詳細が掲載された図
参加にあたっては、教材用に書籍『ポジティブ・ディシプリンのすすめ』(明石書店、1600円+税)を購入する以外、費用はかかりません。現在も、常時プログラムへの参加者が募集されています

本プログラムの背景には、国連の依頼により2006年に実施された「子どもに対する暴力」の調査・研究があります。世界中のあらゆる場所で、子どもたちが日常的な暴力にさらされていることが判明したその報告書では、「家庭における暴力をなくすためには“養育者を支援するプログラム”の開発が必要であり、それらのプログラムは文化的に適切で、人権と科学的根拠に基づいていなければならない」と提言されました。

子ども支援専門の国際NGO〈セーブ・ザ・チルドレン〉は、この問題に向けた取り組みに着手し、2007年、児童臨床心理学者のジョーン・E・デュラント博士とともに「ポジティブ・ディシプリン®」を開発。日本では2009年から〈セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン〉がプログラムの実施や、ファシリテーター養成などの普及活動を展開してきました。

2019年からは「チカラに頼らない社会=暴力のない社会」を目指す〈きづく〉に設置された〈ポジティブ・ディシプリン日本事務局〉に事業を移管。これまでに、全国の子どもを持つ養育者486名(2022年8月現在)が標準プログラムに参加してきました。

書籍『ポジティブ・ディシプリンのすすめ』の表紙のイメージ
「ディシプリン」の語源は「教える」という意味。子どもに大切なことを教えるための考え方を「ポジティブ・ディシプリン®」では伝えています

ちなみに本プログラムは、「このような時には、こうすればよい」といったハウ・ツーや、「子どもの権利」を教える場ではありません。子どもの行動の課題を場面ごとに特定し、それが生じた理由を考え、よりよい対応を養育者自身が見つけていくための思考方法を提案するものです。

ワークショップなどを通じて、子育ての道標となる「長期的目標」を定めたり、子どもの“気質”を共有しあったりすることで、「子どもと大人は違う」ということに気づき、実践のなかで「子どもの人権」の意味を体得していきます。

個人ワークに加え、少人数のグループに分かれて話し合う時間も多く、同じ思いの仲間に出会いやすいのもプログラムの特徴です。子育てをひとりで抱え込み、孤独感を感じている人の拠り所となることもあります。

子育てに今必要なもの、を調査した「声をきかせてプロジェクト」

2021年10月時点、世界36か国以上で実施されている「ポジティブ・ディシプリン®」。日本でもより広げていくべく、2022年、本プログラムを実施する〈きづく〉は、子どもの権利推進の活動を長く牽引してきた〈認定NPO法人 国際子ども権利センター(シーライツ)〉との協働で「声を聞かせてプロジェクト」を立ち上げました。

その理由は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、子どもが自宅で過ごす時間が増えたことから体罰・虐待の増加が懸念されたため。そんな時だからこそ、養育者のリアルな声から、「たたかない・怒鳴らない子育てへとつなげる養育者支援のあり方、子どもへの体罰の発生予防へ向けた具体的施策のヒントを得たい」と考えたといいます。

プロジェクトでは、これまでの「ポジティブ・ディシプリン®」の標準プログラムに参加した延べ500人から無作為に対象者20名を抽出。聞き取り調査を実施し、「‘今’こそ子育てに必要なものはなにか?」を分析しました。

プログラムに参加した養育者6人の声を掲載した1ページ
「声をきかせてプロジェクト」のなかで上がってきた、養育者の声

ヒアリングから見えてきたのは、子育ての軸となる考え方を学び、気づきを得ることのできる「場」を養育者が得ること。そして、その場が養育者の安心・安全な時間や空間として「継続的」に機能すること、という点でした。

養育者が子どもを尊重しながら向き合うには、まずは養育者を尊重する仕組みが不可欠である。「声をきかせてプロジェクト」が至ったその結論は、「ポジティブ・ディシプリン®」で実践してきた「養育者支援プログラム」の活動そのもの、といえるかもしれません。

調査・分析結果は、報告書『たたかない・怒鳴らない子育てを広めるために‘今’必要なこと(PDF/全28ページ)』として一般公開され、Webページよりダウンロードすることができます。

「声をきかせてプロジェクト」のこれから

同報告書には、プログラムに参加した養育者の子育ての日常、プログラム受講後の考え方の変化や実践、子育て経験を通して「あったらいいな」と感じたサポートのアイデアなど、養育者のリアルな「声」が掲載されています。「ポジティブ・ディシプリン®」に関心のある方はもちろん、「罰によらない子育てって、どんなもの?」と興味を持った方もぜひご一読ください。

また、〈きづく〉の代表理事・​森郁子さん、〈シーライツ〉の代表理事・​甲斐田万智子さんによる報告会の様子を動画で配信しているほか、2023年2月19日(日)には番外編としてプロジェクトに関する動画が配信されます。

2022年12月19日に行われたライブ配信「声を聞かせてプロジェクト報告会」の動画が公開されています

ここ数年のコロナ禍では、「ポジティブ・ディシプリン®」で生まれた養育者同士のつながりや「場」にも大きな制約が生じました。しかし、生活や環境に変化があったとしても、受講者がプログラムで得た「考え方」の適用可能性は下がらなかったといいます。この結果は注目すべき点ではないでしょうか。

たたかない・怒鳴らない子育てを広めるために今必要なこと――それは、日本全国で、子どもの権利と養育者の日々を応援するプログラムがあること、その「場づくり」が広がること、といえそうです。