福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

カレンダー〈西淡路希望の家〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

今回のイッピンは、手描きの“数字”で構成された〈西淡路希望の家〉のオリジナルカレンダー。ユニークな仕掛けがあちらこちらに施されており、毎月めくるごとに楽しい発見や驚きが!

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表情豊かな手描きの“数字”と、独創的な仕掛けが楽しいカレンダー

カレンダーの表紙。1月から12月まで、それぞれの月で使われた手描きの数字でデザインされています。

このカレンダーに刷られているのは、ほぼ“数字”だけ。けれども、ひと月ひと月めくるごとのワクワク感があるんです。

ある月は、そこに枠があるなら完全にはみ出た大胆な数字の羅列。別の月は、……ん?「100日」がある!? また別の月は、数字の下に人の名前が。あっ、日付がプロ野球「オリックス・バファローズ」の選手の背番号とリンクしてる! 

大阪府東淀川区にある生活介護事業所〈西淡路希望の家〉が制作するオリジナルカレンダーの数字は、同事業所に通所するメンバーが描いています。ひと月ごとに1名のメンバーが数字を描き、12名の個性的な筆致で紙面が埋め尽くされています。

本来ならデザインソフトで消してしまうような染みも、クレヨンのこすれも、すべて受け止めて、丸ごと配置。数字が「3」に見えなくとも、「2」と「4」の間にあれば、おのずと「3」に見えてくる。そんな発見もおもしろい!

ひと月につき1名のメンバーが数字を担当。シンプルなデザインだからこそ「紙」にもこだわりが。めくる度に手触りや質感の異なりを楽しめるように、複数の種類の紙が採用されています

独特の世界感がたまらない! ユニークなものづくりも話題

1985年に開所した〈西淡路希望の家〉。障害のあるメンバーが、その人らしく働ける場所と機会を開拓・創出する事業所としてスタートしました。現在は約60名のメンバーが所属し、手織りや刺繍などのものづくりから、軽作業や清掃活動などを行っています。

また、 同事業所がつくるプロダクトには、〈スーパーハイパースペイシー〉というタグがつけられていますが、それはものづくりに対する哲学のようなものだと言います。“宇宙”をテーマにしたユニークな商品づくりで話題を呼び、独特の世界感にはまるファンも多数。「宇宙織」と名づけられた織物や、刺繍を施したユーモラスな雑貨の数々は、出合った人の心をわしづかみにしてやみません。

年に2回、事業所内で開催される「スーパーハイパースペイシー 宇宙市」は、近隣の飲食店や大学、関西エリアのさまざまな福祉事業所をも巻き込んだイベントとして定着。このような活動を通して、地域交流の輪を積極的に広げています。

〈スーパーハイパースペイシー〉の定番グッズ・プラ板バッジをつくる際に出た端材を再利用し、標本のように縫い込んだビニールバッグ。「福祉の世界にはポップさが足りない!」という思いと、「メンバーがつくる商品は日本一、世界一、いや宇宙一!」という思いから名づけられたブランド名。キャッチーで、独創性の高い商品ばかり。この世界感、なんだかクセになりそう
刺し子とパッチワークの融合がものの見事にコスモ感を漂わせている(?)、宇宙巾着。自分たちが欲しい! 持ちたい! と思える商品をつくるのが〈スーパーハイパースペイシー〉のコンセプト

多くのメンバーが描けるのは「絵」ではなく「数字」という閃き

〈西淡路希望の家〉のカレンダー販売は、メンバーへのボーナス資金獲得のために、毎年年末に行ってきた恒例事業。もともとは既製のカレンダーを仕入れて販売していましたが、もっと多くの人に購入してもらえるような、施設ならではのカレンダーを制作したいという声が上がり、2011年からオリジナルの制作が始まりました。

当初は、メンバーが描いたイラストや立体作品を加えたオリジナルカレンダーを制作し、好評を得るも、作品を採用されるメンバーに偏りが出るなどの課題がありました。そこで「絵」ではなく「数字」をメンバーに描いてもらうのはどうか、というアイデアが持ち上がります。

1月のカレンダーのアップ。
絵が描ける人は限られるけれど、数字を描けるメンバーは多くいる。そんなことから、カレンダーの制作がスタートして3年後には、手描きの数字を中心にしたデザインに切り替わりました。メンバーが描く数字の雰囲気や癖に見合った画材を用意するのも、スタッフの腕の振るいどころ

さまざまな種類のペンやクレヨン、大きさの違う紙をスタッフが用意し、「1」から「31」までメンバーに描いてもらうことに。乗り気で描く人、数字だけでなく絵も描いてしまう人、勢いあまって「32、33、34……」と描き進む人も。

なかには数字を描くのは難しいかもしれないというメンバーもいましたが、スタッフの懸念はなんのその。仲間たちの励ましのなかで「31」まで完遂し、事業所内で大きな感動が生まれたこともあったそう。

描かれた数字は、外部のデザイナーへそのまま託されます。どのメンバーの文字が採用されるかは、あくまでデザインの視点で選ばれるのだとか。仕上がってみてのお楽しみ……というところもポイントです。

今や、なにかしらの仕掛けが楽しみにもなっている〈西淡路希望の家〉のカレンダー。当初はインクの染みやクレヨンのこすれなどは取り入れなかったものの、年を追うごとにデザイナーの機転とアイデアでそのままデザインに生かされたりと、年々進化を遂げているようです。

4月のカレンダー。日付の数字の下に、とある球団の選手名が丁寧に書き込まれています。
2021年の目玉のひとつは、今年25年ぶりに優勝したあのチームファンのメンバーが描いた「4月」。日づけを背番号に見立て、27名の選手名が書き足されています。一番好きなT-岡田選手の背番号が55番なのが残念だったとのこと。ちなみに、野球の開幕に合わせて4月に配置されています

メンバーによる個性豊かな数字、スタッフの工夫、デザイナーの遊び心。それらが融合したカレンダーは毎年好評を博し、2021年は800部が完売するほどの大人気商品となりました。

9作目となる2022年版の一番の見どころは、謎めいたイラスト入りの「12月」。どんな紙面かは実際に見てのお楽しみ。ほかにも、ゾロ目好きなメンバーが担当した月や、数字が小さくて薄くて読めない(!?)ような月、顔文字世代と思われるメンバーが描いた月など、例年にも増して自由度満載です! さらに、郵送の場合、メンバーの手描きイラストが施された1点もののケースに封入してお届けします。

毎月楽しみをもたらしてくれる〈西淡路希望の家〉のカレンダー、ご自宅にひとついかがでしょうか?