福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

消防ホースのアップサイクル・プロダクト〈cloud 9〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

「消防ホース」をはじめ、目新しい廃材を活用したアップサイクル・プロダクトを制作する福祉事業所〈N-STAGE〉のブランド〈cloud 9〉。ゆったりとした時間が流れるものづくりの場で、地域住民などの意見を取り入れながら、さまざまなアイデア商品を手づくりしています。

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火災現場で活躍したのち、新たなプロダクトに生まれ変わる「消防ホース」

独特のデザインラインが入った帆布と、味わいのあるユーズド感。中を覗いてみると、なぜか緑色のコーティングが。「あれ? これって……」と、その素材がなんであるかに気づけるのは、消防署職員や消防ファンなど、ほんの一部の人だけではないでしょうか。

今回のイッピンは、火災の現場で活躍してきた「消防ホース」をアップサイクルしたトートバッグ&長財布。その素材からしてとにかく丈夫。耐水・耐久性に優れ、経年変化も楽しめる一品です。

そもそも「消防ホースってこんなデザインだったんだ!」と、しげしげ眺めたくなる珍しさ。友人知人に「このバッグ、実はさ……」と明かせば、おもしろい反応が返ってきそう!

がっしり丈夫な長財布。お札、小銭、カード類がたっぷり入ります!

アップサイクル・プロダクトとしての可能性を感じた「消防ホース」

この商品を手掛けるのは、青森県弘前市の特定非営利活動法人〈team.Step by step〉が運営する、就労継続支援B型事業所〈N-STAGE〉のブランド〈cloud 9〉。

児童デイサービス事業として2012年に〈team.Step by step〉が設立され、そのサービスを利用していた子どもたちの働く先として〈N-STAGE〉が誕生しました。現在は地域で生活する方々も受け入れながら、地域密着型の事業所としてさまざまな活動を行っています。

なかでもメインの活動は「ものづくり」。他施設では制作されていないような、少しニッチな商品を手掛けたいと、あらゆるプロダクトをサーチ。そんななか、偶然インターネットで見かけ、その素材感、デザイン、目新しさに可能性を感じたのが「消防ホース」でした。

トートバッグの内側は耐水加工のゴムでコーティング(一部コーティング無しのバッグもあります)。トートバッグの商品化には東京都吉祥寺にある福祉発プロダクトのセレクトショップ〈マジェルカ〉も関わっており、販売は〈team.Step by step〉と〈マジェルカ〉のみとなっています

消防ホースは、過酷な現場で使われることが多いため、毎年必ず入れ替えが行われる消耗品。〈N-STAGE〉のスタッフが弘前地区の消防事務組合に問い合わせたところ、廃棄するものが新しい商品に生まれ変わるなら協力したい、と快諾してくれたといいます。

細部までこだわり抜くものづくり

譲り受けた消防ホースをプロダクトにするといっても、とにかく丈夫な素材のため、商品づくりは簡単ではありません。

時間をかけてホースを丁寧に洗浄。その後、型紙に沿ってラインを引いて裁断し、工業用ミシンが扱えるメンバーが試行錯誤しながら時間をかけて縫製。その硬い素材に縫い針も度々折れてしまうのだとか。

トートバッグや財布のほかにも、キーケース、キーホルダー、リュック、ショルダーバッグなどにも加工され、捨てる部分は殆どないという消防ホース

さらに、カットした部分の帆布のほつれやコーティング部分の手触りをよくするために糊づけをし、ひとつひとつ手でやすりがけ。それらの工程をメンバーそれぞれが得意な作業で携わります。

制作のなかで最も難しいのが、ミシンでの縫製作業。現在は2~3人のメンバーが担当していますが、「ミシンをやってみたい」という若い女性メンバーも特訓中。そんな練習風景をミシン担当のメンバーがあたたかな目で見守り、ときには「こうしたらいいよ」と助言することも。メンバー同士でフォローし合う関係が生まれています。

制作に時間がかかるため、年間に制作する点数はトートバッグで約20点、長財布は30点ほど。カラーはホワイトやレッドのほかにも、グリーン、ブルー、イエローなども展開

工房内には地域のFMラジオが流れ、担当の持ち場で「この曲好きなんだよな〜」と音楽に合わせて口ずさむメンバーも。各々のペースでゆったりと作業が進められています。

そんな居心地のいい場づくりを意識し、メンバーそれぞれの得意分野と作業の習熟度を見ながら支援するスタッフたち。それらがうまく重なり合ったとき、メンバーが見せる笑顔がスタッフの大きな力になっているといいます。

「消防ホース」以外にもリユースしているものとは?

消防ホースのプロダクト以外にも、さまざまなアップサイクル品を手掛けている〈N-STAGE〉。民家を解体した際に出る木材や雪囲いなどを譲り受けたり、海で流木やシーグラスを拾ったりして、木工雑貨やアクセサリーなどに加工しています。

また、事業所で請け負っている作業のなかで「こんなものがあったらいいな」というアイテムも臨機応変に手づくり。リンゴ農場での葉取り作業用に、廃材で出た車のエアバッグやシートベルトでサコッシュをつくり、摘みとった葉っぱを入れるバッグにしているそう。

地域住民からも「今こんな商品が人気らしいけど、つくってみたら?」という声が掛かったり、取り扱いショップから出たアイデアやアドバイスを反映させたりすることも多々。ほかでは見かけないような商品の開発と、既存商品のアップデートを重ね、“よりよいものづくり”に力を注いでいます。

「cloud9」とは〈N-STAGE〉のブランド名。空に浮かぶ雲には9つの層があり、最上部である9層目が最も純度が高いのだとか。そんな良質なものづくりをするブランドであることを意味するネーミングです

〈N-STAGE〉が手掛けるさまざまなアップサイクル・プロダクトは、月に一度の弘前市役所内にひらかれる展示ブースや、地域の出展イベントなどで販売されています。素材もデザインもユニークな商品たちに、きっと心動くはず。

また、消防ホースのトートバッグ&長財布は、東京都吉祥寺のセレクトショップ〈マジェルカ〉でも購入が可能です。お近くの方はぜひ訪ねて手にとってみては?