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お米もアートも“そのまま”のお酒「等外米×トトふぉんと sonomama」富山県魚津で誕生!
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「sonomama」のチラシ画像。sonomamaの瓶と、コンセプト、米粒のイラストなどが入っている。

“そのまま”を詰め込んだ、新しいお酒「sonomama」

日本各地の酒蔵で、独創的で魅力的な「お酒」がさまざまに生まれています。雑誌で大きな特集が組まれることも多く、新銘柄の誕生や最新トレンドに注視している人も多いのでは?

立山連峰をはるかに望み、“天然のいけす”と称される富山湾すぐそばに位置する富山県魚津市。このまち唯一の酒蔵〈魚津酒造〉でもユニークな1本が誕生しました。

その名は「sonomama(そのまま)」。

このお酒のポイントは、日本酒の醸造には使われてこなかった「等外米(注1)」という等級のついていないお米を原料にしていること。この等外米を精米歩合90%(玄米のぬか部分だけを削った、いわば食べるお米と同じ状態)で仕込んだ、ほぼお米“そのまま”といえるお酒です。

「sonomama」の瓶の写真。
原材料は国産米のみ。等外米を使用しているため「日本酒」や「純米酒」とは名乗れないが、醸造法としては純米づくり。その味わいは、精米歩合の低いお酒にありがちなクセや雑味など一切感じられない、驚くべきクリアさ。米のふくよかな旨み、軽い酸、甘みのバランスがよく、冷・常温・ぬる燗でも楽しめる1本。一度口にすれば、食中酒として手放したくなくなるはず!

ポイントはもうひとつ。ラベルの文字には、富山県南砺市の多機能型事業所〈花椿かがやき〉で、障害のあるメンバーの刺し子から生まれた「トトふぉんと」が採用されています。

これらは偶然にも〈魚津酒造〉に寄り集まってきたモノ・コトばかり。それらを1本のお酒に集結させたのが「sonomama」です。

(注1)等外米とは、粒の不揃いなど、何かしらの理由ではじかれ、通常はせんべいやおかきなどに加工されたり、外食産業のご飯やお弁当にも使われることの多い、等級のついていないお米のこと。

たまたまのタイミングが重なって⁉

大正14年創業の〈本江酒造〉から継承し、2022年3月から事業再生に取り組む〈魚津酒造〉。「北洋」「越中懐古」など旧ブランド酒の維持のほか、全量“純米酒”醸造への転換、地元米の活用など地域の特徴・特性を持たせた酒づくり、ユーモアに富んだ商品展開などに着手しています。

大きな煙突のある魚津酒造の外観。蔵の横には鴨川と呼ばれる川が流れている。
「街から酒蔵の灯を消さない 酒づくりは街づくりである」をスローガンに、地域の伝統文化を支える酒蔵であることを目指す〈魚津酒造〉

そんな〈魚津酒造〉の酒づくりの方向性や品質を一手に担うのは、杜氏の坂本克己さん。かつて神奈川県職員として勤務していた頃、児童・介護の福祉分野に関心を持ち、のちに介護の任用資格「介護職員基礎研修」を取得。いつか福祉を絡めたお酒づくりをしたいと考えていたといいます。

そんな折、たまたまTVから流れてくる「シブヤフォント(注2)」の話題を耳にし、そこから派生した「トトふぉんと」の存在を知ります。

「なにかできないかな? とずっとモヤモヤ考えていたときにそのニュースが流れてきて、慌ててTVの前に座ったんですね。フォントならラベルにいける! と思ったんです」(杜氏・坂本克己さん)

翌日には会社に許可を得て、シブヤフォントに問い合わせ。さらに同じタイミングで、酒米の仕入れ先からたまたま「等外米」の案内を受けることに。

その等外米とは、新潟産コシヒカリを中心にブレンドされた食用米。一般的に酒づくりには向かないものの、たまたま同社には最新の室(むろ)設備が導入されており、魚津産コシヒカリなどによる酒づくりの前例が。等外米でもスッキリとしたキレイな味わいのお酒がつくれる自信があったといいます。

ほかにもさまざまな“たまたま”が重なり、社内でも理解が得られ、等外米酒の醸造許可が降りることになりますが……この時点では〈魚津酒造〉は事業継承したばかり。再建して1年も経たないうちにこのような企画に踏み切るとは! 同社のバイタリティーに驚くばかりです。

(注2)渋谷で暮らし、働く、障害のある人の描いた「文字」や「数字」を、東京都渋谷区で学ぶ学生がフォントとしてデザインしたパブリックデータ。近年はこのフォントづくりの仕組みを全国各地に導入する「ご当地フォント」も展開している。「トトふぉんと」もシブヤフォントから派生したご当地フォント「とやまフォント」のひとつ。

「トトふぉんと」の使用だけにとどまらなかった、福祉施設との関わり

富山湾に抱かれた魚津生まれのお酒をイメージし、青と白でまとめられた「sonomama」のラベル。デザインを担当したのは、トトふぉんとのデザインにも携わった、富山在住のデザイナー・山口久美子さん。そして、「sonomama」という銘柄案を出したのも山口さんだといいます。

さまざまな案がありましたが、ほとんど削らないお米が原料であること、障害のある人の表現からなるフォントを用いること、さまざまな“そのまま”をダイレクトに表す「sonomama」が銘柄に採用されました。

米粒のイラストと、「sonomama」のフォントが配されたポスター画像。

また、トトふぉんとに寄り添う丸の集合体も〈花椿かがやき〉に通所するメンバーによるイラストです。

じつはトトふぉんととは、「さしコンビ」こと、ヒトシさんとハルミさんという2人のメンバーによる刺し子から構成された文字。

アルファベットを縫い込んだ白い布を広げる、ヒトシさんとハルミさんの正面写真。
「トトふぉんと」の文字を担当した「さしコンビ」のヒトシさんとハルミさん

そのことを知った坂本さんは、メンバー全員がラベルに参加できる方法はないかと山口さんに相談。すると山口さんも同様のことを考えており、思いが一致。施設に相談し、全メンバーに米粒をイメージした“丸”を描いてもらうことになりました。

「あの場にいた利用者さん全員が描いてくれました。ひとり3粒お願いしたんですが、画用紙いっぱいに描く人、最終的にチャーハンになった人もいて(笑)。みなさん楽しそうに描いてくれて嬉しかったですね」(坂本さん)

トトふぉんとを通じて、施設や全メンバーとの関わりにまで発展した「sonomama」。米粒のイラストが、この1本にさらなる魂を吹き込んだと坂本さんはいいます。

〈花椿かがやき〉の全メンバーが描いた米粒を配した「sonomama」のポスター画像。

「企画物で終わった」とはいわせない

ところで、「sonomama」が仕込まれたのは2023年1月下旬。酒づくりに詳しい人なら「その時期に⁉」と驚くかもしれません。

一年のなかで最も寒い1~2月は、酒づくりに一番最適な時期。コンクールなどに出品する大吟醸や純米大吟醸などを仕込む重要な時期でもあります。「sonomama」はなんと、それらのお酒と同じタイミングで仕込まれたのだとか!

「僕らが一番神経を使う大吟醸などをつくる時期に、精米歩合90%という真逆のお酒をつい仕込んでしまって。早く世に出したい気持ちが急いてしまったんですね。当然、温度帯・手触り・進め方すべてが違うので『うわぁ、やばい!』って後悔しました(笑)」

それでも、大吟醸などに負けじ劣らず、気合いを入れて醸したのには理由があります。

「企画物で終わっちゃったよ、っていわれるのがものすごくつまんないし、おもしろくない。等外米を使うのもこの業界からすれば、変な米を使ってるよ、っていうノリなんです。それで安かろう悪かろうって思われたくなかった。さまざまな人の思いが集結したラベルに恥じないようなお酒にしたかったんです」(坂本さん)

2023年4月に解禁となった「sonomama」は、こだわりの日本酒を置く全国の酒販店で販売開始。現在は魚津市のふるさと納税返礼品にも選ばれ、オーストラリアへの輸出もスタートしています。

今後も通年商品として販売予定。売上の一部は〈花椿かがやき〉に還元されています。

白地に赤い波と「帆波」と書かれたラベルが貼られた「帆波 純米大吟醸 無濾過原酒 山田錦」の酒瓶の写真。
「sonomama」と同時期に仕込まれた「帆波 純米大吟醸 無濾過原酒 山田錦」は、市販酒のコンペティション「SAKE COMPETITION 2023」で銀賞を受賞。2023年、富山県内で賞を獲得したのは〈魚津酒造〉のみ

ほかにも、富山出身のアーティストと富山県酒造組合との合同による能登半島地震「復興2024ボトル」の販売や、独自の支援活動なども行っている〈魚津酒造〉。

お酒づくり以外にも、従業員にシングルファザー・マザー、18歳を迎え児童養護施設を出ることになった人を受け入れる体制の可能性など、企業としてできることはまだまだあるのではと、坂本さんは常にアンテナを張りめぐらせています。

ユニークなお酒づくりに加え、「ソーシャル・ファーム(社会的企業)」ともいえる取り組みを行う〈魚津酒造〉の今後の活動にぜひ注目を!