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福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

辻太郎招福くまで〈studio COOCA〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

今回のイッピンは、さまざまな縁起物、海洋生物、神様、「千億万欲しい」という真っ直ぐなメッセージなどがコラージュされた「辻太郎招福くまで」。購入した人からさまざまなご利益の報告が寄せられるという、願いが叶う(かもしれない)「縁起熊手」をご紹介します。

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ご利益たっぷり? 海洋生物の未来も願う、招福くまで

関東エリアを中心に、11月初旬から開催される「酉の市」。名物の「縁起熊手」を購入し、翌年の商売繁盛を祈願する初冬の風物詩です。

神奈川県平塚市にある〈studio COOCA(スタジオクーカ)〉でも、ちょっとした話題を呼ぶ「縁起熊手」が制作されています。その名は「辻太郎招福くまで」。手がけているのは同施設に通所するメンバー・辻太郎さん(本名:伊藤太郎さん)。2012年から〈スタジオクーカ〉に所属し、自分の作品を商品化したいとスタッフに名乗り出ます。試行錯誤の末に完成したのが、今回のイッピン。

主にイベント等に向けて制作されてきましたが、人気商品につき現在は常時2種類を販売。定番の「辻太郎招福くまで」には、招き猫、鯛、矢羽、菊といった縁起物が散りばめられています。さらにコロナ禍をうけて制作された「厄除桃&疫病退散アマビエくまで」には、妖怪アマビエのほか、中国で仙果と呼ばれる桃がモチーフに。

「千億万欲しい」という純粋なる願いを前面に配した、クスッと笑いを誘う熊手。招き猫の下にいるのが「辻太郎」。辻太郎さんがとある漫画のキャラクターから着想を得て制作した、交通安全を祈願する神様なのだとか

さらに年明けから販売されるバレンタイン限定の「恋愛成就くまで」には、天使のほか、辻太郎さんがこよなく愛するイルカやシャチなどの海洋生物が描かれています。そしていずれの熊手にも、定番の「おかめ」の代わり(?)に「辻太郎」と名づけられた某漫画のキャラクターがチラッと顔をのぞかせます。

ポップな色使いと、いくつもの縁起物、そしてユーモラスな神様。なんだか笑顔を誘い、元気を与えてくれる熊手です。

年明けから販売開始となる、バレンタイン限定の「恋愛成就くまで」。幸せ一番!

好きなこと、得意なことで、なにして食うか

〈スタジオクーカ〉は、2009年に設立された障害福祉サービス事業所。知的・精神・身体に障害のある人が100名ほど所属し、2箇所のアトリエで、常時約60~70名が絵画、立体作品、オリジナル雑貨などを制作したり、紙芝居や人形劇、パフォーマンス活動を行ったりと、さまざまな創作に取り組んでいます。

同施設の活動理念は、メンバーの好きなことや得意なことで活躍できる場をつくり、最終的に仕事につなげること。施設名の〈クーカ〉とは、「なにして食うか」をテーマにしたネーミングになっています。

その思いを体現しているのが、この事業所の賃金支払いシステム。メンバーの工賃額を増やすことは大きな課題となっていますが、こちらではオリジナル商品の売り上げの半分は作家に還元され、二次利用の商品はメンバー全員に分配するという、独自の取り組みが行われています。自分の力で賃金アップを実現できることにやりがいを感じるメンバーも多くいるようです。

段ボールにアクリル絵の具やペンで各パーツを描き、それを切り抜いて、コラージュ。完成した熊手を袋に詰め、自筆の閉じ紙で封をするまで、辻太郎さんの完全なる一人体制で生産されています

辻太郎名物! 口上&一本締め

「辻太郎招福くまで」が人気を博す理由は、商品自体の魅力に加え、今や名物となった辻太郎さんの「口上」と「一本締め」にもあります。

商品をただ並べて売るのではなく、自分で宣伝したかったという辻太郎さん。イベントで「きよしこの夜」のメロディーにあわせたオリジナルソングを自ら歌って宣伝販売したところ、瞬く間にお客さんの心を掴み、〈スタジオクーカ〉の中でもダントツの人気商品に登りつめます。さらにお客さんからご利益の報告があると、その内容を歌に盛り込み、辻太郎さんの「口上」として定着していきました。

今では、熊手を購入してくれた方に向けた口上と一本締めが定番化。辻太郎ファンは年々増加し、イベント時には辻太郎さんを目掛けて訪れるファンも多いのだとか。


Youtubeでは、辻太郎さんの「口上」のほか、「ご利益ご報告」「一本締め」を見ることができます

 

さらにこの熊手、さまざまな願いを成就してくれるともっぱら評判。商売繁盛はもちろん、「受験に受かりました」「いなくなった犬・猫がみつかりました」「子どもができました」「小銭をみつけました」などなど、そのご利益は多種多様!

なかには業績が伸び、毎年注文してくれる企業も少しずつサイズアップし、2020年はなんと数十万円で購入してくれたのだとか!

「辻太郎招福くまで」の背景にある、切なる願い

幼いころに海洋生物の魅力に引き込まれたという辻太郎さん。特にシャチが大好きで、世界の分布や、国内水族館のシャチの名前や年齢、血縁関係まで正確に記憶するほど。「恋愛成就くまで」には、躍動感たっぷりのつがいのシャチが組み込まれています

「辻太郎招福くまで」には、辻太郎さんの動物博愛の精神に基づく、さまざまな思いが詰まっています。自身の作品を商品化したいと名乗り出たのは、自ら稼いだお金で水族館に出向き、幼少期からこよなく愛する海洋生物に会いたいという思い。

そして「熊手」を制作する理由には、海洋プラスチック問題によって海の動物が絶滅の危機にあると知った辻太郎さんの、海洋汚染を食い止めたいという願いも込められています。

お茶目でありつつも、深い愛とメッセージの込められた辻太郎さんの熊手。そんな辻太郎さんと熊手を愛し購入する人にも、神様は慈しみと微笑みをもって幸せを届けてくれるのかもしれません。