福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

"ビーン・トゥ・バー"チョコレート〈kiitos〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

今回のイッピンは、原材料もクオリティも一切妥協なしの鹿児島発のチョコレートブランド〈kiitos〉。さまざまなこだわりと実践で、スタートから5年で北海道から鹿児島までの多くの店舗で扱われるチョコレートに。そのものづくりの思いとは?

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妥協なしの品質とデザインで勝負する! “メイド・イン・鹿児島”のクラフトチョコレート

心をパッと明るくする北欧のテキスタイルのような、コレクションしたくなる鮮やかなパッケージ。正三角形の頭をちょこんとカットした愛嬌のあるその形。包み紙を破らないようにそっと開封すると、スイートかつビターな香りを放つ15ピースのチョコレートがお目見え。

一片を舌の上でゆっくりと溶かすと、甘み、苦み、濃密な香りが穏やかに押し寄せ、ほのかな酸味も舌に広がります。厳選されたカカオ豆がなす、チョコレート本来の味わいと香りを楽しめる“メイド・イン・鹿児島”のチョコレートが今回のイッピンです。

鹿児島県鹿屋市でオリジナルチョコレートを製造する〈kiitos(キートス)〉。就労継続支援B型事業を運営する、特定非営利活動法人〈Lanka(ランカ)〉が2017年にスタートさせた“ビーン・トゥ・バー”のチョコレートブランドです。

ビーン・トゥ・バーとは、カカオ豆の状態からチョコレートが完成するまでの全工程を一貫して手がけること。〈kiitos〉でも豆の選別・焙煎・粉砕・調温・成形・包装に至るまで、管理・製造のすべてを自社で行っています。

「Kiitos」とは、フィンランドで「ありがとう」を意味する言葉。原材料の生産者、チョコレートづくりに携わるメンバー、購入してくれた方への感謝の気持ちを込めたネーミングなのだとか。そしてこの形状、鹿児島のシンボル「桜島」がモチーフになっています

使用するカカオ豆は、さまざまな産地の豆を試し、自分たちがおいしいと感じたもの、そして栽培方法がわかっているものを基準にセレクトしています。

〈kiitos〉のチョコレートの原材料は、カカオ豆と有機栽培のキビ砂糖のみ。産地ごとの豆のよさが出るように、ロースト時間や温度を変えたり、砂糖を入れるタイミングを変えたりと、試行錯誤を重ねてきたのだそう。ふたつの材料だけで、こんなにも豊かな味わいが生まれるのか! と、チョコレートの奥深さに驚かされます。

カカオ豆のすり潰しを粗くしたことによりサクサクとした食感が楽しめる「クランチタイプ」と、口溶け滑らかな「スムースタイプ」の、食感の異なる2つのチョコレートを製造。同じ豆にもかかわらず、磨砕(まさい)の加減で鼻に抜ける香り、甘み・苦み・酸味の感じ方まで変わるなんて、不思議!

メンバーの夢にも寄り添うチョコレートづくり

2010年、障害のある人たちの就労訓練の場として設立された〈Lanka〉。エアープランツや多肉植物の量産・生育などを請け負ってきましたが、同じものづくりであるならば、施設のオリジナル商品の制作にもチャレンジしてみようということに。

せっかくなら、それぞれの得意が生かせ、ほかの施設と被らず、皆で楽しみながら、おもしろいものをつくりたい。そんななかで出てきたアイデアが、ビーン・トゥ・バーのチョコレート製造でした。

とあるクラフトチョコレート工房に見学を申し込み、スタッフが訪問。その工房は、ミュージシャンという別の顔を持つ代表がスタートさせたブランドということもあってか、工房内では従業員たちもチョコレートをつくりながら、楽しそうに歌ったり踊ったりする姿が。

そこで見た光景は〈Lanka〉が目指す「皆でものづくりを楽しむ場」と重なって見えたそう。工房の責任者に自分たちの思いを打ち明けると、快くチョコレートのつくり方を教えてもらえることになりました。

施設でのチョコレートづくりが始まると、工程の多い作業には、各メンバーの得意を生かせる仕事がたくさんあることに気づきます。早いスピードと集中力でカカオ豆の皮を取り除く人、計量が得意な人、正確に時間を計る人、スイッチボタンを押すのが好きな人、包装が得意な人。それぞれが持つ特性を自然と生かせるものづくりの場になっていきました。

チョコレートの製造に携わらなくとも、パッケージのイラストを描くことで参加するメンバーがいます。また、翻訳家になりたいという夢を抱くメンバーには、カカオ豆の買いつけ時に通訳として同行してもらう構想も。

今では、ひとつひとつの作業をメンバーに任せられるようになり、さらにはメンバー同士で教え合う環境が生まれ、スタッフが手や口を出す余地もないほどなのだとか。

障害のある人がつくったものではなく、鹿児島発のチョコレートブランドというプライド

1枚100円程度で買えるチョコレートがあるなかで、〈kiitos〉のチョコレートは1枚800円以上。多少値は張っても、その商品に価値を見出して購入する人はたくさんいます。その付加価値はなにかと〈kiitos〉は考えてきました。

絵が得意なメンバーの作品を包装紙に採用し、外部のデザイナーを交えて、消費者が手にとりたくなるようなデザインにすること。原材料や作業工程に見合った適正価格をつけること。バザーなどではなく、一般市場で流通される販路を積極的に見つけ、販売すること。

それらを貫いてきた今、北海道から鹿児島までの多くの店舗で取り扱われ、さらにはファッションブランド〈ミナ・ペルホネン〉とのコラボレーションなども実現してきました。

これまでも、これからも、“障害のある人がつくったチョコレート”として売るつもりはないという〈kiitos〉。原材料もクオリティも一切妥協なしの“鹿児島発のチョコレートブランド”というプライドを持ち、生産者・つくり手・食べる人、それぞれが「笑顔」になれるものづくりを実践しています。

チョコレートづくりに生きがいを感じ、〈kiitos〉の正社員として働くメンバーも多いのだとか

〈kiitos〉の工房は、海に最も近い小学校といわれた〈旧・鹿屋市立菅原小学校〉を再利用した校舎の中にあります。透明度の高い海、遠くには桜島、側には青々とした山と、自然いっぱいのロケーション。さらに、校舎に寝泊まりできる全室オーシャンビューの宿泊所〈ユクサおおすみ海の学校〉もあります。鹿児島を訪れた際には、工房見学と宿泊を兼ねて、訪れてみてはいかがでしょうか。